10:スライムの魔獣さんと一緒に①
クエスト終了後、僕はマックさんと一緒に報告へ向かい、詳細を伝えて手がかりを渡し、イレギュラーなモンスターの討伐も報告した。
すべてはこれで終わるはずだった―しかし、マックさんはあろうことか「この辺りにスライムの魔獣が潜んでいる可能性がある」と正直に伝えてしまった。
ギルド職員はそれを聞くやいなや、すぐに本部に連絡を入れ、 ギルド全体がパニックになったと言ってもいい。 僕はその混乱を眺めながら、頬杖をついてのんびりしているマックさんの隣で、温かい牛乳をすすっていた。
「もし魔獣がいなかったら、どうなるんですか?」
「ただ解散するだけさ」
「……他人に迷惑をかけるとは思いませんか? こんなに大ごとになってしまって」
「まあな。だが魔獣が見つかるとなれば、皆が警戒するのは当然のことだ。ある意味では、災害級モンスターよりも危険な存在なんだからな」
魔獣は自分と同じ種のモンスターを生み出すことができ、さらに高い知能を持っている。――たとえ下位モンスターと同種の魔獣であっても、あのジャイアントスライムのようなモンスターを大量に生み出すことで「災害」レベルの脅威を作り出すことができるのだ。
もし五体もいれば上位モンスター並みの危険度だし、どこまで規模が拡大するかも分からない。
そうだ。だからこそ、確かな証拠がなくても、魔獣がいるかもしれないと分かれば、すぐに連携を取り、高ランクの冒険者を募って、できるだけ早く追跡し、仕留めなければならない。……でも、あのスライムの魔獣は……。
「ところで、何か気になることでもあるのか?」
マックさんは僕の感情を見透かすように聞いてきた。僕はただ首を振って答えるしかなかった。
「……何でもありません」
「ならいいが。……なあ、明日も俺と一緒にクエストに行かないか? おそらく明日は、ギルドが正式に魔獣捜索の新しいクエストを出すはずだ。ベラミの力があれば助かるから―お前自身の経験にもなるだろう」
「……遠慮しておきます」
「……」
「疲れました。少し休みたいんです」
「そうか、分かった。じゃあ、今日はこれで?」
「ええ。お先に失礼します」
僕は椅子から立ち上がり、混乱に満ちたギルドを後にした。マックさんの疑念に満ちた視線が向けられていることにも気づかないふりをして――。
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月明かりが降り注ぐ夜道を歩く。
家を出てからもう何時間も経っていたのか。皆を心配させないように早く帰らなければならない。――それなのに、僕は帰りたくないと感じ、結局噴水の前に腰を下ろした。
大都会とは違う、静かな街並みを眺める。
……ふぅ、と大きなため息をつくと、口から白い息が漏れた。
今の空気はとても冷たい。僕はバッグを開け、スライムの魔獣からもらった三色のスライムを見つめた。
スライムの魔獣。彼女と知り合ってからまだ間もない。それほど親しい仲というわけではないけれど……。でも、いわゆる「いい人」だったと思う。僕を助けてくれたし、たくさんの助言もくれた。
正直に言えば、これまでの人生で出会った誰よりも「友達」という言葉に近い存在だった。
何も他人に不満を言ったり、人間が魔獣より腐っていると罵りたいわけじゃない。僕は子供の頃から傲慢で、同年代に対して友好的ではなかったから。
……同い年の子供を皆敵か、あるいは虫けらだと思って接してきた。気づいた時には周りは嫌いな奴らばかりで、親切にしてくる奴らは皆偽善、冷たくしてくる奴らこそが自分に正直な奴らだった。
だけど、世界から手痛いしっぺ返しを食らい、この「愚者」を授かってから、目が覚めたような気がする。
かつて持っていた意地やプライドはへし折られ、それが逆に、以前とは違う形で他人と話し、自分を出し、本心で考えるきっかけをくれた。カイリーやマックさん、そしてあのスライムの魔獣に対しても……。
認めたくはないけれど、カエデに対してもそうだ。
人との関わりというのは、こういうものだったのか―本当に不思議だ。
「……」
自分のことだけを考えるべきなのに。
ただ最強を目指すべきはずなのに。
それなのに、どうしてだろう……。どうしてこんなに胸が痛むんだろう。
どうして彼女はジャイアントスライムなんて危険なモンスターを生み出したりしたんだ。目立たないように、静かに暮らしていればよかったはずなのに……。
「……っ、え」
目から涙が溢れてきた。
……はあ? ちょっと待て、こんなことで? たかだか一度言葉を交わしただけの、出会って間もない一匹の魔獣のために?
