おとぎ話を歌おう
「ははさま。
ははさまぁ。
おはなししてぇ」
「おはなしぃ。
ききたい~」
ベッドの中で布団をかぶっている娘達にせがまれる。
蝋燭のやわらかな明かりの中、好奇心旺盛な二人の娘はちっとも眠気など見せずに私の言葉を待っている。
ああ。
そうよね。
遥か昔の時間、私もこうして物語を教えてもらった。
いずれ、この子達も自分の子供達に物語を伝えるのだろう。
「ははさまぁ。
おはなしぃ~」
「おはなし~」
待ちきれなかったのか、娘達は上半身を起こして私の顔を覗き込んでくる。
「はいはい。
分かったから」
優しく二人の娘に布団をかぶせてあげる。
そう。
私に師匠がしてくれたように。
ついに師匠のあとは継げなかったけど、精一杯愛情を注いでくれた師匠。
間違った道に進んでも私が間違いに気づくまでじっと待ってくれた師匠。
私が結婚したときに既にこの世界から消え去っていた師匠。
今もこの夜空の下、師匠はおとぎ話を歌っているのだろう。
古い古い記憶。
ほとんど忘れてしまった時間の記憶。
けど暖かくて優しい思い出。
脈々と受け継がれる思いの欠片。
「じゃあ、おはなしをしてあげる」
「わーい♪」
「おはなしぃ♪」
そう。
この光景をこの子達も思い出すのだろう。
そしてこの子達の子供達も。
その子供達も。
おとぎ話は伝えられてゆく。
その優しさと共に。
「むかしむかし……あるところに……」