狂気の薔薇
「一体何を馬鹿な」
侯爵が顔色を変え、そして絶句した。
娘の顔と入れ替えるということがどういうことなのか、侯爵にはすぐにわかったのだろう。
今までラザラスは、何人もの娘たちとヘンリエッタの顔を入れ替え続けてきたに違いなく、侯爵が妻のしていたことを知らなかったはずはなかった。そもそもあの夜会の日、侯爵はフェリシアが格好の入れ替わり材料になると、じろじろと眺めていたのではなかったか。
なりふりかまわず侯爵があのように必死でここへやってきたからには、この事態をある程度は予測していたかもしれない。しかし、妻の口から実際にその台詞を聞きたくはなかったことであろう。
がくりと目に見えて侯爵の肩が下がり、彼の中にあった芯の部分が折れる音が聞こえてくるような気がした。
やはりそうだったな、と幾分かの同情をこめてマリオンは胸の中でひとりごちた。
あそこまで自分の美しさにこだわるヘンリエッタが、それをちらとも思いつかなかったはずがないのだ。
自分の若い頃にそっくりな自分の娘と入れ替われば、ヘンリエッタはこれまでのどの娘の顔よりも満足を感じることができるだろう。それは間違いがない。
今までは理性が勝っていて、さすがに自分の娘を犠牲にしてまで自分が美しくなることまでは考えていなかったのかもしれない。
「ところがここへ来て、すっかりたががはずれた、か」
考え込んでいたマリオンは、それまでじっと隅に控えていたラザラスの気配が急速に失われたことに気づいた。
いきなりどこかへ魔法で移動したように黒い姿がかき消えたのだ。
「しまった」
逃げたのか、と一瞬マリオンの背に緊張が走った。だが、逃げたのではない、とすぐにわかった。ラザラスが彼の存在に気づいたのだ。
マリオンのすぐ側に闇の気配がして黒い影が浮き上がった。マリオンはすばやく身体を起こし、体勢を建て直すと剣を正眼に構えた。
間髪をいれずラザラスの影から無言のまま鋭く黒い剣が突き出され、マリオンの剣がそれを即座に打ち返す。闇の中に青い火花が煌いて散った。
それとともにくっきりとラザラスの姿が闇の中に浮かびあがった。
手にはマリオンのものよりもひと回りほど小ぶりであるが、刃の広い黒い剣を携えている。
いつも斜に被っているマントのフードがはねあげられていて、灰色のもつれた髪がひと筋、蒼白い額に垂れ下がっていた。
石を無造作に彫り上げたような粗造りの顔には、何の表情も浮かんでいない。
そして、その彼の目の色は予想していた黒ではなく、赤い色に染まっていることにマリオンは気づいた。
「小僧! 待ちかねたぞ」
無表情ながらどこかに歓喜のようなものをにじませてラザラスが叫び、剣でマリオンの胴を横になぎ払った。
マリオンは優美な動作で剣をかわすと、そのまま軽やかに後ろへ跳ねた。
次の瞬間、ラザラスの手から剣が消え、代わりに現れた大きな黒い塊がマリオンへ向かって投げつけられる。
それは彼の身体に届く一歩手前で男の腕ほどの太さの無数の黒い毒蛇の形に変わり、容赦なくマリオンに襲い掛かった。
マリオンは、更にもうひと飛び後ろへ下がると、右手の剣を白く輝かせてその蛇を端から容赦なく打ち落としていく。
その蛇は、身体に似合わぬ大きく獰猛な牙の生えた口でマリオンに噛みつこうと四方から迫っている。さすがに剣一本ではそのすべてを打ち落とすことは難しい。
剣から逃れた何匹かが彼の身体に喰らいつき、血を啜ろうとしている。
マリオンが舌打ちをして空いているほうの手で自分の身体から鈍色の蛇を引き剥がすと、その口から彼の血が闇の中につうっと細い尾をひいて流れていく。彼はそれをそのまま床に叩きつけ、ブーツの踵で念入りに踏みにじった。
