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第85話:完璧なコードの欠陥と、泥臭い「最適解」

帝都の暗い空を、真昼のように照らす極光。

 カイトの乗る『トリニティ・アヴァロン』が、神速で九十九の天叢雲アマノムラクモへと肉薄する。


「……綺麗なだけのコード(理想)で、泥水を啜ってきた俺たち(現実)を止められると思うなよ、九十九」


「ふ、ふざけるなあああっ!!」


左腕二本を失い、バランスを崩した天叢雲。

 だが、九十九の狂気はまだ折れてはいなかった。


残った右側の二本の腕が、膨大な魔力を圧縮し、カイトへ向けて『絶対死の槍』を形成する。

 相手を物理的・論理的に完全消去する、九十九の最高傑作キラー・コード


「死ね! 先輩は僕のシステムの一部になればいいんだっ!!」


放たれた必殺の槍。

 だが、カイトは避けない。防御すらしない。

 アヴァロンは一直線に、その槍の切っ先へと突っ込んだ。


「——カイト!?」

 通信越しにセレナが悲鳴を上げる。


しかし。

 槍がアヴァロンの装甲に触れた瞬間——カイトの機体は『光の粒子』となって、ふっと空間に溶けるように消えた。


「……なっ!? 消えた!? どこへ——」


九十九がモニターで周囲を索敵するよりも早く。

 カイトの本当の刃は、天叢雲の『背後』から静かに突き立てられていた。


「——遅延処理ディレイを使った、ただの残像ホログラムだ。お前の組んだ『絶対必中の槍』は、対象の座標データを真っ直ぐに追いすぎる。……誘導が単純なんだよ」


「あ……が、ぁ……っ!?」


ズプッ……!!


カイトのアヴァロンが放った極光のブレードが、天叢雲の背中から胸部コアを完全に貫いていた。

 だが、爆発は起きない。

 代わりに、九十九の網膜ディスプレイに、カイトのブレードから流し込まれた『膨大なデータ』が強制的に表示された。


『……なんだ、これは……っ!?』


九十九は息を呑んだ。

 カイトの機体を動かしているソースコード。それが、九十九の脳内に直接流れ込んできたのだ。


それは、九十九が愛した「無駄のない美しいオブジェクト指向」とは対極にあるものだった。

 傷ついた部分を別のプログラムが庇い、エラーが出れば別のモジュールが無理やり修正し、継ぎ接ぎだらけで、泥臭くて、非効率。

 いわゆる『スパゲッティコード』と呼ばれる、汚いプログラム。


だが——。


「……どうして、これで動くんだ? 物理法則が破綻しているのに……っ!」

「……俺一人の力じゃないからさ」


カイトの静かな声が響く。


「このコードには、スミレの『絶対に諦めない意志』がパッチとして当たってる。セレナの『血を吐くような努力』が魔力炉を回してる。ナギの『技術への愛』が装甲を支え、リナの『祈り』がノイズを弾いてるんだ」


カイトのシステムの根幹。

 それは、ただの数字の羅列ではない。

 この異世界で出会い、共に泥水を啜り、背中を預け合ってきた仲間たちの『想い』そのものだった。


「お前の組んだシステムは、確かに美しい。誰一人欠けることを想定していない、完璧な孤独の城だ。……だから、一つ想定外のバグ(絆)をぶつけられただけで、脆くも崩れ去る」


カイトの刃から、温かい光が天叢雲全体を包み込む。

 それは破壊の光ではない。

 九十九の歪んだシステムを優しく解きほぐす、修復デバッグの光だった。


「九十九。……システムってのはな、エラーを吐きながら、誰かに助けてもらって、一緒にアップデートしていくもんさ。……お前も、前世で俺によく助けを求めてきただろ?」


「あ…………ぁぁ……」


その言葉に、九十九の目から大粒の涙が溢れ出した。

 そうだ。思い出した。

 前世で、どうしようもないバグを出して泣きそうになっていた自分を、缶コーヒー一本で笑って助けてくれた先輩の背中を。

 自分が本当に憧れていたのは「完璧なシステム」なんかじゃない。あの温かい「先輩の隣」だったのだ。


「……僕の、負け、です。……佐藤先輩……っ」


天叢雲の四本の腕が、力なくダラリと垂れ下がる。

 機能停止。

 帝国最強の天才設計士が、完全に敗北を認めた瞬間だった。


「——勝った……! カイト様が、帝国の化け物を倒したぞぉぉっ!!」


リナの配信を通じてその光景を見ていた全世界の民衆、そしてラース王国の騎士たちが、割れんばかりの歓声を上げる。


「……ふぅ。やれやれ、手間のかかる後輩だ」


カイトはアヴァロンのコクピットで、小さく息を吐いた。

 ブレードを引き抜くと、天叢雲はゆっくりと帝都の広場へと不時着していく。

 九十九は死んでいない。機体のコアだけを無力化し、命までは奪わなかったのだ。


「甘いわね、カイト。あれだけ殺し合って、トドメを刺さないなんて」

 スミレが呆れたように言うが、その声はどこか優しかった。


「馬鹿言え。優秀なプログラマーは貴重なんだ。……これからの『世界の大改修アップデート』には、あいつの頭脳もこき使ってやるさ」


カイトがニヤリと笑った、その時だった。


『——素晴らしい。まさか我が帝国の最高傑作すらもデバッグするとは。賞賛に値するぞ、新しき管理者カイトよ』


ズズズズズズズッ……!!


不意に、帝都全域を激しい地震が襲った。

 空に浮かぶブレイヴ・アークの警告アラームが、けたたましく鳴り響く。


「な、何っ!? 帝都の地下から、信じられない質量の魔力反応が上がってくるっす!!」

 ナギの悲鳴。


割れた帝都の地面から、ゆっくりと姿を現したのは——ゼノンの狂気に満ちた巨大なホログラムと、それを映し出す『黒い鋼鉄の巨塔』。


『さあ、準備は整った。……これより、我が帝都に眠る【真なる世界兵器】を再起動する!』


ゼノンの視線が、真っ直ぐにセレナの乗るホワイト・ヴィクトリーへと向けられる。


『こい、セレナ・フォーン・ブレイブ。……お前のその波長パスワードで、この世界の理を完全に終わらせてやろう!!』


倒すべき真の敵、ゼノン。

 そして遂に姿を現した『真なる世界兵器』を前に、カイトたちの最終決戦の幕が上がろうとしていた——。

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