第68話:最終パッチ適用:強制ログアウト(デリート)
黄金の光を失い、黒いノイズに塗れた九十九の『天叢雲』。
その巨大な剣が、カイトのアヴァロンを切り裂こうと振り下ろされる。
「……死ね! 死ね死ね死ね!
僕のロジックが、あんたなんかに負けるはずがないんだ!
この世界の魔力は、全部僕の権限下にあるんだよ!!」
九十九の絶叫。
だが、その刃がアヴァロンに届くことはなかった。
アヴァロンの周囲に展開された蒼い魔法陣──『管理者障壁』。
九十九の放つ攻撃は、その壁に触れた瞬間、ただの「無意味な文字列」へと分解されて霧散していく。
「……九十九。……お前、まだ気づかないのか」
カイトは、アヴァロンのコンソールから手を離し、静かに九十九を見据えた。
「——お前の書いたコードは、確かに美しい。……だが、……それは『他人のサーバー』の上で動いている、ただのアプリに過ぎないんだ」
「……あ……? 何を……」
「——この世界の地脈はな、……お前みたいな『荒らし』を、……もう拒絶してるんだよ」
カイトが指をパチン、と鳴らす。
次の瞬間、アヴァロンの胸部にマウントされた『超魔導論理干渉砲』が、これまでの比ではない輝きを放った。
「——セレナ。……最終パッチの流し込み、……手伝ってもらってもいいか?」
「……ええ。……接続完了。……いつでもいけるわ、カイト」
セレナがカイトの手の上に、そっと自分の手を重ねる。
「——スミレ。……奴が逃げないよう、……退路を塞いでおいてくれるか?」
『……了解。……一歩も逃さない。あなたの勝利を、邪魔させないわ』
スミレの量産機が、九十九の背後に回り込み、逃亡用の空間転移を「論理固定」で封鎖した。
「——九十九。……お前が憧れた『最強』は、……ここで終わりだ」
カイトが、アヴァロンのメインレバーをゆっくりと押し込む。
「——管理者権限による、強制実行(sudoコマンド)。
……ターゲット:九十九。……処理:『強制ログアウト(デリート)』!!」
──ドォォォォォォォォォォンッ!!
放たれたのは、砲弾ではない。
この世界の「理」そのものを上書きする、蒼い閃光の濁流だ。
九十九の機体が、その光に飲み込まれる。
だが、爆発は起きない。
黄金の装甲が、黒いフレームが、……そして九十九の傲慢な叫び声までもが、……まるで描いた絵を消しゴムで消すように、音もなく白く透けていく。
「……あ……バカな、……僕のデータが……消去されていく……!?
……待って、待ってよ先輩! 僕は、僕はただ……!」
「——九十九。……やり直してこい。……今度は、……誰かのためにコードを書くんだな」
カイトの最後の言葉が届いたのか。
次の瞬間、平原を埋め尽くしていた九十九の残響は、一ビットの塵も残さず、完全に消滅した。
静寂が、戦場を包み込む。
リナが呆然と呟いた。
「……消えた。……本当に、消えちゃった……」
だが、その静寂はすぐに、王国軍の、そしてリナの配信を見守っていた全世界の「歓喜」によって塗り替えられた。
「……やった! ……カイト様が勝ったぞ!!」
「……王国の救世主だ!」
「……聖女リナ様、万歳!!」
配信のコメント欄(まだ一方通行だが)には、目に見えないほどの「祈り(魔力)」が殺到していた。
「……ふぅ。……ひとまず、……クローズ(案件終了)だな」
カイトはシートに深く背もたれ、安堵の溜息をついた。
だが、彼のエンジニアとしての目は、既に「次のアップデート」を捉えていた。
「……セレナ。……今の戦いで、……世界中の民衆から『魔力』が集まってきただろ?」
「……ええ。……凄い量だわ。……これだけのフィードバックがあれば、……カイトの言っていた『新しい機能』が、……今すぐ実装できるかもしれないわね」
カイトは不敵に笑い、リナの配信ユニットに手を伸ばした。
「——よし。……それじゃあ、……世界中に『声』を届けてやろうか」
それは、この異世界に「革命」が起きる、新たな幕開けだった──。
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