「魔法を使え、小僧。俺と魔法で対決しろ」
ラザラスが吼えた。
そのラザラスの声と表情のどこかにマリオンは違和感を感じた。
「俺を殺るつもりなら、そんな子供だましの剣ごときでは無理というもの。魔法を使え、小僧。お前の腕がどこまでか、この俺が見届けてやるゆえ」
ラザラスの言葉にマリオンが眉間に皺を寄せた。
「小僧、小僧とうるさいぞ、ラザラス。お前は、僕より年下だろうが」
ラザラスの口が笑いの形に歪んだ。
「ほう? この俺よりもお前は上か? いったい何年生きているのやら。俺よりも長生きな魔術師など、そうたんとはおらぬぞ」
マリオンは首元に噛み付こうとしてきた最後の黒竜を、剣の一振りで仕留めると目を細めた。
「たんとはいない、だと?」
マリオンは首をかしげた。
最初に会ったときに感じたラザラスの気配は、さほど年を経た魔術師のものとは見えなかった。 せいぜいが見かけどおりの四十代か、六十までもいってはいまい、とマリオンは踏んでいた。
魔法を使う者たちの加齢は、みな一様に穏やかだ。
どの辺りで道を極めたかによって外見の年齢は異なるため、ラザラスほどの実年齢であっても青年のような外見である魔術師も世の中には大勢いる。当然、マリオンもその中の一人だった。
彼の場合は、半分がた異なる血が混じっていることで、さらに通常の場合よりもその特性の度合いがきわだっていた。
ジェイクの姿のときは、ばれないようにジェイクの気配をまとっていたのだが、今は押さえてはいるもののマリオン自身の気配すべてを隠しているわけではない。ラザラスにも気配で大体のところが知れているだろう。
魔法の気配と同様、それはどうあっても隠し切れない魔術師の性であった。
そして、その肝心のラザラスの気配は、といえば、ジェイクの姿のときに今と同じ場所で会ったときは最初と同じものを感じたのだが、確かに今のラザラスの魔法の気は、マリオンにとってまるでなじみのないものに変わっていた。
マリオンは剣をラザラスのほうに突きつけ、大きく息を吸いこんだ。
「君はラザラスではないな? 何者だ」
ラザラスの唇の両端がつり上がり、今度ははっきりとした笑いの形をとった。のどの奥からは低い含み笑いが漏れている。
「俺がラザラスでなかったら、誰だというのだ」
それを聞いたマリオンの眉間の皺がよりいっそう深くなった。
やはり、彼はラザラスではないのだ。口調を考えても、魔法の気を読んでみても、それだけは間違いようがない。
だが、外見だけは確かにラザラスのものだ。
魔法で外見を変えているような気配もない。
では、あの赤い目は・・・・・・。
嫌な予感にマリオンの胸がざわめいた。
「まさか君は」
そこまで言いかけたときだった。
甲高い悲鳴が闇を切り裂き、それにぎょっとした二人の顔が同時に祭壇のほうへ向いた。
**..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**
どこかで声がする。
聞きなれた父の声と泣き喚く誰かの耳障りな声。
意識がゆるりと戻って来る。身体が重い。手足が自分のものではないように感じる。
ロザリンは、苦労して薄くまぶたを持ち上げた。
最初は自分の部屋で眠っていたのかと思った。
だが、違う。
横たわっているのは石造りの冷たく硬いものの上で、自分の寝台ではない。ゆらめく蝋燭の灯りがすぐ枕元にある。
部屋は薄暗いが、部屋の壁にはたくさんの蝋燭が灯されていて辺りの様子をうかがうのに困るほどではない。視覚とともに、記憶が闇の底からゆっくりと立ち上がってくる。
ロザリンはジェイクと別れたあと、怒りに任せて闇雲に走っていたのだが、いきなり建物の影から現れたラザラスに驚いて足を止めたのだ。
