第77話:重装の盾と、地脈(サーバー)を喰らう巨大バグ
漆黒の山脈が、動いていた。
帝都の誇る古代兵器『テュポーン・フレーム』。王都の城壁すら足首に満たない超巨大なバグの塊が、 大地を削りながら進軍してくる。
だが、その眼前に立ち塞がる光の巨神——『トリニティ・アヴァロン』の操縦席で、カイトは不敵に笑っていた。
「的がデカいのは助かる。エイム(照準)の調整がいらないからな」
「油断しないでよカイト! あのデカブツ、周囲の魔素を根こそぎ吸い上げてるわ!」
右腕部を担う『ブラッディ・ネイル』からスミレが叫ぶ。
「質量だけじゃない。システム上のエラー値を強制的に実数化しているわ。……カイト、別働隊が王都へ向かった!」
左腕部の『ホワイト・ビクトリー』からセレナが警告を放つ。テュポーンの背部から射出された無数の無人機が、カイトたちを迂回して王都ラースの空へ殺到していた。
だが、カイトは一切振り返らない。
「——リュウジさん。バックエンド(王都の防衛)は任せましたよ」
『ああ、任せろカイト。……この街には指一本、いや、バグ一つ触れさせはしない』
通信越しに、低く落ち着いた大人の男の声が響く。元警察庁・勇者ロボ隊隊長、リュウジだ。
王都の広場では、巨大な盾を構えた勇者ロボ『ジェイ・ガスト』が空を見上げていた。
『我が魂の炉心はすでに臨界点にある! カイト殿が我らに背中を預けたのだ、必ずや応えてみせようぞ、リュウジ!』
『行くぞ、ガスト! ナギ、サポートメカの射出を頼む!』
広場の特設コンソールで、ジェイ・ガスト信者の天才メカニック・ナギがキーボードを弾く。
彼女の瞳は、推しの勇姿にハートマークが浮かばんばかりに輝いていた。
「任せてリュウジさん! ガスト様、私が徹夜で調整した新装備、たっぷり堪能してね! 行けっ、ビルド・ハウンド!」
ナギの弾むようなタメ口の号令と共に、地下格納庫から装甲犬型のメカが射出される。
『——合体だ、ガスト!!』
リュウジの熱い号令に呼応し、ジェイ・ガストとビルド・ハウンドが空中で眩い光に包まれる。
分厚い追加装甲、両肩にマウントされた巨大な多連装キャノン。重厚な鋼の鎧を纏った姿で、王都の城壁にドスンと降り立った。
『——重装勇者ジェイ・ガスト! 悪を断つ盾として、ここに推参!』
「きゃあああ! ガスト様、最高にカッコいい! 録画、録画しなきゃ!」
ナギが黄色い歓声を上げる中、操縦席のリュウジは冷静に全砲門の照準を上空の別働隊に合わせた。
『一掃する。——フルバースト・キャノン!!』
ジェイ・ガストの両肩から放たれた極太のレーザーが、王都の空を覆っていた数千の無人機を一瞬にして焼き尽くし、鮮やかな花火のように散らした。
「……流石はリュウジさんとガストだ。これで憂いなく『メインプロセス』をデバッグできる」
カイトは王都の安全を確認し、再び眼前のテュポーン・フレームへと向き直る。
「スミレ、セレナ! リミッターは全解除状態だ、俺の演算にしっかり捕まってろ!」
『言われなくても!』
『ええ、最大出力で行くわ!』
トリニティ・アヴァロンが、空間を削るような轟音と共にテュポーンの懐へ跳躍した。
カイトは管理者権限による超絶的なバフを、右腕のブレードに集中させる。
「消えろ、レガシー(遺物)!!」
振り下ろされた極光の刃が、山脈のようなテュポーンの漆黒の装甲を斜めに両断する。
——勝負あった。誰もがそう思った瞬間。
斬り裂かれたテュポーンの断面から、どろりとした赤黒い『触手のようなコード』が溢れ出し、一瞬で装甲を修復してしまった。
『フフフ……無駄だ、管理者カイト。テュポーンはこの世界の「地脈」そのものと物理的に結合している。お前が世界を破壊しない限り、無限に修復されるのだ』
ゼノンの冷酷な声が響く。
「カイト! 敵の質量がさらに増大しているわ! このままじゃ押し潰される!」
セレナの悲痛な叫び。
だが、カイトの目は死んでいなかった。むしろ、極上の難題を見つけたハッカーのように、獰猛な笑みを浮かべている。
「——世界と結合してる? なら話は早い。……『地脈のシステム(ルーティング)』ごと、俺が今ここで全部書き換えてやる」
カイトの両手が、発火するほどの速度でキーボードを叩き始めた——。




