第55話:【波乱】23歳、魔法学院の制服に袖を通す
──ラース王立魔法学院、中庭。
石造りの歴史ある校舎を背景に、坂本カイトは複雑な表情で自らの「制服姿」を眺めていた。
転生で23歳の肉体に若返ったことで、紺色のブレザーと学院の紋章が入ったネクタイが、不気味なほどによく似合っている。だが、転生前は納期と腰痛に悩まされてきた38歳のベテランエンジニアだ。
「……テオ、これ、本当に着なきゃダメか? 精神的にくるんだが」
「……はい。カイト様、この学院は格式が高く、制服着用は絶対の仕様ですから。……でも、……その、……見違えました。やはりカイト様はお若いですね」
テオが必死にフォローする横で、同じ制服に身を包んだエルナが、顔を赤くしてカイトを凝視していた。
「……す、素晴らしいです、カイト様! まるで、戦場を退いた伝説の騎士が、身分を隠して学びに来た……そんな物語の主人公のようですわ!」
「……エルナ、お前はちょっと妄想が激しすぎるぞ」
カイトは溜息をつき、隣でノリノリのセレナ・フォーン・ブレイブを見た。
彼女は制服を完璧に着こなし、短いスカートを翻してカイトの周りを回っている。
「いいじゃない、カイト。……『郷に入っては郷に従え』よ。……それに、ここのライブラリ(図書館)には、この世界の魔法記述の最古のログが保存されているんでしょ? 解析のチャンスじゃない」
「……仕事(解析)ができるなら、我慢するがな」
学院長室での面談により、一行はそれぞれの適性に合わせて学科が振り分けられた。
• 魔法工学専攻: カイト、セレナ、ナギ
• (魔法機甲の整備と、魔法の論理化を目的とする「開発チーム」)
• 魔法騎士専攻: リュウジ、カスミ
• (実戦訓練。リュウジは学生というより、すでに新任教官のような風格で周囲を威圧している)
• 一般魔法学専攻: リナ
• (まずは基礎から。……のはずだった)
入学初日。講堂で行われた「魔力適性検査」。
この世界の学生たちが、水晶に手を触れて「魔力の色と量」を測定する、伝統的な儀式だ。
「……次は、リナ」
試験官の声に、リナが緊張した面持ちで前に出る。
カイトたちが「どれどれ」と見守る中、リナが水晶に触れた瞬間──。
──パキィィィィィィィンッ!!
凄まじい純白の光が講堂を埋め尽くし、測定用の水晶が限界を超えて粉砕した。
「……なっ、……馬鹿な!? 測定不能だと!?」
「……これほどの魔力、……建国以来の天才、いや、……聖女の再来か!?」
ざわつく教師陣。だが、カイトだけは冷静にデバッグ用端末を叩いていた。
「……なるほど。リナさん、お前の体質……。……外部の魔力を吸収して増幅する、『超高性能アンテナ』みたいな構造になってるんだな」
「……えぇっ!? 私、人間なのにアンテナなんですか!?」
「……おまけに、増幅した魔力を特定の周波数に変換する効率が異常に高い。
……これなら、俺が考えていた『魔導生配信魔法』の、……最強の配信機(物理サーバー)になれるぞ、リナさん」
「……カイトくん、もっとこう……女の子として褒めてくれないかな!?」
しかし、一行の入学を快く思わない連中もいた。
「——おい、貴様ら。……どこの馬の骨とも知れぬ『転移者』が、……神聖な学院の空気を汚すな」
廊下でカイトたちの前に立ちふさがったのは、豪華な金縁の制服を着た、鼻持ちならない貴族の子弟たちだった。
彼らの背後には、最新鋭を謡う魔法機甲が数台、誇らしげに並んでいる。
「……特にそこの23歳。……エルナ嬢をたぶらかし、……陛下を騙して『賢者』を気取っているとは片腹痛い。……貴様のような平民に、魔法の真髄が理解できるものか」
「……なんだ、この『未熟なコード』が服を着て喋ってるような奴は……」
カイトが冷たく言い放つと、貴族の少年は顔を真っ赤にして叫んだ。
「——黙れ! ……そこまで言うなら、魔法機甲による『決闘』で証明してみせろ! ……我らエリートの魔法技術が、貴様らの正体不明の『鉄クズ』に劣らぬことをな!」
カイトは、隣で呆れているリュウジと、ハンガーで待機しているアヴァロンの超AI(意識体)を感じ、小さく口角を上げた。
「……いいぜ。……仕様の優劣は、実機テストで決めるのが一番確実だ。……リュウジさん、……久しぶりに『共同作業』、やりますか?」
「……ああ。……教育ってやつを、叩き込んでやるよ」
魔法学院の訓練場。
歴史ある校舎が震えるほどの咆哮を上げ、トリニティ・アヴァロンとジェイ・ガストが、その真の姿を現そうとしていた。