僕は慌てて涙を拭い、奥歯を強く噛みしめた。
「冗談だ。ふざけないでくれよ」
生まれてから、僕が泣いたのは一度だけだ。それはカエデと最後に話した時。そして二度目が、今だ。――なぜだ。いくら十二歳だといっても、僕は泣きにくい人間のはずなのに。
そうだ。僕のキャラクターはそうあるべきなんだ。
「……くそっ」
「あのー」
……。 目の前から声が聞こえ、僕は顔を上げた。
よりによって、見覚えのある顔が現れた。
「ベラミ様……大丈夫ですか、それ」
カイリーだった。
「な、なんで」
「……大泣きじゃないですか。先輩冒険者にでもいじめられたんですか?」
カイリーは目の前でしゃがみ込み、首をかしげて僕の顔を覗き込んできた。
「僕のような人間がいじめられるわけないだろ。バカか」
「いじめられたことを認めるのは恥ずかしいことじゃないですよ。恥ずかしいのは、同じ場所に留まり続けること。そして、自分の本当の気持ちに気づかないこと」
「……カイリーにだけは言われたくない」
過去に囚われ続けているカイリーに言われても、ちっとも目が覚めるような思いはしない。――想像上の剣がカイリーの胸に何度も突き刺さり、彼女の目は白目を剥いて空を仰いだ。
「……泣いているから、大人の名言スタイルで慰めてあげようと思ったのに。そうやってすぐ反撃するのはルール違反ですよ」
「そういう名言は、せめて信頼できる人の口から言ってください」
「ベラミ様って本当にかわいげがないですね。まだ十二歳なんですから、大人の言うことに口答えしない子供らしくしてくださいよ」
「遠慮しておきます」
僕は涙を拭い、呼吸を整えて意識を安定させた。 ……よし、これで問題ない。
「それで、ここで何をしてるんですか?」
「それはこちらのセリフですよ。ベラミ様が夜になっても帰ってこないから―皆、家出したんじゃないかって大騒ぎだったんですからね」
「……その件については、本当に申し訳ありませんでした。ところで、ジェミリーさんは一族の人を呼んで僕を捕まえに来ましたか?」
「えっ、捕まえる? ベラミ様、一体何をしでかしたんですか。白状するなら今のうちですよ。捕まる前に私が逃げますから」
逃げるのかよ。こいつ、本当に信用できないな。
「私はまだ、大海原に放り出されたり、粉々にされて行方不明になったりしたくないんです。私の平穏な生活を壊さないでください。これは心からの切実なお願いです」
カイリーは腕を組んで真剣に言った。僕はそれを無視して話を逸らす。
「何もないならいいです。じゃあ、早く家まで送ってください」
「はいはい、分かりましたよ。仰せの通りに」
「……」
僕は立ち上がり、家までカイリーの後をついて行った。道中、何も考えず、ただひたすら月明かりを見上げながら歩いた。
家に到着するとすぐに、ジェミリーさんとカイランが心配そうに色々と尋ねてきた。僕は誰とクエストに行ったのか、そして街の周辺に魔獣がいるかもしれないという手がかりが見つかり、ギルドが混乱したために帰宅が遅れたのだと正直に話した。
皆、その理由に納得したようで、しばらくするとそれぞれ寝室へと戻っていった。
一方、僕は図書室に座っていた。
訓練をするわけでもなく、ただ窓辺に座って、ぼんやりと外を眺めていた。
時刻は深夜零時を回っている。目的もなくこうして漂うような時間を過ごすのは、本当に久しぶりだ。さっさと寝て、起きてから自分を高めるルーチンをこなすべきなのに……。
どうかしちまったのか、僕は。
「……ん?」
窓の外、階下を眺めると、一匹の生き物が家の前をうろうろと歩き回っていた。あっちもどうかしているようだ。
僕は大きくため息をつき、緑のスライムを掴んで窓を開け、二階から飛び降りた―地面に着く直前、クッション代わりにスライムを投げ、衝撃を殺した。
僕はその来訪者を冷ややかに一瞥した。
「こんな夜更けに他人の家の前で何をしているんですか。……スライムの魔獣さん」
そこに立っていたのは、紛れもなくあのスライムの魔獣だった。




