第88話:アクセス拒否(Access Denied)と、狂気の強制起動
帝都の地殻が、まるで薄いガラスのように内側から粉砕された。
空を覆うほどの土煙と地鳴りの中、地下深くから浮上してきたのは、黒鋼で造られた禍々しい超巨大要塞だった。
『真なる世界兵器』。
都市一つを丸ごと飲み込めるほどの圧倒的な質量。その表面には、脈打つように禍々しい赤黒い魔法陣が幾重にも走っている。
『ハハハハハッ! 見よ、この美しき破壊の具現を!』
空に投影されたゼノンの巨大なホログラムが、勝利を確信して両腕を広げた。
『——さあ、世界を終わらせる時だ! 起動キーであるセレナ・フォーン・ブレイブよ! お前の波長をよこせ!!』
ゼノンが要塞のコンソールから、空に浮かぶ『ホワイト・ヴィクトリー』へとアクセス要求を送信する。
セレナの魔力波長を強制的に読み取り、要塞のメインシステムをアンロックするための絶対の命令。
だが——。
【System Error:対象へのアクセスが拒否されました】
【対象の波長データは、未知の暗号化によって保護されています】
【Permission Denied(権限がありません)】
『……は?』
ゼノンの高笑いが、ピタッと止まった。
『エ、エラーだと? 馬鹿な、そんなはずはない! 対象は我々管理者が造り出した偽装データ(パーツ)だぞ! アクセス権限はすべてこちらにあるはず——』
「——残念だったな、ゼノン」
通信回線に、カイトの冷たく、そして圧倒的な自信に満ちた声が割り込んだ。
アヴァロンのコクピットの中で、カイトは腕の中にいるセレナの肩を抱き寄せたまま、不敵に笑う。
「そのデータ(セレナ)の『所有権』は、もうお前たちにはない。俺がさっき、管理者権限でパスワードを変更しておいた」
『なっ……貴様、イレギュラー! たった数分で、対象のコアコードを暗号化したというのか!? 物理的な魔力同調なしに、そんな真似ができるはずが……ッ!』
「さあな。だが、お前たちの『鍵』はもう存在しない。……お前の計画は、ここで強制終了だ」
カイトの言葉に、隣で顔を赤くしたセレナが「……カイトの、馬鹿」と小さく呟きながら、彼の胸に顔を押し付けた。
完璧だったはずの計画を、たった一人のハッカーに泥臭く叩き潰されたゼノン。
そのホログラムの顔が、怒りと屈辱で醜く歪んでいく。
『……おのれ、おのれおのれェェェッ! どこまでも我らのシステムを汚すか、バグ共が!!』
ゼノンの絶叫と共に、巨大要塞の赤黒いラインが、不気味な明滅を始めた。
『鍵が使えないなら、手段は選ばん! この帝都のすべてをリソース(生贄)にしてでも、貴様らを物理的に消去してやる!!』
ズゴゴゴゴゴゴッ!!
要塞の下部から無数の黒いケーブルが放たれ、帝都の街へと突き刺さる。
それは、九十九が構築した「美しきオブジェクト指向の都市」から、莫大な魔力と演算領域を強制的に吸い上げる『ドレイン機能』だった。
光を失い、崩壊していく幾何学的なビル群。
その光景を、地上で機能停止した『天叢雲』のコクピットから、傷ついた九十九が見上げていた。
「……僕の、街が……。僕が、先輩に見せるために作った……美しいコードが、食われていく……」
九十九の瞳に、システムを蹂躙される絶望と、管理者への明確な怒りの火が灯る。
「——カイト! 要塞の主砲、魔力充填率1000%を超えてるっす! このまま撃たれたら、帝都ごと消し飛ぶっすよ!!」
ブレイヴ・アークのブリッジから、ナギの悲鳴に近い報告が飛ぶ。
「チッ、なりふり構わずリソースの力押しに切り替えてきやがったか!」
カイトはセレナの身体をそっと座席に残し、自身の操縦桿を強く握り直した。
「スミレ、セレナ! そしてガスト! ブレイヴ・アークの前に展開しろ! 要塞の極大ビームを、力ずくで相殺するぞ!!」
『了解!!』
世界を滅ぼすための黒き光が、要塞の巨大な砲口に収束していく。
対するカイトたちは、三位一体の勇者ロボと、強襲艦の全シールドを正面に展開した。
「——ここからが本当の『防衛戦』だ! 踏ん張れェッ!!」
帝都の空を二分する、絶望の砲撃と希望の光。
真なる世界兵器との、文字通りの総力戦が今、幕を開けた——!




