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第22話 欠けたものを探して
王都へ戻る道は、行きより静かだった。
魔物の声も。
鳥の鳴き声も。
ほとんど聞こえない。
「……変だな」
俺が呟くと、アルベルトが頷いた。
「第三封印が消えた影響だろう」
「世界全体に?」
「まだ分からない」
アルベルトは険しい顔をしていた。
「だが、各地で魔力異常が報告され始めている」
「そんなに早く?」
「第三封印が消えたのが昨日だからな」
俺はエリスを見る。
彼女は馬車の中で眠っていた。
肩には、まだ消えた部分が残っている。
「……」
俺は自分の手を見る。
整理できない。
今までなら。
壊れたものは直せた。
呪いも消せた。
魔力も整えられた。
なのに。
存在を削られたエリスだけは。
戻せない。
「レン」
リナが隣に座った。
「ずっと考えてる?」
「うん」
「エリスのこと?」
「……そう」
「レンのせいじゃないよ」
「分かってる」
でも。
納得できない。
「俺の力で助けられないのが嫌なんだ」
リナは少し考えて。
「じゃあ、助けられる方法を探せばいいよ」
「……」
「レンがいつも言ってるじゃん」
「何を?」
「壊れたなら、直せばいいって」
俺は少し笑った。
「そうだったな」
そのとき。
馬車が急に止まった。
「どうした?」
アルベルトが外へ出る。
「……まずい」
俺たちも外へ出る。
街道の先。
巨大な木が倒れていた。
いや。
正確には。
木が道そのものに沈み込んでいる。
「何これ……」
リナが呟く。
俺は構造解析を使う。
【対象:空間】
【状態:異常】
【構造:部分的欠損】
【原因:第三封印消失による世界構造の歪み】
「空間が壊れてる」
「空間まで……」
アルベルトが息を呑む。
「このまま進めるか?」
「たぶん」
俺は地面に手を置いた。
「整理」
空間の歪みがゆっくりと戻っていく。
沈み込んでいた木が。
元の位置へ戻った。
【空間構造:正常】
「……」
アルベルトが言葉を失う。
「空間を修復したのか?」
「うん」
「君のスキルは、本当にどこまで――」
その瞬間。
頭の中に表示が浮かぶ。
【領域整理】
【世界構造への干渉を確認】
【権限不足】
【処理を制限】
「……権限不足?」
今までとは違う。
俺の力が。
自分自身を止めた。
「どうしたの?」
エリスが馬車から降りてくる。
「ちょっと変な表示が出た」
「また?」
「うん」
俺はエリスを見る。
その肩に。
黒い欠損が残っている。
そして。
ふと気づいた。
「エリス」
「何?」
「その傷、少し変化してる」
「え?」
俺は構造解析を使う。
【欠損率:0.4%】
【変化:微小】
【自己修復:開始】
「……自己修復してる」
「本当に?」
エリスが肩を見る。
「でも、昨日より少しだけ小さくなってる」
俺は目を見開いた。
「戻ってる」
「少しだけね」
「だったら……」
俺は考える。
自分の力だけじゃない。
エリス自身の身体が。
失ったものを取り戻そうとしている。
「じゃあ、何かきっかけがあれば」
「治せる?」
「分からない」
俺はもう一度、構造解析を使う。
すると。
今まで見えなかった情報が現れた。
【自己修復機構】
【必要要素:原初魔力】
【現在保有量:不足】
「原初魔力?」
エリスが聞く。
「それがあれば、傷を戻せるかもしれない」
アルベルトが口を挟む。
「原初魔力など、伝説上の存在だ」
「どこにある?」
「分からない」
「何か記録は?」
「王立図書館なら」
エリスが言った。
「古代魔法の資料がある」
「じゃあ、そこへ行こう」
王都へ戻る。
今度は寄り道をしなかった。
そして。
王都に入った瞬間。
街の様子がおかしいことに気づいた。
魔法灯が。
一つずつ消えている。
「魔道具が止まってる?」
「王都全体で?」
アルベルトが走る。
「兵士を呼べ!」
その直後。
空から。
黒い雨が降ってきた。
「……雨?」
俺は手のひらで受ける。
【対象:黒雨】
【構成:魔力】
【状態:異常】
【接触禁止】
「触らないで!」
俺は叫んだ。
でも。
一滴。
エリスの肩に落ちた。
「……っ!」
エリスが苦しそうに顔を歪める。
【欠損率:0.4%→1.1%】
「エリス!」
俺は彼女を抱き寄せる。
「離れて!」
エリスが叫ぶ。
「黒雨が……!」
俺は周囲を見る。
黒い雨が。
街中に降り注いでいる。
人々が逃げ惑う。
魔道具が次々と壊れる。
そして。
俺のスキルが警告する。
【世界外構造の侵入を確認】
【侵入率:23%→31%】
「……増えてる」
第三封印が消えたことで。
世界の外から。
何かが入ってきている。
俺は空を睨む。
「これを止める」
「どうやって?」
エリスが聞く。
俺は空を見る。
雨粒一つ一つ。
そのすべてが。
異物。
「一つずつ整理する」
「そんなの無理よ!」
「なら」
俺は手を広げる。
「まとめて整理する」
【領域整理】
【対象:黒雨】
【対象範囲:王都全域】
【推定処理時間:――】
「……」
数字が表示されない。
【警告】
【処理対象が多すぎます】
「だったら」
俺は深く息を吸う。
「雨じゃなくて」
空を見る。
「雨を降らせてる『原因』を整理する」
表示が変わる。
【対象変更】
【黒雨発生源】
【接続先:世界外構造】
【整理可能】
「見つけた」
俺は空へ手を伸ばした。
「整理!」
――――ズン。
王都全体が揺れた。
空に。
巨大な黒い亀裂が現れる。
その向こうに。
何かがいる。
巨大な目。
そして。
俺を見て。
笑った。
『やっと、こちら側が見えたか』
「……誰だ」
『お前たちが第三封印と呼んでいたもの』
「……!」
『あれは封印ではない』
「じゃあ何なんだ?」
黒い目が細くなる。
『扉だ』
俺の腕の紋様が。
強く光った。
そして。
エリスの封印も。
同時に光り始めた。




