表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/101

第73話:ルート権限奪取:世界を再定義せよ

……カイト……手が、見えないの……」


 隣で震えるセレナの指先は、すでに半透明のノイズと化していた。

 王都を埋め尽くす民衆の歓声も、今は遠い雑音にしか聞こえない。

 管理者が消えたこの世界にとって、彼女はもはや「保持すべき理由のないデータ」でしかないのだ。


「——黙ってろ、セレナ。……勝手に消えることは、俺の仕様ルールが許さない」


 カイトの指が、アヴァロンのコンソールを叩き折るような勢いで舞う。

 彼の脳内では、この世界のソースコードが激流のように流れていた。

 管理者が遺した、あまりにも杜撰ずさんで、独善的なシステムの残骸。


「——スミレ! リナ! アヴァロンの周囲を封鎖しろ! 誰一人、この機体に近づかせるな!」


「……っ、了解よ! ……おい、白銀のデカブツ! 突っ立ってないで手伝いなさい!」


 スミレの量産機が、剣を引き抜きアヴァロンの前に立ちはだかる。

 状況が飲み込めず困惑する王都の近衛騎士たちを、その威圧感だけで押し留めた。


「——む、むう!? 何やら不穏な気配だが、カイト殿の命ならば! 私の装甲、盾として使われよ!」


 最適化されたばかりのジェイ・ガストが、アヴァロンを包み込むように跪き、巨大な盾を構える。

 伝説の勇者ロボが、一介のエンジニアを守るためにその膝を折った。

 その異常事態に、王都の広場は騒然となる。


 だが、カイトの戦場は「外」ではない。

 アヴァロンのモニターに映し出された、無機質な世界の「カーネル」だった。


【システム警告】

 未承認のデータを確認。整合性維持のため、対象を強制排除します。

 進捗:70%……80%……


「——承認なんて、俺が今ここで発行してやる……!」


 カイトは、アヴァロンの演算リソースをすべて「世界のルートディレクトリ」へのハッキングに回した。

 前世の38年間で培った、泥臭いバグ取りとセキュリティ突破のテクニック。

 それが、異世界の「神の理」をじりじりと侵食していく。


「——アヴァロン、第1から第12までの論理ゲートを全開放。……ジェイ・ガストのコアを外部プロキシ(踏み台)として接続。……世界中の地脈ネットワークを、俺の並列処理に同期させろ!!」


──ドクンッ!!


 アヴァロンの全身から、物理的な衝撃波が放たれた。

 それは、リナが慌てて回し続けていた配信カメラを通じて、全世界の「魔導スクリーン」を蒼く染め上げる。


『な、なんだ!? 画面がバグった!?』

『カイト様、何してるんだ……? あの蒼い光、世界の空を塗り替えてるぞ!?』

『待て、コメント欄が……! 文字じゃない、プログラムのコードが流れてる!?』


 全世界の視聴者が目撃したのは、空を埋め尽くす「蒼い数式の雨」だった。

 カイトが打ち込む修正パッチ(救済のコード)が、世界の空に、大地に、直接書き込まれていく。


「——見つけた。……セレナの『存在定義』……ここか……!」


 カイトの視界に、真っ赤なエラーを吐き続ける一行のコードが浮かぶ。


Object: SERENA = NULL(対象データ:セレナ = 存在消失)


それを、カイトは力強く書き換えた。


Object: SERENA = TRUE(対象データ:セレナ = 存在確定)

// Protected by KAITO(※カイトの権限により永久保護)


「——上書き(オーバーライト)……完了!!」


 カイトがエンターキーを、魂を込めて振り下ろす。

 

 ──パリンッ!!

 

 世界が、ガラスが割れるような音を立てた。

 ノイズに消えかかっていたセレナの体が、一気に実体を取り戻し、温かな肌の色が戻っていく。


「……っ……カイト……!」


 セレナが崩れ落ちるようにカイトの胸に飛び込んだ。

 その瞬間、全世界のモニターに、真っ白な背景にたった一言、カイトの宣言が映し出された。


【ログイン完了】

 新管理者:カイト

「これより、この世界のバグは、俺がすべて管理デバッグする」


 一瞬の静寂の後。

 王都に、そして全世界に、これまでとは比較にならないほどの「魔力投げ銭」と称賛の嵐が吹き荒れた。

 

「……ふぅ。……やれやれ、……とんでもない『納期』だったな」


 カイトは、胸の中で震えるセレナを抱きしめたまま、安堵の息を吐く。

 だが、彼は気づいていなかった。

 

 自分が「管理者権限」を手にしたことで、この世界のどこかに眠っていた「真の最終仕様ラストボス」の封印まで解いてしまったことに──。


「……カイトくん、凄い! 全世界の人が、カイトくんを『神』って呼んでるよ!」


リナの興奮した声が響く中、カイトのモニターには、新たな不穏なログが流れ始めていた。

「カイトさんが世界の権限を握るシーン、鳥肌が立った!」「セレナさんを抱きしめながらハックするのかっこいい!」と思っていただけましたら、評価、感想、ブックマークなどで応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