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第45話 俺の中にいるもの
『やっと』
『私のところまで来たね』
その声が。
俺の胸の奥から聞こえた。
「……誰だ」
返事はない。
ただ。
身体の内側に。
何かがいる。
【最深部への扉】
その表示を見つめながら。
俺は【構造解析】を発動した。
――瞬間。
視界が暗転した。
「蓮!」
エリスの声が聞こえる。
「大丈夫!」
俺は叫び返す。
だが。
次の瞬間。
俺は。
真っ白な場所に立っていた。
「……またここか」
以前。
第一管理者と会った場所に似ている。
でも。
違う。
ここには。
何もない。
第一管理者も。
管理機構も。
世界記憶も。
存在しない。
ただ。
目の前に。
一つの椅子があった。
そして。
その椅子に。
少女が座っている。
「……アリア?」
違う。
顔は似ている。
エリスにも。
アリアにも。
でも。
二人よりもずっと幼い。
少女は。
俺を見ると。
嬉しそうに笑った。
「こんにちは」
「……君は?」
「私?」
少女は首を傾げる。
「私は」
少し考えて。
「まだ、名前がない」
「……」
「名前をつけて」
「俺が?」
「うん」
俺は。
少し困った。
名前なんて。
そんな簡単に決められるものじゃない。
「どうして俺に?」
「だって」
少女は。
楽しそうに笑った。
「あなたが最初に見つけてくれたから」
「……最初?」
「そう」
「世界よりも前」
「あなたと私が会ったとき」
「……」
俺は。
記憶を探す。
事故の直前。
ペンを拾ってくれた少女。
でも。
そのさらに前?
そんな記憶はない。
「俺は君を知らない」
「うん」
少女は頷いた。
「あなたは忘れてる」
「じゃあ」
「どうして俺の魂の中に?」
少女は。
自分の胸に手を当てる。
「ここが」
「私の場所だから」
「……」
俺の魂。
その最深部。
そこに。
この少女がいる。
「君が世界を作ったの?」
「違う」
「じゃあ」
「世界を作った人は?」
少女は。
俺を指差した。
「あなた」
「……俺?」
「正確には」
少女は笑う。
「あなたの魂」
俺は。
言葉を失った。
「俺の魂が」
「世界を作った?」
「ううん」
「世界を作ったのは」
「私」
「じゃあ俺は?」
少女は。
少し考えて。
答えた。
「場所」
「……場所?」
「私が願いを持つための場所」
その瞬間。
俺の中で。
何かが繋がった。
アリア。
始原外存在。
俺の転生。
【整理整頓】。
全部が。
一つの線になる。
「もしかして」
「俺は」
「君の願いを入れるための器だった?」
少女は。
首を横に振った。
「違う」
「じゃあ?」
「あなたは」
「願いを持つための相手」
「……相手?」
「一人では」
「願いは生まれないから」
少女は。
静かに言った。
「誰かがいてほしい」
「そう願うためには」
「誰かが必要」
「……」
だから。
俺だった。
だから。
あの日。
俺は。
アリアを見た。
ペンを拾ってもらった。
あれが。
最初の接触だった。
「でも」
俺は聞く。
「俺は普通に日本で生まれた」
「そうだよ」
「じゃあ」
「どうして異世界に?」
少女は。
少し悲しそうに笑った。
「世界を作ったあと」
「私は」
「一人になった」
「……」
「世界には」
「たくさんの命が生まれた」
「でも」
「私の願いを理解する人はいなかった」
「だから」
「探した」
少女が。
俺を見る。
「あなたを」
「……」
「何度も」
「何度も」
「別の場所で」
「でも」
「あなたは」
「いつも」
「何かを拾っていた」
俺は。
少し笑った。
「……そこ?」
「うん」
「あなたは」
「捨てられたものを」
「簡単に捨てなかった」
「だから」
「私の願いも」
「捨てないと思った」
俺は。
黙った。
「だから」
「俺を異世界に?」
少女は。
頷く。
「でも」
「それだけじゃない」
少女の顔から。
笑みが消えた。
「あなたを呼んだことで」
「世界の外側が」
「あなたを見つけた」
「……始原外存在?」
「そう」
「じゃあ」
「俺を殺したのは?」
少女は。
答えなかった。
代わりに。
俺の足元に。
一つの映像が浮かぶ。
事故の日。
道路。
ペットボトル。
自転車。
そして。
見えない何かが。
俺の背中を。
ほんの少し。
押している。
「……!」
「俺は」
「偶然死んだんじゃない?」
少女は。
静かに首を振った。
「違う」
「でも」
「私が殺したわけじゃない」
「じゃあ誰が?」
「外側の存在」
「……」
「あなたを」
「世界へ送るために」
「死を利用した」
俺は。
拳を握る。
「ふざけてるな」
「……うん」
少女は。
初めて悲しそうな顔をした。
「だから」
「あなたに謝りたい」
「どうして?」
「あなたを呼んだこと」
「それ自体が」
「あなたの人生を」
「終わらせたから」
「……」
俺は。
しばらく黙った。
怒りはある。
悔しさもある。
でも。
目の前の少女を責める気にはなれなかった。
「一つだけ」
俺は聞く。
「君の願いは」
「今も同じ?」
少女は。
答えた。
「違う」
「……」
「最初は」
「誰かにいてほしかった」
「でも」
少女が。
俺を見る。
「今は」
「あなたに」
「選んでほしい」
「何を?」
「私を」
「世界を」
「そして」
「あなた自身を」
その瞬間。
俺の前に。
三つの光が現れた。
【世界】
【始原外存在】
【蓮】
少女が言う。
「どれか一つを」
「選んで」
「……」
「一つだけ?」
「そう」
「本当に?」
「うん」
俺は。
三つの光を見る。
世界を選べば。
俺自身を失う。
始原外存在を選べば。
世界がどうなるか分からない。
俺を選べば。
他の二つを捨てることになる。
「……嫌だ」
少女が目を瞬く。
「選ばない」
「どうして?」
「三つとも」
「残す」
「……」
「俺は」
「そういう力を持ってるんだろ?」
【始原整理】
【選択肢を確認】
【強制選択を検出】
【拒否】
【新規構造を構築します】
少女が。
初めて。
泣いた。
「……やっぱり」
「あなたを呼んでよかった」
その瞬間。
俺の魂の最深部に。
巨大な光が灯った。
【最深部】
【アクセス権限:蓮】
【世界創造者との共存を開始】
そして。
最後に。
一つの名前が表示された。
【創造者:ミラ】
「……ミラ」
少女が。
嬉しそうに笑う。
「それが」
「私の名前?」
「ああ」
「ありがとう」
ミラは。
立ち上がる。
そして。
俺の胸に手を当てた。
「これで」
「やっと」
「私も」
「世界の中にいられる」
次の瞬間。
俺は。
現実へ戻された。
「蓮!」
エリスが。
俺の肩を掴む。
「大丈夫!?」
「ああ……」
俺は。
息を整える。
「ただ」
「一人増えた」
「……え?」
エリスが目を丸くする。
俺の胸元から。
小さな光が浮かび上がる。
そして。
少女の姿へ変わった。
「こんにちは」
ミラが笑う。
アリアが。
驚いた顔でミラを見る。
「……あなた」
ミラは。
アリアを見て。
笑った。
「お姉ちゃん」
「……!」
アリアが。
初めて。
目を見開いた。
そして。
震える声で。
「……お母さん?」
その瞬間。
世界中の魔力が。
一斉に揺れた。
【世界創造者の存在を確認】
【始原構造が更新されます】
【世界の法則が――再編開始】




