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第36話 もう一人のエリス
「私は――最初の願い」
少女がそう言った。
エリスと同じ顔。
エリスと同じ声。
けれど。
雰囲気だけがまったく違う。
「……私?」
エリスが呟く。
「違う」
少女は首を振った。
「あなたの中にあったもの」
「じゃあ、私は何なの?」
「あなたは」
少女がエリスへ近づく。
「願いから生まれた人」
「……」
「私は、あなたが生まれる前にあったもの」
エリスは混乱したように俺を見る。
「レン……」
「大丈夫」
俺は彼女の隣に立った。
「一緒に聞こう」
少女は俺を見る。
「あなたも」
「私を知っている」
「俺が?」
「うん」
「どうして?」
少女は。
俺の胸へ手を伸ばした。
触れていない。
それなのに。
俺の中で。
何かが反応した。
【始原構造:共鳴】
【対象:最初の願い】
【適合率:100%】
「……100%?」
少女が笑う。
「やっぱり」
「何が?」
「あなたは」
「私の願いを理解できる」
「……」
俺は聞く。
「最初の願いって」
「具体的には何なんだ?」
少女は少し考えた。
「寂しくないこと」
「……それだけ?」
「うん」
あまりにも単純だった。
「誰かがいてほしい」
「誰かにいてほしいと思ってもらいたい」
「それが最初の願い」
エリスが目を伏せる。
「だから世界が生まれたの?」
「そう」
「じゃあ、私も?」
「そう」
少女は頷く。
「あなたは」
「その願いが人の形になった存在」
「だから……」
エリスが胸元を見る。
「世界核が私に繋がるのも?」
「世界があなたを認識しているから」
「あなたは世界にとって」
「最初に『必要だ』と判断された存在だから」
俺は少し考える。
「でも」
俺は少女を見る。
「なんで今まで分離してたんだ?」
少女は黙った。
そして。
エリスを見る。
「……忘れたから」
「忘れた?」
「エリスは」
「自分が何を願って生まれたのかを」
「そんなの……」
エリスが困惑する。
「私、何も覚えてない」
「それが普通」
少女は笑う。
「人として生きるためには」
「始まりの記憶が邪魔だったから」
「だから」
「第一管理者は私を分けた」
俺は気づいた。
「エリスと、最初の願いを?」
「うん」
「それが封印?」
「半分だけ正解」
少女は胸元を指す。
「エリスの魔力封印は」
「始原構造を眠らせるためのもの」
「だから魔力が少なかった」
「そして」
「あなたが現れたことで」
「眠っていた願いが目を覚ました」
エリスは俺を見る。
「レンが来たから?」
「そう」
少女は頷く。
「あなたが」
「世界を整理し始めたから」
「始原構造も反応した」
俺は黙った。
「だから」
少女が続ける。
「私は目覚めた」
「……」
「そして」
少女が俺を見る。
「あなたの力も」
「本来の形に近づいた」
【始原整理】
その文字が。
俺の目の前に浮かぶ。
「俺の力と」
「あなたの願いは関係してる?」
「うん」
少女は頷く。
「私は『残したい』」
「あなたは『整えたい』」
「二つが揃えば」
「世界は安定する」
「……なら」
俺は少女を見る。
「一緒になればいいんじゃないか?」
エリスが驚く。
「え?」
少女も少し驚いた。
「一緒に?」
「だって」
俺は二人を見る。
「エリスと君は」
「元々一つだったんだろ?」
「そうだけど」
「じゃあ、戻れば――」
「駄目」
少女が即答した。
「どうして?」
「戻ったら」
少女はエリスを見る。
「エリスが消える」
「……!」
エリスの顔が青ざめる。
「一つの身体に」
「二つの意思は存在できない」
「じゃあ」
俺は拳を握る。
「別々のままなら?」
「不安定」
「でも」
俺は二人を見る。
「可能なんだろ?」
少女は黙った。
「……可能」
「なら」
「その方法を探す」
エリスが俺を見る。
「レン……」
「だって」
俺は笑う。
「また一人にする理由なんてないだろ」
少女が。
初めて。
少し泣きそうな顔をした。
「……あなたは」
「変な人」
「よく言われる」
「そう」
少女は笑った。
そのとき。
【世界核接続率】
【27%】
【29%】
「……!」
数字が止まらない。
【30%】
エリスが苦しそうに胸を押さえる。
「きゃ……!」
「エリス!」
少女が叫ぶ。
「まずい!」
「何が?」
「30%を超えた!」
【世界核接続率:30%】
【第一段階:終了】
【第二段階へ移行】
「第二段階?」
少女の顔から。
笑みが消えた。
「始まる」
「何が?」
「エリスの中に」
「眠っていた世界の記憶が戻る」
「……」
「それだけじゃない」
地下施設が。
大きく揺れ始める。
【世界核:覚醒準備】
【始原構造:開放】
【管理機構:再起動】
俺は嫌な予感がした。
「何が起こる?」
少女が答える。
「世界が」
「エリスを通して」
「自分自身を思い出す」
その瞬間。
エリスの瞳が。
真っ白に染まった。
「エリス!」
返事がない。
彼女の身体から。
巨大な光が噴き出す。
その光の中に。
世界中の景色が映し出されていく。
王都。
魔王領。
森。
海。
知らない街。
そして。
無数の人々。
「……世界全部が見えてる?」
リナが呟く。
少女は首を振った。
「違う」
「エリスが見てるんじゃない」
「世界が」
「エリスを通して」
「自分を見てる」
そして。
世界中に。
一つの声が響いた。
『――起動』
『世界核』
『第二段階へ移行します』
俺のスキルにも。
新しい表示が現れた。
【始原整理】
【新機能を解放】
【世界記憶】
俺は目を見開いた。
「世界記憶……」
その直後。
世界中のどこかで。
無数の人々が。
同時に空を見上げた。
そして。
誰も知らないはずの言葉を。
口にした。
「……レン」
俺の名前が。
世界中から。
聞こえてきた。




