第61話:全機能再構築(トータル・リファクタリング):世界の仕様を上書きせよ
【緊急】カイトくんが「本気」になりました。……ガレージから出てこないんですけど!【リナch. 収録モード】
「……皆さん、お疲れ様です。リナです!
九十九さんのあの不気味なメッセージの後、カイトくんは、一言も喋らずにガレージに籠もっちゃいました。
でも、怒ってるっていうより……なんだか、すごく楽しそうに笑ってるんですよね。
今、アヴァロンの装甲が全部剥がされて、中身が丸見えなんですけど……これ、明日までに終わるんですか!?」
***
──ラース王立魔法学院、地下機甲工房。
剥き出しのフレーム、床に散乱する魔導回路、そして空中に浮かぶ数十枚の透過モニター。
その中心で、カイトは、油にまみれた作業着の袖を捲り上げ、狂ったようにキーボードを叩いていた。
「……ふふ、……はははっ! 九十九、お前、あんな『オブジェクト指向』を魔法に持ち込むなんて……。
……面白い。だったら、こっちは『分散計算』で対抗してやる……!」
カイトの瞳には、かつて「佐藤」と呼ばれていた頃、どんな無理な納期もねじ伏せてきた社畜エンジニアの執念が宿っている。
23歳の若々しい肉体を得たことで、集中力とスタミナは全盛期を超えていた。
「カイト、あまり根を詰めすぎないで。……あなたの『メインプロセス』が焼き切れたら、私の存在意義がなくなってしまうわ」
セレナが、心配そうに、しかしどこか誇らしげにカイトの背中を見つめている。
彼女はカイトの指示に従い、アヴァロンのOSを抜本的に書き換える「超魔導コンパイラ」の調整を進めていた。
「……大丈夫だ、セレナ。……アイツ(九十九)の狙いは、この世界の『魔法』の脆弱性を突いたハッキングだ。
……なら、俺がやるべきことは一つ。……アヴァロンを、この世界の法則から『独立』させる」
「……物理法則そのものを……書き換えるというの?」
「——いいや、……『最適化』するだけだよ」
そこへ、音もなく一人の影が歩み寄る。
「カイト。差し入れ。これを飲んで、再起動して」
スミレが、カイトの好みの温度に調整された飲み物を差し出した。
彼女はかつて、カイトの整備工場でバイトをしていた頃から、彼が「ゾーン」に入った時の扱いを誰よりも熟知している。
「……悪いな、スミレ。……助かるよ」
「……当然。私は、あなたの専属だから。
周囲の警戒は私が完璧にこなす。
……あなたは、あなたの『正義』を貫いて」
スミレの真っ直ぐな瞳に、カイトは少しだけ表情を和らげ、再びコンソールに向き直った。
「——よし。……セレナ、ナギ。……アヴァロンの全魔導回路を直列から並列に切り替える。
……それと、王国の魔法機甲のデータもすべて吸い出せ」
「……王国の機体も? ……あれは、あなたの設計思想とは程遠い鉄クズだと思っていたけれど」
カイトは不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、今はな。……だが、……俺の『魔導技術』をライブラリ化して流用すれば、あのボロ機体共も、……帝国の量産機を圧倒する『新型』に生まれ変わる。
……九十九。……お前が個人で攻めてくるなら、……俺は王国全土を『ネットワーク(軍団)』にして、お前をデバッグしてやるよ……!」
カイトが最後の一撃をキーボードに叩きつけた瞬間、格納庫に鎮座するアヴァロンの眼光が、かつてないほど鋭い黄金の光を放った。
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第61話、カイトの「エンジニアとしての本気」と、次なる大規模プロジェクトへの伏線をビルドしました。
38歳の魂を持つ23歳のカイトが、愛着のある「サカモト重機整備」の精神を異世界で爆発させる姿……。
そして、セレナとスミレ、それぞれの形での献身。
「カイトさんの仕事モード、最高に格好いい!」「王国軍の量産機がどう変わるのか楽しみ!」と思っていただけましたら、評価、感想、ブックマークなどで応援いただけると嬉しいです!




