第91話:相棒の盾と、強制終了(シャットダウン)の一撃
「——いっけええええっ! 邪魔な装甲ごと、全部ブチ抜いてやるぞ!!」
ナギの勇ましい絶叫と共に、ブレイヴ・アークの全砲門が一斉に火を噴いた。
無数のミサイルと高出力レーザーの雨が、一直線に黒き巨神の胸部へと殺到する。リナの演算サポートによって一寸の狂いもなく急所へ集中した弾幕は、巨神の分厚い外殻をガリガリと削り取り、ついにその奥底で赤く脈打つ『メインエンジン(心臓部)』を露出させた。
「道が開いた! さすがナギとリナだ!」
アヴァロンのコクピットで、カイトは加速ペダルを踏み込む。
『おのれ、小賢しい羽虫共が! 我の心臓に届くなどと、自惚れるなァッ!』
ゼノンが激昂し、スミレやガストを追っていた『触れれば消滅する黒い腕』の一本を、強引にカイトへと振り下ろした。
大気を削り取りながら迫る、絶対消去の巨大な拳。
アヴァロンの神速をもってしても、回避は間に合わないタイミングだった。
——だが、カイトは避ける素振りすら見せなかった。
なぜなら、彼の背後には『最高の相棒』がついているからだ。
「——言ったでしょ! 私のカイトには、指一本触れさせないって!!」
カイトの斜め後ろから弾き出された白銀の光。
セレナの乗る『ホワイト・ヴィクトリー』だ。カイトの暗号化によって守られた彼女の機体は、純白のシールドを全開にして、巨神の黒い拳を正面から受け止めた。
ガガガガガガガガガガッ!!
『なにっ!? 我の初期化の拳が、防がれただと!?』
ゼノンが驚愕の声を上げる。
本来なら触れた瞬間に消滅するはずの攻撃。しかし、カイトがセレナに施した『所有権の上書き』という強固な防御壁が、システムの強制消去を完全に弾き返していたのだ。
「カイト! 今よ!!」
セレナが巨神の腕を押し留めながら叫ぶ。
「サンキュー、セレナ! お前は最高のパイロットだ!」
カイトは相棒の背中を信じ、露出した巨神の心臓部へとついに肉薄した。
赤くドクドクと脈打つ、巨大なコア。
単純に物理で破壊しても、奴の異常な修復能力ですぐに元通りになってしまう。
だからこそ、カイトは右腕の極光のブレードに、膨大な『破壊プログラム』を圧縮して注ぎ込んでいた。
「——どんなにデカいシステムだろうがな、大元の電源を引っこ抜かれりゃ、ただの鉄クズなんだよ!」
『や、やめろォォォッ!! 我は管理者! この世界の理そのものだぞ!!』
命乞いのように叫ぶゼノン。
「俺たちが生きてるのは、お前が作った綺麗で退屈な箱庭じゃない。——泥まみれで、バグだらけで、それでも仲間と笑い合える『現実』だ!!」
カイトは右腕を大きく振りかぶり、極光のブレードを巨神の心臓のド真ん中へと深々と突き立てた。
「——強制終了だ、ゼノン!!」
ズプゥッ!!
ブレードから流し込まれた致死量のウイルスデータが、巨神のコアを一瞬で黒く染め上げる。
ピキッ、ピキピキピキッ……!!
自己修復機能を完全に破壊された心臓部から、無数の亀裂が走った。
それは瞬く間に巨神の全身へと広がり、絶望を振りまいていた四本の腕も、天を突くほどの巨体も、ボロボロと砂のように崩れ落ちていく。
『ア、アアアアアアアアアッ!? 我が、我の完璧なシステムが……崩壊、する……! バカな、こんな非論理的な……』
空に浮かんでいたゼノンのホログラムが、ノイズまみれになって断末魔を上げる。
そして。
カツン、と。
完全に崩壊した巨神の残骸の中から、ゼノンの『本体』であった小さな端末が、力なく帝都の地面に転がり落ちた。
「——やった……!」
ブレイヴ・アークでナギが拳を突き上げ、スミレとリナが抱き合って喜ぶ。
地上で天叢雲のコクピットに座る九十九も、安堵の笑みを浮かべて目を閉じた。
ついに『真なる世界兵器』を完全に破壊したのだ。
帝都を覆っていた絶望の暗雲が晴れ、久方ぶりの太陽の光が差し込んでくる。
カイトも大きく息を吐き、隣に並んだセレナのヴィクトリーと軽く拳を突き合わせた。
——だが。
彼らが勝利の余韻に浸ったのは、ほんの数秒のことだった。
ピキッ。
空から、ガラスが割れるような異音が響いた。
カイトが見上げると、晴れたはずの青空に、巨大な『黒いヒビ』が入っていたのだ。
「……なんだ、あれは」
ゼノンという『端末』が破壊されたことで、この世界を管理していた大元のシステム——『神のOS』そのものが、ついに直接干渉を始めたのだ。
空が割れ、そこから覗く、無機質で巨大な『目』。
本当の最終決戦。
神への最終ハッキングの幕が、今、絶望的なスケールで切って落とされようとしていた——。




