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第64話 世界より前の約束
記憶が。
一気に押し寄せてきた。
何もない場所。
世界もない。
時間もない。
名前すらない。
そこに。
俺はいた。
いや。
「俺」と呼べる姿ですらなかった。
一つの小さな光。
そして。
その隣に。
もう一つの光。
「……お前」
目の前にいる女性を見る。
「ユナ……?」
違う。
ユナではない。
アリアでも。
エリスでも。
ミラでもない。
けれど。
全部の面影を持っている。
彼女は。
微笑んだ。
「私は」
「まだ名前を持っていなかった」
「じゃあ」
「なんで」
俺は。
胸の奥を押さえる。
「俺は」
「お前を知ってる?」
「約束したから」
「何を?」
彼女は。
静かに手を差し出した。
『もし』
『世界ができても』
『世界が終わっても』
『一人にはならない』
俺は。
その手を握っていた。
「……」
記憶の中の俺が。
言う。
『俺が』
『君を見つける』
彼女が笑う。
『じゃあ』
『私も』
『あなたを見つける』
そこで。
世界が生まれた。
最初の願い。
『誰かと、一緒にいたい』
アリアが生まれ。
ミラが世界を作り。
エリスが。
その願いと世界の接点として生まれた。
でも。
それだけではなかった。
世界が生まれるとき。
もう一つ。
小さな構造が。
世界の外へ流れた。
それが。
ユナだった。
「……」
俺は。
呆然とする。
「ユナは」
「最初の約束?」
彼女が頷く。
「そう」
「願いになる前の」
「約束」
「じゃあ」
「俺とお前が」
「最初だった?」
「うん」
俺は。
頭を抱える。
今まで。
俺はずっと。
「自分が世界に呼ばれた」
と思っていた。
違った。
俺は。
世界が生まれる前から。
誰かを選んでいた。
そして。
その選択から。
すべてが始まった。
「でも」
俺は。
ふと疑問に思う。
「なんで俺は」
「地球に行った?」
彼女は。
少し寂しそうに笑った。
「あなたが」
「自分で選んだから」
「俺が?」
「うん」
「世界の中で生きる未来を」
「一度」
「経験してみたいって」
俺は。
記憶を見る。
世界。
地球。
普通の生活。
笑った。
泣いた。
働いた。
失敗した。
恋もした。
そして。
誰かを助けた。
道端のゴミを拾った。
壊れたものを直した。
「……」
彼女が。
言う。
「あなたは」
「世界の中で」
「自分が何を大切にするのか」
「知りたかった」
「だから」
「私は待った」
「ずっと」
俺は。
地球で出会った少女を見る。
「じゃあ」
「お前は」
「ずっと」
「俺を待ってた?」
「うん」
「でも」
「俺は」
「忘れてた」
「それでも」
彼女は笑う。
「約束は」
「忘れたら消えるものじゃないよ」
胸が。
熱くなる。
そのとき。
背後から。
エリスの声がした。
「蓮」
振り返る。
エリスが。
少しだけ笑っている。
でも。
その瞳には。
寂しさがあった。
「……エリス」
「分かってる」
「何が?」
「あなたが」
「世界より前から」
「誰かと約束していたこと」
俺は。
何も言えない。
エリスが。
一歩近づく。
「でも」
「私も」
「あなたと出会ってから」
「私の人生を」
「自分で選んできた」
「……」
「だから」
「昔の約束に」
「負けたくない」
俺は。
目を見開いた。
エリスは。
笑った。
「私は」
「今の私だから」
「蓮の隣にいたい」
その言葉に。
胸が締め付けられる。
ユナも。
エリスを見る。
そして。
微笑んだ。
「うん」
「それがいい」
「え?」
「私は」
「蓮が昔選んだ約束」
「あなたは」
「蓮が今選んでいる未来」
エリスが。
少し驚く。
「……」
「だから」
ユナは。
俺を見る。
「比べなくていい」
俺は。
息を吐いた。
ずっと。
心のどこかで。
何かを選ばなければならないと思っていた。
でも。
違う。
過去と現在は。
どちらかを消すものじゃない。
俺は。
二つの時間を。
両方。
自分の人生として受け入れる。
【自己整理】
【過去】
【現在】
【共存】
【承認】
新しい文字が浮かぶ。
【始原整理】
【最終定義】
俺は。
それを見る。
『整理とは』
その続きを。
俺自身が入力する。
『捨てることではない』
『戻すことでもない』
『選んだものを大切にし』
『選ばなかったものも消さず』
『今あるものを』
『今の場所で生かすこと』
文字が。
光になった。
そして。
世界の外側すべてに。
広がっていく。
その瞬間。
巨大な目の声が。
響いた。
『……それが』
『お前の答えか』
「そうだ」
『なら』
『最後の整理を』
『始めよう』
「最後?」
巨大な目が。
ゆっくり開く。
『世界の外側に』
『最後に一つだけ』
『残っている』
「何だ?」
『始まる前から』
『ずっと』
『整理されなかったもの』
空間の奥に。
巨大な黒い塊が現れる。
それは。
世界でも。
生命でも。
願いでもない。
【構造なし】
【定義なし】
【選択なし】
【名前なし】
俺は。
その存在を見る。
「……これ」
ユナが。
小さく呟く。
「私たちが」
「最初に」
「捨てたもの」
アリアが。
息を呑む。
ミラも。
顔を青ざめる。
そして。
黒い塊の中から。
声がした。
『私は』
『何も選ばれなかった』
『最初の存在』
俺は。
ゆっくり前へ出る。
「名前は?」
『ない』
「じゃあ」
俺は。
手を伸ばす。
「名前から」
「整理しよう」
黒い塊が。
初めて。
震えた。




