10:スライムの魔獣さんと一緒に②
「こんな夜更けに他人の家の前で何をしているんですか。……スライムの魔獣さん」
そこに立っていたのは、紛れもなくあのスライムの魔獣だった。
彼女は僕を見るとパチパチと瞬きをし、それから自分の胸に手を当てて、ホッとしたように大きなため息をついた。
「愚者ベラミに何かあったのかと思った」
何かあったのかって?
「昨日、会いに来なかったから、何かトラブルに巻き込まれたのかと……。そうか、愚者ベラミが無事でよかった」
「えっ、君……僕のことを心配してたのか?」
スライムの魔獣は不思議そうに首をかしげた。
「いけないか?」
「……なんだそれ」
「なんだそれ、って何だ?」
「いや……なんだそれ、って何だ、じゃないですよ。……どうぞ、心ゆくまで僕を心配してください。禁止するルールなんてありませんから」
「人間たちの間では、心配することに禁止ルールがあるのか? なんだそれ」
「……まあいいです」
目の前の好奇心旺盛な魔獣と言い争うのが面倒になり、僕は代わりに疑問に思っていたことを尋ねることにした。
「どうしてジャイアントスライムなんて生み出したんですか?」
「なんだそれ」
「ここから遠くない場所で騒ぎを起こした、あの緑色のジャイアントスライムのことですよ」
「……なんだそれ、ってなんだ」
「おい、僕をおちょくってるのか?」
「……愚者ベラミ、もう『じゃないですよ』は言わないのか?」
「やっぱり、わざと僕をおちょくっていますね」
スライムの魔獣が再び不思議そうに首をかしげる。その様子に僕は頭に血が上り、立ち去ろうとした。
「ええ、もういいですよ。せいぜい運良く生き延びることですね」
「我たちは、何も知らない」
「……君たち魔獣は、強力なモンスターを生み出すことができるんじゃないんですか?」
「できない」
スライムの魔獣の短い答えは――世界中のデータベースを歪ませ、世界をひっくり返すような衝撃だった。
「えっ? で、できない……ですか? じゃ、じゃあ君が僕にくれたあのスライムたちは!?」
「モンスターではない。魔力核がないから。ただの命なきスライムだ」
「……だとしたら、君のせいじゃないってことか」
「分からない。たぶん、それでも我たちのせいなのかもしれない」
スライムの魔獣は目を細め、夜の静寂の中でかすかな、しかしはっきりとした声で言った。
「我たちはモンスターを生み出すことはできない。だが、我たちの周りには常にモンスターが生まれる。物心ついた時から、ずっとそうだ。人々が『弱いスライムしかいない』と言っていた森に、突如として恐ろしいスライムが現れる。スライムなんて一度も生まれたことがない場所に、次々とスライムが湧き出てくる」
「……」
「我たちの存在が、ついに問題を起こしてしまったんだな」
「……そうみたいですね」
僕が正直に答えると、スライムの魔獣の表情がわずかに変わった。
悲しんでいる人のような顔だ。
「そうか。だとしたら、生まれてきてごめん」
ただ存在しているだけで人々に迷惑をかける存在。それが魔獣―人類の天敵。
僕が彼女を慰めようとしても、どんなに気分を晴らそうと言葉を尽くしても、事実は事実だ。彼女が近くで息をしているだけで、一般人を何百人も殺せるジャイアントスライムが現れ、人々を襲う。
それは、本当に残酷な真実だった。
「とにかく、今はギルドが街の近くに魔獣がいると判断しました。間もなく強力な冒険者たちがやってくるでしょう。……いえ、明日にはもう一人の上位冒険者が君を狩りに出発するはずです。僕の個人的な経験から言えば、彼はすぐに君を見つけ出し、容赦なく仕留めるでしょう」
「それは怖そう」
「当然です。皆、君に死んでほしいと思っているんですから」
「愚者ベラミもそうなのか?」
「もし君がわざとジャイアントスライムを生み出したのなら、僕も反対はしません。でも、そうじゃない。……君のせいじゃない、それは魔獣としての君の存在そのものの罪だ。だから」
僕は真っ直ぐに告げた。
「ここから逃げてください。君はもう、ここには住めない」
「……我は、愚者ベラミも私に死んでほしいと思っているのか、と聞いたんだがな?」
……はぁ。
僕はため息をつき、顔を背けて答えた。
「思ってませんよ。分かったら、さっさとここから消えてください。今すぐがいい」
「やっぱり。『愚者』は優しいな」
そう言って、スライムの魔獣は僕の顔を覗き込んだ。
