第64話:逆解析(リバースエンジニアリング):本物のプライド
ラース王国、北境平原・最前線。
目の前に並ぶのは、地平線を埋め尽くす漆黒の量産機軍団。
それは、俺が心血を注いで設計したアヴァロンのフレームを、露骨にコピーした「海賊版」だった。
「……皆さん、大変です。リナです!」
俺の背後で、リナが悲痛な声を上げながら『収録』を続けている。
「地平線を埋め尽くす黒いアヴァロン。……これ、全部パクリですよね? 動きも見た目も、カイトくんの機体にそっくりです。……あ、スミレさんの部隊が囲まれました! カイトくん、これ……どうすればいいんですか!?」
「……ハハッ、どうだい佐藤先輩? 懐かしいだろ?
あんたが昔言ってた『究極の汎用機』の設計思想、僕が魔導技術で再現してあげたよ!」
アヴァロンのメインモニターに映る九十九が、勝ち誇ったように笑う。
偽物のアヴァロン軍団が一斉に加速し、スミレたちの量産機へと襲いかかった。
「……チッ。……カイト、この黒い奴ら……速いわ!
アヴァロンの『高周波機動』までコピーしてる!」
スミレの焦った声が通信機から漏れる。
王国の量産機たちは、圧倒的なスペックを誇る「黒い偽物」に押され始めていた。
だが、カイトは慌てなかった。
彼は冷徹な目で、モニターを流れる敵機の魔力波形を凝視していた。
「……九十九。お前、相変わらずだな。……見た目とカタログスペックだけは立派だが、……『エラー処理』がガバガバだぞ」
「……あ? 何を強がって……」
「——セレナ、敵の三号機の排熱データ、全機に共有してくれ。
……あと、ナギ。こいつらの使ってる魔法回路の『共通規格』を特定してくれるか」
「了解。……ふふ、見つけたわよ、カイト。……これ、かなり強引な『コピペ』ね」
セレナがキーボードを叩くと、敵軍の弱点が赤く強調されてモニターに浮かび上がった。
「——スミレ、聞こえるか。……アイツらは、出力を稼ぐために魔力回路の安全装置を外してる。……急加速の直後、0.2秒だけ『冷却バグ』が発生するはずだ」
『冷却バグ……? ……分かった、そこを突けばいいのね!』
スミレの瞳に、エースパイロットとしての冷徹な光が宿る。
偽アヴァロンが急加速し、スミレの機体に肉薄したその瞬間。
スミレは回避するのではなく、あえて敵の「排熱口」に向けて最小限の魔法弾を撃ち込んだ。
──ドォォォォォンッ!!
爆発したのは、スミレの弾ではない。
内部の魔力が逆流し、偽アヴァロンが「自壊」を起こしたのだ。
「なっ、……何だと!? たった一発で……!?」
「——九十九。……エンジニアなら、他人のコードをコピペする前に、……ちゃんと『デバッグ』しろって教えただろ?」
カイトの指が、アヴァロンのコンソールを激しく叩く。
「……お前たちのネットワーク、……今から俺が『強制シャットダウン』してやるよ」
カイトはアヴァロンのアンテナを最大出力にし、特殊な「魔導ウイルス(論理爆弾)」を平原全体に放射した。
それは、九十九がコピーしたアヴァロンのOSにだけ反応する、「無限ループ命令」。
──カチッ、カチカチカチッ!!
次の瞬間、無敵を誇っていたはずの数千台の偽アヴァロンが、一斉にその場で硬直した。
ある機体は前のめりに倒れ、ある機体は腕を上げたまま動かなくなる。
「……なっ!? ……プログラムが……書き換えられた……!?
バカな、……僕の組んだ鉄壁のセキュリティを、外部から一瞬で……!」
「……セキュリティ? ……お前の組むコードの癖なんて、俺が一番よく知ってるんだよ」
カイトは、先輩としての冷ややかな、だが確かな勝利の笑みを浮かべた。
「——スミレ。……動かなくなったゴミの山、全部デリート(破壊)してきてくれ」
『了解! ……掃除の時間ね!』
王国の量産機たちが、動けない敵軍に向かって一斉に突撃を開始した。
圧倒的な勝利。
だが、九十九の通信は、まだ途切れていなかった。
『……ハハッ、……ハハハハハ! さすがだよ、佐藤先輩!
……でも、……今の『パッチ』で、僕に本当のメインプログラムを出させちゃったね』
九十九の通信が、歓喜に震える。
「……何だと?」
その瞬間、空を覆っていた黒雲が、内側から凄まじい「黄金の光」によって切り裂かれた。
『いいよ、先輩。……コピペの劣化版はもう終わりだ。
……僕がこの世界で、一からコードを書き上げた“最強のロマン(仕様)”……。
その目で拝ませてあげるよ!』
天から降り注ぐのは、目が眩むほどの金色の粒子。
そして、地響きと共に平原に降り立ったのは、アヴァロンの倍以上の大きさを誇る、「黄金の龍」と「黄金の獅子」だった。
「……龍と、獅子……? ……九十九、お前……、何を造ったんだ!?」
カイトの瞳が、かつてないプレッシャーに大きく見開かれる。
黄金の二体が咆哮を上げ、互いの魔力回路を「マージ(結合)」させようと空へ舞い上がった──。
「カイトさんの逆解析、超格好いい!」「九十九の金ピカ、絶対合体するやつだこれw」と思っていただけましたら、評価、感想、ブックマークなどで応援いただけると嬉しいです!




