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第74話:ルート権限の無駄遣い? 王国の呪い、エンターキーで一括フォーマット完了!

 ──『管理者権限ルートアクセス』。

 それは異世界の地形や生命の理すら自由に弄れる「神の操作画面」だった。


「——なるほど。この世界のソースコード、本当に滅茶苦茶だな」


 王都ラース、城の中庭。

 カイトはアヴァロンのコクピットで、数十枚のウィンドウを呆れたように眺めていた。


 新管理者となってから一夜。

 王都は「神の遣い」の誕生にお祭り騒ぎだが、中身が38歳のエンジニアである彼は、休む間もなく世界のデバッグを始めていた。


「北部の穀倉地帯にある『呪いの毒沼』……なんだこれ、ただの『無限ループする悪性スクリプト』か。アヴァロン、領域を指定しろ」


『対象エリアの座標をロック。上書き準備、完了しました』


「——よし。一括フォーマット(浄化)、実行エンター


 カイトがキーボードをターンッ!と叩く。

 その瞬間、バルコニーで見ていた国王たちが一斉に悲鳴を上げた。


「おおっ!? 北の空を覆っていた数百年の瘴気が一瞬で消え去っていくぞ!」


「最高司祭が一生かけても浄化できなかった呪いが、指先一つで……!」


 視界のエラー領域が、綺麗な「緑(正常)」へ書き換わる。


「ふぅ。これで今年の小麦の収穫量は300%アップだな。さて、次だ」


「——ちょっとカイト! 朝から地形を勝手に弄らないで! 私の索敵レーダーがエラー吐いて再起動しちゃったじゃない!」


 赤い軍服姿のスミレが飛び込んできた。文句を言いつつも、視線はカイトを心配そうに窺っている。


「悪い。だが俺が『管理者』になった以上、この世界の杜撰なインフラは全部俺の『保守対象』だ。

 放置すればまたバグが起きかねない」


「……ふん。相変わらず背負い込むのが好きなのね。

 いいわ、あなたが世界をデバッグするなら、私は『剣』としてノイズを斬る。ちゃんと頼りなさいよ?」


 スミレは顔を赤くし、カイトの肩にそっと寄り添った。


「あら、抜け駆けは感心しないわね。

 カイトの『保守』なら、同じ世界から来た私が一番得意よ?」


 コーヒーを持ったセレナが現れる。

 カイトの権限で存在が固定化された彼女は、以前より艶やかな笑みを浮かべていた。


「体調は大丈夫か?」


「ええ。あなたが私を『TRUE(真)』にしてくれたおかげで絶好調よ。

 管理者の座を奪うなんて、前世のあなたより無茶苦茶ね」


 二人の『運命共同体』の空気に、スミレが唇を尖らせてカイトの左腕にしがみついた。


「ちょ、ちょっと! 私の機体にも昨日の『アップデート』やってよね!」


「あら、私の演算サポートが先よ。ねえ?」


右にセレナ、左にスミレ。エンジニアは二人の美少女による至高の「割り込み処理」に幸せな悲鳴を上げていた。


 だが、カイトのモニターには**『世界中のすべてのログ』が流れていた。


「……なんだ、この通信パケットは」


 甘い空気が一変し、カイトの顔に緊張が走る。

 表示されたのは遥か遠く、「帝都」深層部からの異常アクセスだった。


【Warning:不正な起動シーケンス検知】

Location:帝都・地下第零区画

Object:古代兵器『テュポーン・フレーム』

Status:旧管理者権限ロストにより自律再起動へ移行


「……カイト、これって……!」

 セレナが青ざめる。


「——ああ。……俺が前任の管理者バカから権限を奪ったせいで、……あいつが帝都に『封印』していた最悪のバグが、目を覚ましちまったらしい」


 その時、王都の空に設置されたリナの配信ネットワークが、何者かによって強制的にハッキング(乗っ取り)された。

 全世界の魔導スクリーンに、王都の平和な映像から一転して、帝都の冷たい鉄の部屋が映し出される。


『——聞こえるか、新たなる管理者よ』


機械のように冷徹な男の声が響く。


『我が名はゼノン。帝都の最高技術長。

 貴様が世界の理を書き換えたおかげで、我々はこの『真の力』を起動できた。

 お前のその『論理』、我々の手で完全に解体させてもらおう』


 画面の向こうで、禍々しい漆黒の巨躯

 ——アヴァロンを何倍にも巨大化させたような多関節の機体が、赤い三つの瞳を不気味に光らせた。


「——ふざけるな。俺のシステム(世界)に、勝手にマルウェアをばら撒く気か」


カイトの目に圧倒的な闘志が宿る。

休息は終わった。世界を巡る「神と狂気」の最終デバッグが、最悪の形で幕を開けた──。

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