第59話:リナの才能開花:世界初の魔法生配信
ラース王立魔法学院、旧校舎屋上。
夕闇に包まれ始めた学院の空に、俺は一本の巨大な魔導アンテナを設置していた。
「……皆さん、お疲れ様です。リナです!」
俺の背後で、リナが圏外のスマホを構えて『収録』を続けている。
「カイトくんの『デバッグ』のおかげで学院の暴走騒ぎも収まりましたけど……。
今、私はもの凄く変な格好をさせられています。両手に魔法銀のブレスレット、頭にはヘッドセット。
これでこれで魔力をキャッチして、映像として飛ばすらしいんですけど……。
ちょっと、カイトくん! そんなに真剣な顔で私の回路を弄らないでくださいっ!」
「……我慢しろ。ノイズが乗ったら配信が途切れる」
俺はアンテナの調整をしながら、リナの装備の最終チェックを行う。
その傍らでは、スミレが周囲を警戒しながら、俺の背中をじっと見つめていた。
「……カイト、あまり無理しないで。……何かあったら、私が絶対に守るから」
かつて敵幹部として戦い、俺の整備工場でバイトをしていたスミレにとって、この背中を守ることこそ が今の「最優先プロトコル」らしい。
彼女は学院の女子生徒たちが近づかないよう鋭い視線を送りつつ、俺の作業の癖──集中すると無意識に左の眉が動く瞬間──を見逃さず、絶妙なタイミングで飲み物を差し出してくれる。
「……助かるよ、スミレ。お前がいてくれると、あの整備工場にいた頃みたいに作業に集中できる」
「……っ!? ……そ、それは……。当然のメンテナンスよ。変なこと言わないで」
俺が無自覚に向けた言葉に、スミレは慌てて眼鏡を押し上げ、赤くなった顔を隠した。
「——よし、リナさん。魔力を一定の周波数に固定して。……テオ、学園中の『魔導投影機』の受信ポートを開放!」
俺がEnterキーを叩くと同時、リナの体からまばゆい純白の光が天に向かって放射された。
その光はアンテナを中継し、見えない魔法の波となって学院全体へと広がっていく。
学院中のスクリーンが一斉に輝き、リナの笑顔が映し出された。
初めて見る「リアルタイム配信」に生徒たちが釘付けになる中、カメラは作業中の俺の横顔と、俺が操作する魔導コンソールを映し出す。
そのコンソールの側面には、俺が元の世界への愛着から刻み込んだ、この世界には存在しない「漢字」のプレートが鈍く光っていた。
『サトウ:試作03型(納期厳守)』
「……よし。パケットロスなし。大成功だ、リナさん」
俺は満足げに頷いた。だが、この時、俺の放った高純度の魔導パルスは大気中の魔力と共鳴し、俺の意図を超えて「国境」を越え始めていた。
***
──同じ時刻。ヴァルカス帝国の最先端魔導研究所。
巨大な水晶モニターが、ノイズ混じりにリナの配信映像を映し出していた。
「……ほう。この魔法記述、このパケット構成……。美しいな……」
白衣を着た青年──九十九が、陶酔したようにモニターをなぞる。
九十九は、転移前の世界で38歳だった「佐藤先輩」を仰ぎ見ていた若手エンジニアだ。
「画面に映っている男……顔は知らない。僕の知っている佐藤先輩は、もっと納期に追われて老けていたはずだ。……だが、この魔法パルスの組み方。
冗長なコードを一切排除し、地脈のノイズを逆利用して出力を稼ぐこの『変態的な最適化』……。世界に一人しかいない」
九十九は、リナの背後に映り込んだ機材のプレートを拡大した。
そこに刻まれた『サトウ:試作03型』という、あまりに懐かしく、忌々しい文字の羅列。
「……ふふ、笑わせてくれる。あんた、あっちの世界で死んだと思ったら、こんなところで若返って『英雄』ごっこかい? ……顔を変えても、その『設計思想(魂の指紋)』までは隠せてないよ、佐藤先輩」
九十九は、自ら魔法で作った日本語配列のキーボードを叩き、カルト的な笑みを浮かべた。
「いいよ。あんたのシステム、僕が内側からハックしてやる……!」
九十九の指が最後の一撃を叩きつけた瞬間、帝国の研究所から放たれた「超高出力のノイズ」が、リナの配信ネットワークへと侵食を開始した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
38歳の魂を持つ23歳のカイト。
そして、カイトが転生する前の世界から直接やってきた九十九。
顔は違えど、機材のプレートと「変態的な最適化コード」というエンジニアにしか分からない証拠で、ついに二人の因縁が繋がりました。
「九十九の執着心が怖いけど熱い!」「スミレの助手っぷりが完璧!」と思っていただけましたら、評価、感想、ブックマークなどで応援いただけると嬉しいです!




