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整理整頓しかできない俺、異世界では世界の法則まで片付けられるようです  作者: ももにく


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第9話 扉の向こう


扉は、地面からゆっくりとせり上がっていた。


高さは十メートルほど。


石でできているように見えるのに、表面には一切の傷がない。


そして中央には、俺のスキルと同じ紋様。


【整理】


「……これ、絶対普通じゃないよな」


「普通じゃないどころか……」


エリスが扉を見上げる。


「私はこんな遺跡、見たことがない」


「王都の魔法学院でも?」


「古代遺跡についてはかなり勉強したけど、こんなものは資料にもなかったわ」


リナも怯えたように扉を見る。


「村では、ずっと森の奥に遺跡があるって言われてた」


「昔から?」


「うん。でも、誰も近づかなかった」


「どうして?」


「近づくと魔物が暴れるから」


なるほど。


つまり。


この遺跡が原因で、森の魔物が狂っていた可能性が高い。


俺は扉に近づいた。


すると。


腕の黒い紋様が、また光る。


「レン、待って」


エリスが俺の腕を掴む。


「危険かもしれない」


「分かってる」


「なら――」


「でも」


俺は扉を見る。


「この扉、俺を待ってる気がする」


「……え?」


自分でも変なことを言っていると思う。


だけど。


なぜか分かった。


この扉は、俺が触れることを前提に作られている。


そんな感覚があった。


「……触ってみる」


「本当に大丈夫?」


「たぶん」


「その『たぶん』が怖いのよ」


俺は石の扉に手を置いた。


瞬間。


――カチッ。


小さな音がした。


【認証開始】


「……認証?」


【権限確認】


【適合率:99.999……%】


【管理者権限を確認】


「管理者?」


俺が呟いた瞬間。


扉が開いた。


ゴゴゴゴゴ……。


重い音を立てながら、巨大な扉が左右に分かれていく。


その奥には。


真っ暗な階段が続いていた。


「……開いちゃった」


エリスが呟く。


「うん」


「どうする?」


「行くしかないだろ」


「やっぱりそう言うと思った」


エリスはため息をついた。


それでも、俺の隣に立つ。


「私も行く」


「危ないよ」


「だからよ」


「え?」


「あなた一人で行かせたら、絶対何かやらかすもの」


「ひどくない?」


「事実でしょう?」


リナも続いた。


「私も行く」


「リナは村の人たちを――」


「村を救うために来たんだもの」


強い目だった。


俺はそれ以上、止めなかった。


三人で階段を下りていく。


一段。


また一段。


しばらくすると。


壁に明かりが灯った。


青白い光。


魔石のようにも見える。


「魔法式……?」


エリスが壁に近づく。


「違う」


「え?」


「これ、魔法じゃない」


「じゃあ何?」


「分からない」


珍しくエリスが困った顔をした。


俺は壁を見る。


【対象:照明装置】


【状態:正常】


【構造:魔力循環式】


「魔力で動いてるみたいだけど」


「それだけじゃないわ」


エリスが首を振る。


「この魔力の流れ……今の魔法理論とは全然違う」


「昔の魔法?」


「たぶん」


そのまま進む。


やがて。


大きな部屋に出た。


中央に巨大な円形の台座がある。


その周囲には、無数の文字が刻まれていた。


「……何これ」


俺が近づく。


【古代文字】


【分類:記録】


【一部欠損】


【修復可能】


「修復可能?」


俺は台座に手を触れた。


「整理」


――パァァァッ。


文字が光る。


欠けていた部分が、次々と埋まっていく。


「……え?」


エリスが息を呑む。


「文字が……」


「戻った」


俺にも驚きだった。


物を修理するのと同じ。


ただ、今回は文字そのものを整理した。


「読める?」


エリスが文字を追っていく。


「……古代語だけど」


「分かる?」


「少しなら」


エリスは目を細めた。


そして。


顔色が変わった。


「これ……」


「何?」


「この遺跡は、魔王や神を封印するための場所じゃない」


「じゃあ?」


エリスが震える声で答えた。


「世界の魔力を管理するための場所みたい」


「世界の魔力?」


「ええ」


台座の文字を読み進める。


「魔力は本来、世界中を循環している」


「うん」


「でも……何かの原因で、その流れが乱れることがある」


俺の胸がざわついた。


「乱れ……」


「そう」


エリスが続ける。


「この遺跡は、その乱れを修正するために作られたみたい」


「じゃあ、今は?」


沈黙。


エリスは台座の奥を見る。


そこには一本の亀裂があった。


黒い光が漏れている。


「……壊れてる」


「やっぱり」


俺は近づいた。


すると。


【対象:世界循環制御装置】


【状態:破損】


【破損率:37%】


【修復可能】


「……直せる」


「え?」


エリスが振り返る。


「この遺跡、直せるみたい」


「本当に?」


「うん」


俺は台座に手を置いた。


でも。


その瞬間。


【警告】


【修復を開始すると、封印領域が開放されます】


「……」


手が止まる。


「どうしたの?」


「修理すると、何かが出てくるみたい」


「なら、やめましょう」


即答だった。


リナも頷く。


「村を救うために来たけど、もっと大変なことになったら……」


「そうだよな」


俺は手を離した。


その瞬間。


――ドクン。


地下深くから音がした。


「……今の何?」


エリスが周囲を見回す。


――ドクン。


また。


今度は明らかに近い。


そして。


台座に刻まれていた文字が一つだけ赤く光った。


【封印維持率】


【12%】


「十二……?」


俺が呟く。


その数字が。


ゆっくりと。


11%へ変わった。


「レン……」


「うん」


エリスの声が震えている。


俺たちは誰も動けなかった。


封印が。


今も壊れ続けている。


そして。


俺の頭の中に、新しい表示が浮かんだ。


【世界の乱れを検知】


【原因候補:複数】


【根本原因:不明】


【整理対象を選択してください】


俺は表示を見つめる。


初めてだった。


スキルが。


俺に選択を求めてきた。


「……整理対象を選択?」


選択肢が現れる。


【魔力循環】


【封印】


【遺跡】


【黒い干渉】


そして。


一番下に。


もう一つだけ。


文字があった。


【????】


「……これ、何だ?」


【警告】


【選択した対象によって、世界の構造が変化する可能性があります】


俺は黙った。


今までの整理とは違う。


ゴミを分ける。


壊れた物を直す。


魔物の魔力を整える。


そんなものとは。


明らかに違う。


もしここで間違えたら。


本当に。


世界そのものが変わる。


「……まだ、整理しない」


俺は手を引いた。


「まず調べよう」


エリスが頷く。


「そうね」


その直後。


背後から。


――カツン。


足音がした。


「……?」


三人で振り返る。


誰もいない。


「今、誰かいたよね?」


リナが小声で言う。


「うん」


俺は階段の方を見る。


そこには。


黒いローブを着た人影が立っていた。


顔は見えない。


ただ。


その人物の手には。


俺のものと同じ紋様が刻まれていた。


「……整理する者が、二人?」


その人物はそう呟いた。


そして。


暗闇の中へ消えた。

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