第75話:宣戦布告の強制終了と、三体超合体(トリニティ・アヴァロン)
「——ふざけるな。……俺のシステム(世界)に、勝手にマルウェアをばら撒く気か」
カイトの静かな怒りの声がコクピットに響く。
王都の空を覆い尽くす巨大な魔導スクリーン。
そこに映し出された漆黒の巨躯『テュポーン・フレーム』から放たれる禍々しい魔力は、映像越しですら王都の民衆を震え上がらせていた。広場では近衛騎士たちすらも絶望に顔を青ざめさせている。
だが、画面の向こうの帝都最高技術長ゼノンは、そんなカイトの反応など気にも留めず、勝ち誇ったように長々と宣言を続けようとしていた。
『フフフ……感謝するぞ、新たなる管理者よ。我が帝都の真の力、とくと味わうが——』
「——他人の通信網にタダ乗りして、長々とスパムを垂れ流すな」
ターンッ!
カイトの指が、アヴァロンのコンソールを強めに弾く。
Enterキーが叩かれた瞬間、全世界のスクリーンに映っていた帝都の映像が、フツリとブラックアウトした。
『なっ……!? 通信が……遮断されただと……!? 貴様、我が帝都の秘術を……』
「——発信源のIPは特定した。帝都からのアクセス、全件ブロック完了だ。二度と来るな」
カイトは無慈悲な『アクセス拒否』で、ゼノンの声を物理的にシャットアウトした。王都の空には、再び抜けるような青空が戻ってくる。
「……あーあ。カイトくん、また強制切断(BAN)しちゃった」
アヴァロンの傍らで配信カメラを回していたリナが、呆れたように空を見上げた。
周囲にいた国王や王宮技師たちが「て、帝都の精神介入魔導をいとも容易く……!?」と腰を抜かしているのとは対照的に、同じ世界から転移してきた彼女の態度はどこまでも軽い。
『うむ! やはりカイト殿の決断は速い! 我もいつでも出撃できるぞ!』
通信機越しに、勇者警察ロボであるジェイ・ガストの熱血な声と、彼を調整しているメカニックのナギの「ガスト様、まだ微調整中だから暴れないで!」という慌てた声が響く。
「……ふん。カイトらしいわ。無駄話の隙を突いてハッキングしてくるような奴、エンジニアとして失格よ。——ねえ、カイト。私の『ブラッディ・ネイル』の暖機運転、もう終わってるわよ?」
真紅の愛機から通信を繋いできたスミレの声には、帝都の宣戦布告に対する怯えなど微塵もなかった。
「……カイト。帝都の地下に眠っていた『テュポーン・フレーム』……あれは管理者が制御できずに封印していた、古代の欠陥兵器よ。
私の『ホワイト・ビクトリー』のセンサーでも、恐ろしいほどの魔力質量を感知しているわ」
白亜の機体から、セレナが冷静な、だが緊張を孕んだ声で報告を上げる。
「ああ。俺が前任の管理者から権限を奪ったせいで、封印のリミッターが外れたんだろうな。
純粋な質量と出力だけで、この世界の処理をパンクさせかねない巨大なバグだ」
カイトの分析を聞き、スミレが即座に好戦的な笑みを浮かべた。
「……なら、思い切り殴って『物理破壊』すればいいんでしょ? あのデカブツ、私が切り刻んであげる」
「単機で突っ込むなよ、スミレ。相手はシステム規格外のバグだ。——だから、最初から『最大火力』でデバッグする」
カイトはアヴァロンのコンソールを操作し、新しく手に入れた『管理者権限』のコードを呼び出した。
「転移前の世界で管理者を打ち倒した、俺たちの切り札。……だが、俺がこの世界の神(管理者)になった今、あの時の『合体』すらも過去のスペックだ」
「……カイト。まさか、システム側から機体の限界設定を直接書き換える気?」
セレナが息を呑む。
「そのまさかだ。この世界の理は、今、俺のキーボードの上にある」
カイトの指が光速で舞う。
アヴァロン、ホワイト・ビクトリー、ブラッディ・ネイル。勇者警察世界から共に転移してきた三機の機体に、世界そのものの魔力(バックグラウンド処理)が直接注ぎ込まれていく。
コンソールには、緑色のコードが滝のように流れていた。
「——行くぞ、お前ら! システム・リファクタリング実行!」
『了解!』
スミレとセレナの声が重なる。
「——三体超合体! 『トリニティ・アヴァロン』、出力制限・全解除!!」
カイトの打鍵音を合図に、王都の空に巨大な魔法陣(展開プロセス)が幾重にも展開される。
漆黒、純白、そして真紅の三つの光が凄まじい魔力の奔流を巻き起こしながら、空中で複雑な装甲のパージと再構築を繰り返し、一つの巨大なシルエットへと結合していく。
大地を揺るがすほどの圧倒的な存在感と神々しいオーラ。
それは、新管理者となったカイトが世界をハックして生み出した、究極のデバッグ・プログラムの誕生だった──。




