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第63話 選ばないという選択
『私は』
『「何も選ばない」という可能性』
少女は。
そう言った。
俺は。
しばらく何も言えなかった。
「何も選ばない?」
『そう』
「それって」
「可能性なのか?」
『もちろん』
少女は。
笑った。
『選ばなければ』
『失敗しない』
『傷つかない』
『誰かを失わない』
『誰かを選ばなくて済む』
「……」
『何も決めなければ』
『何も間違えない』
その言葉は。
妙に胸に刺さった。
確かに。
そうかもしれない。
選ばなければ。
失敗しない。
一歩踏み出さなければ。
転ぶこともない。
誰かを大切にしなければ。
失う怖さもない。
「でも」
俺は。
少女を見る。
「それじゃ」
「何も始まらないだろ」
『そう』
少女は。
嬉しそうに笑った。
『だから』
『私は』
『お前が』
『最後に向き合う存在』
「……敵なのか?」
『違う』
「じゃあ何?」
『問い』
その瞬間。
周囲の無数の未来が。
消えていった。
残ったのは。
俺たちだけ。
エリス。
リナ。
アルベルト。
フェンリオス。
ノア。
ミラ。
アリア。
ソラ。
ユナ。
そして。
俺。
『お前は』
『今まで』
『たくさん選んだ』
『世界を救うこと』
『誰かを助けること』
『仲間といること』
『世界へ帰ること』
『私を残すこと』
ユナが。
俺を見る。
『でも』
『全部を選ぶことはできない』
「……」
『何かを選べば』
『何かを選ばないことになる』
『それでも』
『お前は選ぶ?』
俺は。
少し考えた。
そして。
頷く。
「ああ」
『なぜ?』
「選ばないって」
「結局」
「誰かに決めてもらうことになるから」
少女が。
目を見開く。
「世界がどうなるか」
「未来がどうなるか」
「誰が残るか」
「誰が消えるか」
「全部」
「自分で決めないってことだから」
俺は。
胸に手を当てる。
「俺は」
「間違えるかもしれない」
「後悔するかもしれない」
「誰かを傷つけるかもしれない」
「それでも」
「自分で選びたい」
少女は。
黙っていた。
そして。
ぽろりと。
涙を流した。
『……それが』
『私が』
『ずっと欲しかった答え』
「え?」
少女の姿が。
少しずつ変わっていく。
白い髪が。
光へ変わる。
『私は』
『何も選ばない可能性』
『だから』
『ずっと』
『何も選ばなかった』
『でも』
『選ばないことを選んでいた』
「……!」
俺は。
息を呑んだ。
『だから』
『私も』
『選ぶ』
「何を?」
少女は。
笑った。
『消えること』
「待て!」
俺は。
手を伸ばす。
『大丈夫』
『消えるんじゃない』
『選ばれなかった可能性として』
『ここに残る』
「……」
『いつか』
『誰かが』
『迷ったとき』
『その人の中に』
『私はいる』
光が。
少女の身体を包んでいく。
『だから』
『蓮』
『忘れないで』
「何を?」
『選ばないことも』
『選択なんだって』
少女は。
最後に笑った。
そして。
光になった。
【未選択可能性】
【自律化】
【完了】
世界の外側に。
無数の小さな光が灯る。
それぞれが。
誰かの選ばなかった未来。
消えずに。
ただ。
静かに存在している。
俺は。
その景色を見つめた。
「……終わった?」
ノアが。
首を横に振る。
「まだ」
「何が?」
「外側の一番奥」
「まだ」
「閉じてない」
その言葉と同時に。
空間の奥で。
巨大な音が響いた。
――ゴォン。
地面もないのに。
足元が震える。
ミラが。
顔を上げる。
「これは……」
アリアも。
表情を変えた。
「知ってる」
「何?」
「世界が生まれる前の音」
「……」
遠くに。
巨大な扉が現れる。
今まで見たどの扉より。
大きい。
そして。
そこには。
一つの文字だけが刻まれていた。
【始】
「……始?」
始原管理者だった少女が。
震える。
「そこは」
「私も」
「入ったことがない」
「じゃあ」
「何がある?」
彼女は。
答えた。
「世界を作る前に」
「世界そのものを」
「選んだ場所」
俺は。
扉を見る。
「世界を」
「選んだ?」
「そう」
「そして」
彼女は。
俺を見た。
「あなたが」
「最初に」
「生まれた場所でもある」
「……」
零番目の俺が。
静かに呟く。
「やっと」
「ここまで来たんだね」
俺は。
扉の前へ歩く。
その瞬間。
扉に。
新しい文字が浮かんだ。
【入場資格】
【始原整理】
【選択構造】
【自己整理】
そして。
最後に。
【本人の意思】
俺は。
扉に手を置く。
「……開ける」
扉が。
ゆっくり開いた。
その向こうには。
何もなかった。
世界も。
時間も。
光も。
闇も。
ただ。
一つだけ。
小さな椅子が置いてある。
そして。
その椅子に。
誰かが座っていた。
長い髪。
穏やかな表情。
見覚えのある顔。
でも。
今まで会った誰とも違う。
その人は。
俺を見ると。
静かに笑った。
「おかえり」
俺の身体が。
固まった。
「……誰だ?」
彼女は。
答えた。
「あなたが」
「一番最初に」
「『一緒にいたい』と」
「選んだ人」
エリスが。
息を呑む。
アリアも。
ミラも。
ユナも。
何も言わない。
俺は。
その顔を見つめる。
そして。
なぜか。
涙が出た。
「……知ってる」
彼女は。
微笑む。
「うん」
「やっと」
「思い出したね」
その瞬間。
俺の中に。
生まれる前の記憶が。
すべて。
戻り始めた。




