第90話:絶対消去の巨神と、俺たちのチームワーク
帝都の地下要塞が、天を突くほどの『黒い巨神』へと姿を変えた。
主砲を失った要塞が、より直接的に世界を破壊するために選んだ真の姿。帝都の残骸を取り込み、天叢雲を遥かに凌ぐ四本の巨大な腕を生やしている。
『さあ、初期化を始めよう! この世界のすべてを、チリ一つ残さず消し去ってくれるわ!!』
ゼノンの狂声と共に、巨神の巨大な腕がブレイヴ・アークに向けて振り下ろされた。
その拳が、帝都の高層ビル群をかすめる。
「——おいカイト! あの黒い腕、ヤバいぞ!!」
ブレイヴ・アークのブリッジから、ナギが血相を変えて叫んだ。
「ただ壊してるんじゃない! 腕が触れた建物の残骸が、一瞬で砂みたいに消滅してやがる!」
モニター越しに見るその光景は、異常だった。
巨神の腕が触れた物体は、粉々になるのではなく、空間ごと『削り取られる』ように跡形もなく消え去っていくのだ。
「触れたものを、データごと根本から『なかったこと(初期化)』にする機能か……ッ!」
カイトは歯打ちした。
どんなに分厚い装甲を張っても意味がない。触れられれば最後、機体ごとこの世界から完全に消去されてしまう凶悪な攻撃だ。
「なら、触れられる前に切り刻むまでよ!」
『悪を断つ剣、受けてみよ!!』
スミレの『ブラッディ・ネイル』と、黄金の勇者『ジェイ・ガスト』が左右から飛び出し、巨神の腕に斬りかかる。
青き光の刃と黄金の剣が、巨神の装甲を深く切り裂いた。
——だが。
『無駄だ無駄だ! 我の身体は、帝都の無限の魔力と繋がっている!』
ズズズッ、という不気味な音と共に、巨神の斬られた傷口が一瞬にして塞がっていく。
圧倒的な自己修復能力。
「チッ! ダメージを与えても、一瞬で元通りに直しやがるぞ!」
ナギがコンソールを叩きながら悪態をつく。
「……どんな巨大なシステム(化け物)にも、必ず『急所』があるはずだ。九十九! 生きてるか!」
カイトは通信機を開き、地上で倒れている後輩の名を呼んだ。
『……先輩、人使いが荒すぎますよ』
ノイズ混じりの通信の向こうから、血を吐きながらも不敵に笑う九十九の声が聞こえる。
『あの巨神、僕の作った街のパーツを勝手に継ぎ接ぎして巨大化したせいで、構造のあちこちに隙間ができています。……今、そこから内部構造のマップを抜き出しました』
ピピッ、と。
カイトたちのアヴァロンのモニターに、巨神の透視図が送られてくる。
そして、その巨大な胸の奥深くに、赤く点滅する『一点』が表示された。
『要は胸の奥底です! 動力を生み出しているあのメインエンジン(心臓)さえ破壊すれば、巨神の修復は追いつかず、完全に崩壊します!』
「さすがお前だ、九十九! 最高の解析だぜ!」
カイトは口角を上げ、操縦桿を強く握り直した。
敵の急所は分かった。
だが、あの胸の奥底に攻撃を届かせるためには、触れれば消滅する四本の『黒い腕』をかいくぐり、分厚い装甲をぶち破らなければならない。
「スミレ、リュウジさん、ガスト! 奴の腕を二本ずつ引きつけてくれ! 囮になって時間を稼ぐんだ!」
「人使いが荒いのはカイトの方じゃない! ……まぁ、任せなさい!」
『我が身を盾とし、正義の道を開こう!』
「ナギ、リナ! ブレイヴ・アークの全兵装で、巨神の胸の装甲を剥がせ! 俺が通る『道』を作れ!」
「おう! 弾幕張って、表面の硬い殻をブチ抜いてやるぞ!」
「私に任せて、カイト君! 全力でいくよーっ!」
カイトの的確な指示によって、仲間たちが一斉に動き出す。
一人で完璧を求めるゼノンの孤独なシステムに対し、役割を分担し、互いの弱点を補い合うカイトたちの『泥臭いチームワーク』。
「——カイト! 私も行くわ!」
隣を飛ぶ『ホワイト・ヴィクトリー』から、セレナの力強い声が響く。彼女の機体は今、カイトの暗号化によって守られ、眩い白銀の光を放っていた。
「セレナ。お前は俺の背中を頼む。俺がコアを叩き割るまでの隙をカバーしてくれ」
「ええ、任せて! 私の『相棒』には、指一本触れさせないんだから!」
カイトのアヴァロンと、セレナのヴィクトリー。
二つの光が寄り添うように、帝都の空を真っ直ぐに駆け抜ける。
『小賢しい羽虫共が! 我の初期化の前に、すべて消え去れェェッ!』
ゼノンの怒号と共に、四本の腕がスミレたちに襲い掛かり、胸部からは迎撃用の無数のレーザーがカイトたちに向けて放たれる。
「——行くぞ、ゼノン! お前の組んだクソみたいなプログラム(理)は……俺たちが完全に叩き直してやるッ!!」
カイトは極光のブレードを構え、迎撃の雨を縫うように、巨神の心臓へと一直線に突撃した——!




