表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/101

第84話:インストールされた魔力と、反撃の白銀(ルミナス)

リナの「アンテナ体質」によって極限まで増幅された全域ジャミング(物理的DDoS攻撃)が、天叢雲アマノムラクモの多重演算回路に直撃する。


「……くぅっ! さすがに帝都のメインフレーム相手の逆流はキツいけど……! カイト君のためなら、これくらいッ!」

 ブレイヴ・アークのブリッジ。リナの鼻筋から一筋の血がツゥと流れるが、彼女は構わず配信ユニットの出力をさらに引き上げた。


「——なっ!? 何だ、この膨大なゴミデータ(パケット)の濁流は……っ! 僕の完璧な演算が……意味不明なノイズに食い潰されていく……!?」

 帝都の管制システムと直結している九十九の脳内に、無数のエラーログが赤々と警告を鳴らす。完璧だった四属性の結界が、一瞬だけノイズに塗れ、明滅するように激しく揺らいだ。


カイトはその刹那の隙を見逃さない。

 彼の網膜ディスプレイには、すでにこのコンマ数秒の遅延ラグを前提とした、完璧な『キル・プロセス』が組み上がっていた。

(九十九、お前は優秀なプログラマーだ。だが、一人で全てを完璧に管理しようとするあまり、外部からの無秩序な負荷トラフィックに対する逃げ道が甘すぎる!)


「——リナ、そのまま回線を限界まで圧迫しろ! スミレ、セレナ! 奴のメインプロセスが完全にフリーズする前に、一気に叩き割るぞ!」

了解イエス!!』


カイトの号令に応え、セレナは愛機『ホワイト・ヴィクトリー』の操縦桿を強く握りしめ、魔力炉の出力を限界レッドゾーンまで引き上げた。

 機体を覆う六枚の白銀の翼が、莫大なマナを吸い上げて眩い光を放つ。


(……私の魔法。世界を滅ぼす、バグ兵器と同じ力……)


セレナは元の世界——勇者警察の世界では、ただの天才設計士の娘であり、魔法など一切使えない一般の令嬢だった。

 彼女がこの異世界で規格外の魔力を振るえるのは、決して生まれつきの才能などではない。世界を転移する際、管理者が彼女を「現地人」に偽装するための初期設定として、地下に眠っていた古代兵器の魔力データ(プログラム)を丸ごとコピーし、彼女の魂に強制的に『インストール』したからだ。


最初は、そのあまりに強大で異質な魔力をまったく制御できず、夜な夜な魔力酔い(オーバーフロー)で血を吐き、暴走の恐怖に怯える日々だった。

 だが、自分が転移者だと自覚した後、彼女はカイトの隣に立つため、そして彼を守るために、ラース王立魔法学院へ入学したのだ。

 血を吐くような努力と、寝る間も惜しんだ魔力循環の訓練。……すべては、この世界で「ただの守られるだけの令嬢」で終わらないため。システムから押し付けられた『バグのような力』を、彼女は自らの意志で制御できるまでに飼い慣らした。


(誰に押し付けられたコードだろうと関係ない! カイトが本物だと認めてくれた、私が磨き上げたこの力で……カイトの道を切り拓くッ!)


「——ルミナス・ストライク、最大出力フルロード!!」


セレナの絶叫と共に、ホワイト・ヴィクトリーから放たれた極太の白銀のレーザーが、ノイズで明滅していた天叢雲の四属性結界に深々と突き刺さる。


——パツンッ!!

 空間が割れるような甲高い音を立てて、九十九の誇る完璧なオブジェクト結界が粉々に砕け散った。


「馬鹿な!? 外部からの強引な魔力超過オーバーフローで、僕のクラス設計を物理的に叩き割ったというんですか!? こんな非論理的なゴリ押し……!」

 九十九の驚愕の声が響く。


「——よくやったセレナ! 最高のデバッグだ!」

「ふふっ、私をただの足手まといのお嬢様だと思わないことね!」


結界が消滅した無防備な空間へ、今度はスミレの『ブラッディ・ネイル』が青き光の刃を構えて肉薄する。


「さあ、あんたのその小綺麗な装甲……私の刃でバグだらけにしてあげるわ!」

「……くっ! 物理レイヤーからの直接攻撃ですか。だが、甘い! その程度の単調な攻撃なら、僕の実体盾シールドで——」


天叢雲の四本の腕が、スミレの刃を迎え撃つために実体盾を展開しようとした——その時だった。

 カイトの唇に、氷のような冷たい笑みが浮かぶ。すべては、この瞬間のために「裏で回していた(バックグラウンド)」処理だった。


『——その甘さは、貴様の方だ! 九十九とやら!!』

「な……っ!?」


帝都の空を、黄金の軌跡が切り裂いた。

 ブレイヴ・アークで待機していたはずの『ジェイ・ガスト・リベレイター』が、強襲輸送艦のカタパルトから超音速で射出され、天叢雲の死角である完全な頭上を取っていたのだ。

 カイトはセレナとスミレが敵のヘイト(演算リソース)を完全に引きつけたコンマ一秒の隙を狙い、自動でカタパルトが射出されるよう輸送艦にタイマー処理を仕込んでいたのである。


『我が魂の閃光、悪を貫く! 勇者の裁きを受けよ……ジャッジメント・バスター!!』


ズドォォォォォォォォォォンッ!!

 ジェイ・ガストの黄金の巨砲から放たれた正義の光条が、実体盾を展開する間もなく、天叢雲の左腕二本を根元から完全に消し飛ばした。


「ああああっ!? 僕の……僕の美しき機体が……っ!! エラー! 腕部ユニット・ロスト!!」


悲鳴を上げ、機体のバランスを崩す九十九。

 そして、その最大の隙を突くように、カイトの乗る『トリニティ・アヴァロン』が、神の速度で九十九の眼前に迫っていた。

 アヴァロンの胸部から放たれる極光の輝きが、帝都の暗い空を真昼のように照らし出す。


「……綺麗なだけのコード(理想)で、泥水を啜ってきた俺たち(現実)を止められると思うなよ、九十九」


カイトの右腕——極光のブレードが、九十九の天叢雲へ向けて無慈悲に振り下ろされた──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