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第86話:偽りの血脈と、孤独な強制終了(シャットダウン)

ズズズズズズズッ……!!


帝都の地下を突き破り、天を突くほどの巨大な黒鋼の塔がその全貌を現した。

 『真なる世界兵器』——管理者が用意した、この世界を物理的に初期化フォーマットするための最悪のハードウェア。

 その表面に走る幾何学的な魔法陣の輝きは、空に浮かぶ『ホワイト・ヴィクトリー』の魔力光と、不気味なほど完全に一致していた。


『こい、セレナ・フォーン・ブレイブ。……お前のその波長パスワードで、この世界の理を完全に終わらせてやろう!!』


空に浮かぶゼノンの巨大なホログラムが、狂気の笑い声を上げる。


「……あ、ああ……っ」


ホワイト・ヴィクトリーのコクピットの中で、セレナの顔から一気に血の気が引いた。

 自分の魔力が、心臓の鼓動が、あの恐ろしい兵器と共鳴しているのがハッキリと分かる。巨大要塞が完全起動ロードを終える前に、自分がここから離れなければ——自分自身が、仲間たちを殺し、世界を滅ぼす起動スイッチになってしまう。


(私が……私が、みんなを殺す……!)


『偽りの血脈』という絶望。

 自分は勇者警察の令嬢でも何でもない。ただ、この兵器を動かすためだけに管理者に作られた、呪われたプログラムの『部品パーツ』だったのだ。


セレナは震える手で、メインモニターに映る仲間たちの顔を見た。

 スミレ。リナ。ナギ。……そして、誰よりも敬愛し、隣に立ちたいと願ったカイトの姿。


(……カイト。私を、ただの部品じゃなくて『本物』だって言ってくれて、ありがとう。……でも、だからこそ)


「——ごめんね、カイト。……私、もう行かなきゃ」


『おい、セレナ!? 何を言って——』


ピッ。

 セレナは通信回線リンクを一方的に切断した。

 そして、操縦桿を限界まで倒し、魔力炉をオーバーロードさせる。


「私を置いて逃げて! 私がここにいたら、あの兵器が動いちゃうから!!」


外部スピーカーでそう叫び残し、ホワイト・ヴィクトリーは帝都の空の彼方へ、たった一人で飛び去ろうとした。

 仲間たちを巻き込まないため、自らを永遠の孤独オフラインへと隔離するために。


だが——。


「——一人で勝手にエラー吐いて、強制終了しようとしてんじゃねぇよ」


帝都の空を、極光の流星が切り裂いた。

 地上から神速で飛来した『トリニティ・アヴァロン』だ。八枚の光の翼から莫大な推進力を叩き出し、音置き去りにして逃げるホワイト・ヴィクトリーの背後へ一瞬で肉薄する。


「カイト!? なんで追ってくるの! 離れて、このままじゃ要塞の起動ロードが終わって、みんなが……っ!」


ガキンッ!!


アヴァロンの屈強な両腕が、逃げようとしたホワイト・ヴィクトリーを背後から力強くホールドした。


「カイト! お願い、私を離してぇっ!!」


悲鳴のように叫ぶセレナ。

 だが、カイトの冷徹で、そしてどこまでも熱いコマンド入力がシステムに響き渡った。


「——対象機体の管理者権限ルートを奪取。……システム、強行ドッキング!!」


ガガウンッ!!

 空中で、アヴァロンの胸部ハッチとヴィクトリーの背面ハッチが物理的に連結される。火花が散り、強引なロックオンが完了した。


プシューッ、と。

 セレナの背後にある隔壁が開き、そこから、ヘルメットを脱ぎ捨てたカイトが、狭いコクピットの中へと真っ直ぐに踏み込んできた。


「カ、カイト……だめっ……! 私の魔力をゼノンが読み取ろうとしてるの! 私に近づかないで!!」


涙と恐怖で顔をくしゃくしゃにして叫び、後ずさろうとするセレナ。

 カイトはそんな彼女の悲痛な拒絶を一切無視し——震える彼女の身体を、その腕で正面から強く、強く抱きしめた。


「——っ!?」


世界が滅びるかもしれない最悪の戦場。

 その上空の狭いコクピットの中で、二人の時間だけが、不意に停止した──。

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