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汚部屋女子が、片付けのプロのフリをして好きな人の部屋を片付けた話  作者: 鈴澤ゆき(めもすた)


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13/16

13.ムードメーカーを辞めた月曜日。『どうありたいか』で選んだ服と、私の居場所

 月曜日の朝。

 春香は、クローゼットの特等席にかけておいたグレーのリネンシャツに腕を通した。


 いつもなら、月曜の朝は「よし、一週間の始まりだ!」と自らを奮い立たせ、周囲にも元気を与えるために、一際明るい色の服を選んでいた。

 でも、今日は違う。さらりとしたリネンの肌触りが、無理に背伸びをしようとする心に「そのままでいいよ」と落ち着きを与えてくれる。

 ただ、通勤電車に揺られながら、春香の胸の奥には小さな不安が渦巻いていた。

 …会社に着いたら、「今日、元気ないね」とか「体調悪いの?」って言われちゃうかな。

 ずっと「明るい緑野さん」を演じてきたのだ。急に落ち着いた格好で、静かにしていれば、周囲を心配させてしまうかもしれない。

 それでも、不思議と家に引き返して明るい色の服に着替えようとは、これっぽっちも思わなかった。


 オフィスに到着し、フロアのドアを開ける。

「おはようございます」

 いつもなら、ワントーン高い声でハキハキと、フロアの端まで響くような声で挨拶をしていた。でも今日は、自分の本来の声の高さで、自然なトーンで挨拶をした。

 すれ違う同僚たちに軽く会釈をしながら、自分のデスクに向かう。


 始業のチャイムが鳴り、仕事が始まっても、春香は無理にテンションを上げることはしなかった。

 誰かがため息をついていても、反射的に「どうしたんですかー?」とおどけて場を和ませようとはしない。ただ、自分の目の前の仕事に、淡々と、丁寧に、自然体で向き合った。


 お昼休みになり、休憩室でコーヒーを淹れていると、よく仕事でお世話になっている女性社員の朱里先輩が隣にやってきた。

「春香ちゃん、今日なんか雰囲気違うね」

 (あっ、やっぱり……そう思われるんだ)

 春香はマグカップを持ったまま、少し肩をこわばらせた。「何かあったの?」「元気ないね」と言われる。そう身構えた春香に、先輩はふんわりと笑いかけた。


「なんだか、すごく大人っぽくていい感じ。そのシャツ、すごく似合ってるよ。色も落ち着いてて素敵」

「え……」

「いつも元気いっぱいで明るい春香ちゃんも好きだけど、今日の春香ちゃんは、なんていうか……話しててすごく落ち着く。無理してないっていうか、今の雰囲気も私すごく好きだな」


 先輩の思いがけない言葉に、春香は目を丸くした。

「……ありがとうございます」

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

『元気ないね』なんて、言われなかった。

 明るく振る舞わなくても、無理して高い声を出して笑わなくても、誰も私を責めない。それどころか、「落ち着く」と言って、ありのままの私を受け入れてくれた。


(そっか。私、無理して『ムードメーカー』にならなくても、ここにいてよかったんだ)

 ずっと肩に入っていた無駄な力が、すーっと抜けていくのを感じた。


「どう見られるか」ではなく、「どうありたいか」


 このリネンシャツが、私を守ってくれている。

 窓から差し込む昼下がりの日差しが、春香の肩を優しく照らしていた。

 無理をしない、等身大の私。

 この服を選んで、本当によかった。春香は両手で包んだコーヒーの温もりを感じながら、心からそう思った。

第13話、お読みいただきありがとうございます!


「どう見られるか」ではなく「どうありたいか」。

服の整理を通して、春香は自分の「心」と「居場所」の整理をすることができました。


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