第93話:初期化(ファクトリーリセット)の波と、全リソースの結集
空を割って現れた無機質な『光の眼』から、波紋のように初期化の光が放たれ続けていた。
「おおおおおおおォォォッ!!」
カイトはトリニティ・アヴァロンの推力を全開にし、迫り来る初期化の波を極光のブレードで強引に切り裂きながら、一直線に空の『目』へと突っ込んでいく。
だが、神のOSが実行する強制削除の圧力は、カイト一人の演算能力を遥かに凌駕していた。
『——【警告:無効なプロセス(アヴァロン)の接近を検知。対象を強制終了します】』
目から放たれたひと際強い光がアヴァロンを包み込む。
その瞬間、アヴァロンの強固なはずの白銀の装甲が、パラパラと白いポリゴン(網目)へと変換され、空に溶けるように消滅し始めたのだ。
「ぐっ……!? 装甲が……いや、機体の構成データそのものが、根こそぎ消されていく……ッ!」
コクピットに激しいアラートが鳴り響く。
カイトの神速のタイピングによる修復パッチの展開すら追いつかない。このままでは、神の懐に辿り着く前に機体ごと完全に消去されてしまう。
——その時だった。
「——カイト! お前一人にすべてを背負わせはしない! 俺たちの勇気も持っていけェッ!!」
黄金の光が、消えかけていたアヴァロンの背中を力強く支えた。
リュウジの乗る『ジェイ・ガスト』だ。自らの魔力炉を限界まで回し、その莫大なエネルギーを直接アヴァロンのシステムへと流し込んでいく。
「リュウジさん……!」
「俺たちを誰だと思っている! ずっと、お前の泥臭いデバッグに付き合ってきた『勇者』だぞ!!」
「カイト、私もいるわよ! あんたの背中は、私が死んでも守るわ!」
スミレの『ブラッディ・ネイル』も逆サイドに張り付き、機体の全リソースをアヴァロンの防御壁の補強へと注ぎ込んだ。
「——ブレイヴ・アークの主砲回路をバイパス! 全出力、アヴァロンの推進力に回すぞ! ぶっ飛べ、カイトォ!」
「ジャミング全開! 少しでも神の処理速度を遅らせるよーっ!!」
ナギとリナも、強襲艦から限界を超えたバックアップを送り続ける。
さらに、地上からも規格外の支援が飛んできた。
『……先輩。帝都の生き残った全サーバーを、僕の天叢雲経由で直結させました。帝国の民が生きようとする力……そのすべての演算領域を、あなたに譲渡します』
「九十九……お前、自分の脳神経が焼き切れるぞ!」
『フッ。美しいシステム(世界)を守るためです。……やってください、佐藤先輩!』
かつての戦友(リュウジさん、スミレ、リナ、ナギ)。
そして、かつての敵(九十九、帝国の民)。
このマギア世界で出会い、ぶつかり合い、そして共に生きてきたすべての者たちの想い(データ)が、光の粒子となってアヴァロンへと集積されていく。
「カイト! 私の魔力も、全部使って!」
最後尾から、セレナの『ホワイト・ヴィクトリー』がカイトの機体を真っ直ぐに見据え、その莫大な白銀の魔力を解き放った。
「私を『本物』にしてくれたカイトなら、絶対にやれる……! あのふざけた神様を、ぶっ飛ばしてきて!!」
全員の力が、アヴァロンのコアに流れ込む。
消えかけていた装甲のポリゴンが、瞬く間に修復されていく。
いや、ただの修復ではない。神の初期化すら弾き返すほどの、七色に輝く『絶対装甲』へと機体が進化を果たしたのだ。
「……ああ、受け取ったぜ。お前らの最高に泥臭くて、温かいデータ……しかとインストールした!!」
カイトの瞳に、極限の闘志が燃え上がる。
アヴァロンの極光のブレードが、七色の光を纏って巨大な大剣へと姿を変えた。
「行くぞ、神様! これが、お前がバグだと切り捨てた俺たち(ユーザー)の……最強の反逆だァァァッ!!」
七色の極光を纏ったアヴァロンが、初期化の波を完全に押し返し、ついに天空の『光の眼』のド真ん中へと到達した。
「——全データ解放!!」
カイトの振り下ろした巨大な光の剣が、神の無機質な瞳へと深々と突き刺さった——!




