あり奇たりな崩壊
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「いいかい?能力はね、その人が望んだものになるんだよ。だから、自分の能力から目をそらしちゃダメ。一生付き合っていかなきゃならないんだよ。」
能力者だった私のお祖母ちゃんは、私にそう教えてくれた。私の家系は代々能力者が多く、私も能力に目覚めた。お姉ちゃんの能力は、純粋にお姉ちゃん自身の憧れからの能力だったけど、私のは違った。現実から逃げるために生まれた能力だった。
小さい頃から気が弱く、友達が少なかった私は、いつしかいじめの対象にされるようになった。誰にも相談できず、独りで抱え込んでいるうちに、私の能力は発現した。私は、いじめを『無視』した。何をされても全く気にならない。気にしない。それが私の能力だった。
今までいじめられる度に泣いていた私が、急に何をしても無表情で無視するようになったことを気味悪がって、いじめはますますひどくなった。それでも私は『無視』し続けた。いじめは中学に上がっても続いた。
ある日、何をしても反応を示さない私に怒りを覚えたらしい男子が、本を読んでいた私に向かって椅子を降り下ろした。周りの人間が慌てて止めに入ったけれど、怒りで我を忘れたらしい彼は、誰にも止めることができなかった。椅子か私の頭を強打する。私は、それすらも『無視』した。かなりの力で叩きつけられた椅子は、完全に大破した。しかし、無抵抗のまま椅子を叩きつけられたはずの私には、かすり傷ひとつ付いていなかった。流石に私も驚いたけれど、その驚きも『無視』して、無表情のまま本を読み続けた。私の周りには、誰も近づかなくなった。いじめもなくなった。
私は、同じ中学の生徒が誰も選ばなかった高校を選んだ。もちろん私が能力者であることは誰も知らない。友達も、多いとは言えないけどできた。私は、静かだけど誰にも悪意を向けられない、この学校での生活が大好きだった。
そんなある日、私のクラスに転校生が来た。別に興味はなかったけれど、嫌でも彼に注目せざるを得なかった。突然、誰かに魔力を当てられたのだ。もちろん私は『無視』した。けれど、誰が魔力を放ったのか気になったので、そっと周りを伺った。転校生の霧神君が冷や汗をかいている。彼は能力者のようだ。でも、魔力を放ったのは彼じゃない。いったい誰が?そう思って霧神君が見ている方に目を向けてみると、そこには私のよく知る男子が座っていた。どうやら、魔力を放ったのは彼のようだ。
(そうか、彼も能力者だったんだ…)
私はにやけそうになって、慌ててその嬉しさを『無視』した。
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「よっ、俺は 風裂 翔渡。よろしくな、霧神。」
「………や、やぁ、はじめまして。僕は 霧神 重樹。よろしくね。」
転校生は能力者だった。こいつと仲良くしていれば、俺が主人公のようなことをする必要はないはずだ。霧神がどんな能力を持っているかは知らないけど、俺は全力でサポートするまでだ。
以来、俺は霧神と行動するようになった。お互い能力の話は持ち出さないけれど、一緒に遊びにいったり、勉強を教えてもらったり(霧神は恐ろしいほど頭がよく、転校してきて以来、全科目において一度も首位を譲ったことがないのだ。)、普通に仲良く過ごしていた。ときどき冗談っぽく、「お前って主人公ポジだよな~」とか呟いて、彼の意識に主人公であることを刷り込むことも忘れていない。これで、何かあったら彼は、主人公として活躍してくれるだろう!
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霧神が転校してきてから一月ほどたったある日、事件は起こった。
昼休みになったので、俺と霧神は校庭の片隅で弁当を食べていた。いつも通りの光景である。しかし、いつも静かなはずの校庭が今日は騒がしかった。校庭にたくさんの生徒が集まっているのだ。
「今日はなんか騒がしいなぁ。何があったんだ?」
「さぁ?ここからじゃ見えないね。行ってみる?」
「そうだな。行こうぜ、霧神。」
俺たちは人だかりができているところに向かった。
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「おいおい、どういう事だよ…!?」
人だかりができているところに向かった俺達の目に、恐ろしい光景が映った。
「誰か…誰か助けてぇぇぇ!!」
女子生徒が叫んでいる。彼女がいるのは、校舎の外に取り付けられている階段の上だった。その階段は、留め具が外れ、今にも崩れそうになっている。そのため誰も近づくことが出来ずにいた。
「このままじゃあの子、落ちちゃうよ!」
霧神が慌てている。俺もどうすれば良いかわからず立ち尽くしていた。
(もしかしたら、霧神の能力がわかるんじゃ…)
現実逃避気味にそんなことを考えていたが、冷静に考えてみると、この状況で彼女を助けることが出来るのは恐らく俺か霧神だけだろう。霧神がちらちらと俺の方を見てくる。あいつも同じことを考えているのだろう。
階段はどんどん傾いていく。女子生徒は捕まっているだけで精一杯のようだ。
(霧神、早く助けに行けよ…!!)
