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猫さん型のクッキーに癒されつつ、容赦なく口に運んでは広がるバターの香りに、にまにましてしまう。プレーンとチョコの二種類みたいで、あ、ココアパウダーはあるんだなぁと思い厨房の人にココア飲ませて欲しいなんてお願い出来ないものかちょっと考える。クッキーとセットできっと美味しさ百倍な筈だ!甘い物は正義だ!
「クッキー美味しいですね、形も可愛いしつい手が出ちゃいます」
「これを作ってくれたのは料理長のフツキと言う男なんですけれど、この男がまた面白いんですのよ?このキート種のクッキーの他にも、チリンの花型のマドレーヌにピイト種の形の飴細工なんて本当に可愛いらしいものを作るのに、本人はびっくりする位厳つくて。この私でさえ、幼体の頃は会う度に泣きましたもの」
「そ、そんなに厳つい方なんですか‥‥。まあでも、こんなに可愛い物を作ってくれるなら、きっと優しい方なんですねぇ。このクッキーで癒されましたもん。そうだ、フルーさんフツキさんに美味しかったですって会う予定があれば伝えて下さい」
「うふふ、はい。フツキには必ず伝えますね、きっと喜びますわ」
フルーさんが泣く程の厳つさか、どんな人だろう?気になるなぁ‥‥‥‥、あ、気になると言えばフルーさんに聞こうと思ってた事があったじゃないか。
「フルーさんにもう一つ聞きたい事があったんでした。フルーさんとっても良い匂いがするじゃないですか、何の香りだろうと思って」
「あらスイ様ったら良い匂いなんて、照れますわ。香りでしたらこれですわ、プラムナの花の香袋なんですよ。昔から大好きな花ですの」
花も恥じらうような笑顔で豊満な胸元から手のひらサイズの小さな巾着袋を手渡され、顔に近付けてみればふわりと香る優しく甘い香りに気持ちが落ち着く。
プラムナの花はどんな花だろう?この香りから想像するに、コスモス的な感じ?いや、撫子みたいに可憐な花かな?それともダリアみたいな華やかな感じ?‥‥‥‥でもきっと素敵な花なんだろうなと思う。だって、フルーさんの目も大好きな花だと言う声もひどく優しげだもの。
そんな風に思いつつ香袋をフルーさんへ返していたら、私の真後ろからそれはそれは背筋の冷える声が聞こえてきた。私の前に立ってるフルーさんも小さく小さく‥‥これはちょっと一人占めし過ぎたかしら。と呟いて視線を反らしていた。
「スイ様、私の元に来る事を忘れていらっしゃいますよ。いつまでもいらっしゃらないので、お迎えに。さあ、戻りましょう。‥‥フルーは後でじっくり話を聞こうか」
「もうっサイラスも初日とか次の日とか一人占めしていたじゃない、これであいこよ?」
「あああの、お二人とも落ち着いて。サ、サイラスさんもごめんなさいっ私が勝手にお喋りを始めちゃって、その‥‥とても楽しくて長居してしまってですね、つまりその、お、怒るなら私を叱って下さい!」
勢いよく頭を下げて、私が戻らないとと思いながら自分の欲に負けたのが悪いのだと再度すみませんでしたと謝罪。勢い余ってサイラスさんの右手を両手で握りしめたのは、無意識だった。
スベスベの手に女の部分が負けたと言ってくるが、私も悪いのに何故か怒られないと言う非常にいたたまれない状況はごめんである。
「‥‥‥‥スイ様、その、手を離して、頂けると有りがたいのですが‥‥」
「え?あっ!ごごごめんなさいっすぐ離さないでっフルーさんも笑わないで下さいよぉ」
いつぞやのルディさんのようにそっぽを向きながら手を離して欲しいと訴えるサイラスさんについ握り締めていた両手を急いで離した。それを見ていたフルーさんがとってもにこにこしていて軽く私は混乱している。
「サイラスったら初なのねぇ~、どんな娘にアプローチされても無表情でスルーしてた癖に。スイ様、今日はこれでお開きに致しますわ。また明日お茶しましょうね!」
「フルーっ!余計な事言うなっ!スイ様このまま執務室へ転移致しましょう。執務室をしっかり思い浮かべて下さい」
「‥‥あはは。いや、はい思い浮かべます。フルーさんまた明日、お茶もクッキーも美味しかったですご馳走さまでした」
なにやらからかわれたらしいサイラスさんに好奇心で聞くのは何だか危なそうだなぁと考えて、先に執務室へ転移していったサイラスさんの後を追うべくフルーさんに一礼してあのふかふか椅子の自分の執務室を思い浮かべた。
無事に執務室に着いて、転移出来たとほっとした。