前からこの陰気な魔術師には嫌悪を抱いていたのだが、今の彼の目の中には、これまでのものとは比べ物にならないほど邪悪な何かが見えた。
だが、ロザリンが悲鳴をあげて逃げようとしたところで、彼がその右手を彼女の顔の前にかざしたことまでは覚えているのだが、それきり記憶がなくなっている。
そのときに魔法で眠らされてしまったのだろうと思うと、悔しさがこみ上げてきた。
『たかが、城付き魔術師のくせに。私を襲うなんて、なんて奴なの』
それらの記憶とともに苦い思いも一緒に戻ってきた。胸の奥に澱のように残るジェイクの声。マリオンだと信じて恋に落ち、怪我をした彼を一所懸命看病していたのに、実はジェイクだったと知ったときの衝撃はすさまじかった。また逆に、マリオンの言動に感じていた違和感に対する答えが見つかって納得した部分もある。だが、胸のどこかでそれに安堵した自分と、いけしゃあしゃあと言い訳や泣き言を言うジェイクに無性に腹が立った。
「私はあんな奴、大嫌いよ」
ロザリンは唇を噛むと、それを降り払うようにしっかりと目を開けて、現実に戻ろうとした。
そしてそのまま顔を先ほどから耳元で繰り広げられている父と、聞きなれぬくぐもった声の言い争いのほうに無理やり捻じ曲げた。
そこには見慣れた肩幅の広いがっしりした父の背中が見え、その向こうの闇には不気味な白い仮面が浮かんでいた。その仮面は自分、ロザリンの顔によく似ている。
仮面の人物は、途切れることなくずっと耳障りな声で自分の正当性を侯爵に向かって訴えつづけているように思えた。
時には居丈高に、時には懇願するように、そして時には憐れっぽくその声は続いている。
解けない呪い、さらった娘、殺された男、闇の供物といったような物騒で陰鬱な単語がところどころわずかに聞き取れるだけだったが、その内容からここしばらく世間を騒がせていた人さらいに関係したことだと推察された。
では、やはり父があの事件にかかわっていたのかとロザリンは愕然とした。胸のどこかで漠然と抱いていた不安が、はっきりとした形でロザリンに迫る。
もしやそうではないのかと、いつのころからか感じていた不安。だが、父は父自身のためにそれをしたのではない、仮面の人物のために為したのだ。父よりもかなり小柄なその仮面の人物は、いまも彼を歪んだ声で責めつづけている。
ロザリンは、突然それがここしばらく会っていない母だということに思い当たった。なんてことなの、とロザリンは話の内容よりもそちらのほうに衝撃を受けた。この不気味な仮面の女を母だと思うなんて。そして、それが正しいことだなんて。 なんと忌まわしい事実なのだろう。
ずいぶんと長い間、ロザリンは母に会っていない。いや、会っていないどころか、そのことについて深く考えてもいなかった気がする。
今まで見ないようにしてきた両親の裏側を、いまこのごに及んではっきりと見せつけられたのは、自分が娘としての義務を果たしていなかった罰なのだろうか、とロザリンは暗い気持ちで考えた。自分は長い間、母と向き合うのは避けてきた。
そこにはいろいろな理由があって、一言で簡単にどうとも片付けられない確執や葛藤があったことは否定できない。また逆に、母のほうが娘を遠ざけていたのも事実であった。とはいえ、やはりそれは普通のこととはいえないだろう。
同じ城の中で、同じ空気を吸いながら、父に母がどうしているのかと尋ねることすら怠ってきたのだ。憎んでいるわけでもなかった。特に嫌っているわけでもない。ただ、無関心だった。
それは、ある意味で殺人よりも悪い、無関心という名の相手を悼むことすらない残酷な『ひとごろし』だった。
何故こんなことになってしまったのだろう。自分は、一度も『あの女』を愛しても、あるいは憎んでいすらもいなかったのだろうか。
あんなにも美しい、自分によく似た母だったというのに。
やがて高揚していく二人の言い争いの断片から、ロザリンは母が何故姿を隠したかということの真実を知った。
母が呪いで普通の顔ではなくなっているらしいこと、その代わりに娘たちをたくさんさらったこと、誰かをどうしても殺さなければならなくなったこと、ロザリンの美しい顔を自分のものにすることが今の母の一番の希望だということ。
ロザリンは、思わず自分の喉を押さえた。忌まわしい言葉の数々に吐き気がする。
ここまでひどい話になっているとは、考えてもみなかった。
だが、ふいにロザリンは今にも笑い出しそうになっている自分に気づいた。
悲鳴よりも先に喉の奥から押さえきれぬ笑いが込みあげてくる。何故こんなときに笑えるのだろう。
耳元で聞かされているとてつもない嘘臭い繰言が、どうしようもなく真実だとわかっているのに。自分はきっと狂ってしまっているのだ。そしてたぶん、あの母も。
そして、こんなに可笑しいのに何故泣けるのか自分でも解らない。涙がロザリンのなめらかな頬をゆっくりと濡らしていく。
やがてひとつの決心がロザリンの中で固まった。どうしてもそれだけはやり遂げねばならない。
首をめぐらせた部屋の別の端は、歪んだ闇の中に霞んでいて、何か魔術的な争いが行われているらしいことはわかるが、はっきりと見定めることはできない。何か別の世界がそこに開かれているようにも見える。 結界というものが張られているのかもしれない。
ロザリンは、魔術的な戦闘には関わらないほうが賢明だろうと判断してそちら側を無視することに決めこんだ。
それよりももっと気にしなければならないことがある。ロザリンはもう一度父の背に目を戻し、静かに半身を起こした。
二人のやりとりはまだ続いていて、ロザリンの挙動をとがめる者はいない。
ロザリンが枕もとにあった太い燭台をつかむと灯りが大きくゆらいで、ヘンリエッタがぎょっとしたように身を一歩後ろに引いた。
「ロザリン」
妻のその様子に気づいた侯爵が慌てて振りかえったとき、すでにロザリンは片手に大きな燭台をつかんだまま、石の寝台の下に滑り降りていた。
「ロザリン」
侯爵のかすれた声が、闇の中に震えて消えた。
「お母様。あなたはいったい何が欲しいとおっしゃるの?」
ロザリンの少しきつい口調に、二人は黙ったままだ。
しばしの沈黙の後、父が何か言おうと口を開いたとき、かぶせるようにロザリンが母を呼んだ。
「お母様、私に答えをくださいませ。私はずっとあなたをお待ちしておりました」
自分自身でも思いがけない言葉が、するっとロザリンの口から流れ出た。
あの幼い日、母に捨てられたと知ったときの苦い思いがロザリンの胸を締め付けた。無関心ではなかった。そうだ、自分は母を待っていたのだ。
病気だと聞かされはしたが、見舞いに来いと言われたこともない。幼いロザリンが会いたいと思ってもその願いは叶わず、代わりに母が何か優しい言伝をしてくれたこともない。母は今日に至るまで、ついに一度もロザリンに会いたいとは言ってくれなかったのだ。
やがてロザリンは、母に会いたいと思うことをやめた。やめたはずだった。
「そうよ、お母様。私はずっとあなたをお待ちしておりました。七つのときに、突然お母様が私の前から姿を消してしまわれたときから、ずっと」
そのロザリンの真実の言葉に、仮面のヘンリエッタが目に見えてたじろいだ。ロザリンの白いなめらかな頬は、涙に濡れている。
「お母様がどのようなお顔になってしまっても、私にはどうでもいいことでしたのに」