そう思うが、霧神は動く気配がない。そうこうしているうちにも、階段は更に傾いていく。そしてついに、バキッという音が聞こえて、階段が倒れ始めた。生徒たちの悲鳴が聞こえる。だが、誰もどうすることも出来ない。そして、霧神も焦った表情を浮かべるだけで助けに向かう気配はない。
「くそっ!俺がいくしかないのかよ!!」
そう叫んで俺は走り出した。
(風よ………ッ!!)
風を纏って空を駆ける。その間にも、階段は彼女を地面に叩きつけようとしている。
「間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
彼女を抱き上げて高度をあげた瞬間、階段は完全に地面に倒れた。
「あっぶねぇ、ギリギリだったぜ…」
冷や汗がとまらないが、なんとか彼女を助けることができた。とりあえず校庭に彼女を降ろした。
「君、大丈夫かい?」
「さ、さわらないでください!!!!!!」
いきなり彼女に突き飛ばされた。え?俺って助けただけだよな?戸惑っている俺に向かって彼女は叫んだ。
「あ、あなた、ななな、何で空飛んでるんですか!?」
まぁ、ごもっともな指摘である。どう答えたものかと考えているうちに、彼女は俺が予想だにしていなかった言葉を叫んだ。
「この化け物め!!二度と私に近づかないで!!」
そう叫んで、彼女は校舎内に駆け込んでいった。え?そうなっちゃうわけ?俺は化け物か?まぁ、そりゃ空飛んじゃったらそう思うかも知れないけれど、いくらなんでも言い過ぎでしょ?
だが、そう思ってたのは俺だけのようだった。
「化け物…」「確かに飛んでたよね…」「人間じゃないの?」「化け物よ…」「化け物…」
集まっていた生徒達は、ひそひそと話しながら俺から距離を取り始めた。その目には、嫌悪の色が浮かんでいる。気がつくと、校庭には誰もいなくなっていた。
「おいおい、マジかよ…」
帰っていった生徒に紛れて、霧神も姿を消していた。
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その日以来、俺の生活は一変した。俺が化け物であるという噂は翌日には学校中に広まり、誰も俺に近づこうとしなくなった。靴が無くなったり、教科書や机に落書きをされたりと、俺に対するいじめも起こった。教室に入ったら机がなかったりもした。霧神も話しかけてくることはなかった。唯一、月詩だけは変わらず俺に寄り添ってくれていたけれど、このままだと彼女までいじめの対象になりかねないので俺から別れを告げて、俺に近づかないように言った。月詩は納得していないようだったけど、とりあえず俺の言った通りにしてくれている。俺は自分のことより、月詩のことが心配だった。
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あの事件から一週間ほど経った時、遂に恐れていた事態になってしまった。
朝教室に入ると、月詩が数人のクラスメイトに責め寄られていた。化け物の彼女だとか、お前も同類だとかいう罵声を浴びながらも、月詩は無視し続けていた。俺はもう我慢の限界だった。
俺は月詩の周りにいる男子の一人の胸ぐらをつかんで怒鳴り付けた。
「何やってんだよ、彼女は関係ないだろうが!!」
「黙れ化け物。お前が化け物なら、親しくしているこいつも同類だろ。」
俺の中で何かが崩れ去った。
「てめぇら、いい加減にしろよ!!」
そう叫んだ瞬間、勝手に能力が発動した。周りの机などが凪ぎ払われる。だが、もう俺には、そんなことはどうでもよかった。
「ほらーー!!やっぱり化け物じゃないですかーーー!!」
いきなり立ち上がって俺に向かって何か叫びだした滑舌の悪い眼鏡のクラスメイトに、俺は手を向けた。
「うるせぇ、黙ってろよ。」
そのクラスメイトはいきなり後方に吹き飛び、黒板に叩きつけられた。黒板は彼の形の穴を開けている。その彼を中心に手形の跡がついている。その見えない手に押し潰されたたまま、彼はまだ壁に張り付いている。
「お前らみたいな、どうでもいい理由で人を傷つけるような奴が人間なら…」
俺は更に力を込める。手形が更に大きくなり、黒板の周りの壁にも亀裂が入り始めた。
「俺は、化け物でいいよ。」
彼を押し潰そうとしたとき、急に能力が発動しなくなり、彼は床に倒れ込んだ。
(暴走したせいで能力が制御出来なかったのか…?まぁ、どうでもいいや)
俺は窓を蹴り抜き、外へ飛び出して、風を使って宙に浮いた。振り返ると、月詩が心配そうにこちらを見つめ、霧神が俺の方を睨んでいた。
俺は教室に背を向け、風に乗って飛び去った。
非友情出演…w