「ここを去る前に、一つお願いをしてもいいか?」
「……何ですか」
「街を案内してほしい」
「君……正気ですか?」
「見ての通りだ」
「狂ってるってことですね」
「……どうしてもダメか?」
スライムの魔獣が悲しげな表情で見つめてくる。――結局、僕は「愚者」だった。
「……分かりました。ただし、条件があります」
「うん、分かった。何でも言う通りにするよ」
スライムの魔獣がかすかな微笑みを浮かべた。それは、会話が終わって一時的に別れる時に、彼女がいつも僕に見せてくれる笑顔だった。
@@@@
部屋に戻った。……あと六時間後にまた会おう。エネルギーを補充するために少し仮眠が必要だからだ。そう伝えてはいたものの ―やるべきことがあった。
「カイリー、カイリー!!」
僕は彼女の部屋のドアを激しく叩いたが、返事がない。最後には蹴りを入れた。
ドンッ!!!!! ……しばらく沈黙が続いた後、ドアが開いた。
「な……何ですか。殺人事件でも起きたんですか、それとも何事?」
「カイリー!」
「はいはい、何ですか」
「メイクを教えてください」
……。
静寂が辺りを包み、カイリーは真剣な目でしばらく僕を凝視した後、自分の顎をさすった。
「まあ、いけなくはないですね」
「はあ?」
「分かりました」
何かを勘違いしているようにも思えたが、分かってくれたのならそれでいい。
「じゃあ、明日の夕方に」
「今すぐだ」
「ええー、人が寝ようとしてるのに ―」
「見え透いた嘘をつくな。カイリーが深夜零時に寝るなんてあり得ないだろ。――今すぐ教えてくれたら、僕のお小遣いを分けてあげます。どうですか?」
「……はぁ。はいはい、分かりましたよ」
カイリーは僕を部屋に入れて、メイクの基本を教え始めた。一時間ほどかかり、実戦形式で練習した時間も含めると数時間が経過した。約束の時間が近づいていた。
@@@@
「よぉ」
「約束の時間ぴったり」
「そうだ。僕は約束を守る性質でね」
「それで、そんなに何を背負ってきたか?」
スライムの魔獣が、僕が背負ってきた巨大なバッグを指さした。
「まあ、見ていてください。とりあえず、少しの間静かに目を閉じていてくれませんか。開けていいと言うまで開けないでください」
「……怖い」
「怖がる必要はありませんよ。僕は不意打ちをするような人間じゃありませんから」
魔獣スライムは不安そうにしながらも、素直に目を閉じた。それを見て、僕はバッグからすべての道具を取り出した。……カイリーから定価で買い取った、壊れかけで中身も底を突きそうなメイク道具一式を。
「……さて、始めますよ」
人生で初めての、真剣なメイクが始まった。
―それから数分後。
魔獣スライムは川面に自分の姿を映して確認していた。……グレーだった肌は白く変わっている。ただ、普通の白さではない。厚化粧すぎて顔のレイヤーが浮いて見えるほどの白さだ。まるで別次元の存在のように。
やけに大きく見える赤い唇、違和感があるほど長い眉毛とまつ毛。そして不自然に真っ赤な頬。
はっきり言って、最低な出来栄えのメイクだった。
「我は、こんなに醜いのか?」
「……すみません。でも、これならもう、君は魔獣には見えません」
「うん。だが、普通の人間にもあまり見えない」
「そ、それは……少なくとも、おかしな人間だと思われれば、なんとか誤魔化せるかと……」
「そうだな。最高におかしな人間に見える」
なぜか、魔獣スライムの機嫌が少し斜めになっている。……いや、「なぜか」ではない。理由は分かっている。
「下手なメイクで申し訳ありません。昨日の夜に練習し始めたばかりなんです。でも、少なくとも、君が魔獣だと気づかれない役には立ちますから」
昨夜は一睡もせずにこの準備をしていたのだ。そう、この「スライムの魔獣さんを不機嫌にする下手くそなメイク」と、「本人は真剣なのに笑いを取りに来ているような顔」を作り上げるために。……悲しすぎる。
「……それから、これもどうぞ」
僕はフード付きの服も差し出した。
「これで正体隠しは完璧です」
目の前にいるのは、フードを被った小柄な少女だ。スタイルは良いが、フードの中を覗き込めばホラー映画が待っている。
「行きましょうか?」
「分かった」
こうして、魔獣スライムとの街歩きが始まった――奇しくも、彼女の討伐が開始されるのと同じ日に。
僕も、この魔獣さんも―救いようがないほど「愚か」だった。
***最近、試験があるのでしばらく消えます***