うなだれていた仮面がきっと上を向いた。
「そんなことがあるものか。このわたくしの、今の顔を見たらお前だとて。」
「お母様・・・・・・」
仮面の手がマスクの端にかかりはずそうとするのを見て、ロザリンははっと短く息を飲んだ。
ヘンリエッタはその様子に手を止めて、くくっと小さく喉の奥で笑い声をあげた。
「ほら、ごらん。お前だとて、醜いものを見るには忍びないでしょう。そう、わたくしは醜いこの顔を元に戻したいのよ、ロザリン。いい子ね。わたくしに協力してちょうだい。お前の顔があればわたくしは元に戻れるの。大丈夫よ、そのうちお父様が、呪いを解く偉大なる魔術師を見つけ出してくれるわ。それまでの短い間だけのことだわ」
「ヘンリエッタ! もういい。それ以上、私は聞きたくない」
母から娘をかばうように二人の間に割り込んだ侯爵が叫んだ。その背を優しく押し、ロザリンが再び前へ進み出ようとする。
「お母様。あなたが欲しいのは、私の顔なの? この、私の、あなたによく似た、この顔?」
「お願いよ、ロザリン」
媚びるような甘えた口調でくぐもった声がその名を呼び、必死でかばおうとする侯爵を押しのけ、無表情な仮面の白い顔がロザリンの顔を覗き込もうとしている。ロザリンは必死で涙を飲みこんだ。胸の奥が痛かった。
もう全てを捨ててどこかへ行ってしまいたかった。だが、これが真実なのだ。
気づいてしまったら、二度と忘れることも捨て去ることもできない。だから、自分は母と向き合わなければならない。
「あなたにとって、私の価値なんてそれしかないのね。そうなのでしょう?」
その言葉に仮面の女がふっと身体を後ろに引いて、かぶりを振った。最初は小さく、やがて髪が乱れるほど強く。
「そんなこと・・・・・・」
「いいえ、お母様。あなたにとって、私の価値はそれしかないのです。私には、とてもよくわかっているわ。なぜなら」
ロザリンは深く息を吸った。
「私にとっても、私の価値はそれだけだったから。私たちは親子なのですもの。顔だけじゃない。全部がとてもよく似ているわ」
「ロザリン!」
侯爵が咎めるような視線でこちらを見たが、ロザリンはひるまなかった。
「でも、お母様。あなたの価値はそれだけじゃなかった。私はあなたの穏やかに私を呼ぶ声を、優しくなでてくれる手を、そしてあなたにお会いできる日を……ずっと待っていました。どうぞ、それだけはわかって」
その言葉にヘンリエッタが仮面の顔を押さえて、ううっと小さくうめきながらよろめいた。
ロザリンは、それにかまわず、自分の決心を述べようと言葉を続けた。
「だから、お母様。私の顔が欲しいなら」
だが、お使いになって、とロザリンが言い終わらぬうちに、侯爵が彼女の手から燭台を乱暴に奪い取った。
そのあまりに突然の成り行きに唖然とするロザリンを置いて、侯爵はすばやく燭台の蝋燭を自分の着ていたマントの裾に近づけると火を放った。
「炎よ。赤き精霊の火の花よ。罪深き我が身を永遠に浄化せよ!」
侯爵の口から、早口で火の呪文が紡ぎ出され、一拍の間を置いて炎はマントを駆けあがった。
それから驚愕するロザリンが止めるまもなく、侯爵は炎のマントを身にまとったまま、ヘンリエッタに走り寄るとドレスの足元に蝋燭を投げ出し、その身体をしっかりと抱きしめた。
マントとドレスの足元から瞬く間に大きく燃え広がった赤い炎は、容赦なく二人を飲み込んだ。
ヘンリエッタがそこから抜け出そうともがいているが、侯爵のたくましい腕にしっかりと抱きしめられていて逃れるすべはない。
ヘンリエッタの口から思いがけぬほど大きな悲鳴があがり、人の背丈より高くあがった火柱の中で白い仮面が剥がれ落ちるのが見えた。




