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第54話:魔法機甲の「排熱」はゴミじゃない! 〜異世界のクソ仕様なお風呂を、全自動給湯システムに最適化(デバッグ)してみた〜

ラース王城、大浴場・機械室。

俺は汗を拭いながら、巨大な魔法銀の配管にスパナを叩きつけていた。


「……皆さん、お疲れ様です。リナです」


少し離れた安全な場所から、リナが圏外のスマホを構えて『収録』を続けている。


「相変わらずの圏外生活ですけど、今日はなんと……王城のお風呂場に来ています! 見てください、この立派な大理石! でも……実はお湯がぬるいし、沸かすのに数時間かかるらしいんですよ。

 そこでカイトくん。……何やら魔法機甲の排気口から、怪しいパイプを引っ張ってきてますが……?」


リナの実況をBGMにしながら、俺の隣では魔法技師のテオが、俺の描いた「図面」を手に目を白黒させていた。


「……カ、カイト様。あの……これでは魔法機甲の『穢れた熱』が、王族の湯殿に流れてしまいます! 魔法は清浄な儀式によってのみ熱を生むもので……」


「——テオ、お前はさっきから『神秘』だの『清浄』だの、非科学的なことばっかだな」


俺は呆れたように手を止め、テオを真っ直ぐに見据えた。


「いいか。熱は熱だ。……お前らが『魔法の残り滓』と呼んで捨てているその排熱は、物理現象としては極めて純度の高いエネルギーなんだよ。捨てとくのは、開発予算をドブに捨てるのと同じだぞ」


「……で、ですが……。なぜカイト様は、この世界の魔法を初めて見たはずなのに、これほど完璧に制御デバッグできるのですか……? 魔法技師の私ですら、何年も修行してようやく覚えた文字を……」


テオの疑問はもっともだった。召喚されて数日の「異邦人」が、現地の専門家を凌駕する速度で魔法を書き換えているのだから。

俺は少しだけ視線を落とし、自嘲気味に笑った。


「……種明かしをするほどのことじゃない。俺たちがいた世界にも、『魔導まどう』っていう高度な技術体系があったんだよ」


「……まどう……?」


「ああ。お前らが今使っている『魔法』を、数千、数万年かけて数学と論理ロジックで磨き上げ、極限まで無駄を削ぎ落とした『最終形態(完成版)』だ」


俺はアヴァロンのコンソールを指し示す。


「俺からすれば、この世界の魔法記述スクリプトは……そうだな。高名な数学者が、幼稚園児の『落書き』を直しているようなもんだ。

理屈ロジックさえ分かれば、言語の壁なんて関係ない。……だろ、セレナ?」


「ええ。正確には、この世界の魔法はまだ『アセンブリ言語』以下のナマの信号ね。

 それを私たちが普段使っている『超魔導言語(高級言語)』に翻訳してパッチを当てているだけ。

 ……テオ、そんなに驚くことじゃないわよ?」


セレナが涼しい顔で追記する。

テオは絶句した。自分たちが一生をかけて学ぶ神秘が、彼女たちにとっては「子供の落書き」レベルだという事実に。


「——さあ、講釈は終わりだ。……全自動給湯システム、起動ビルド!」


──ゴォォォォォォォンッ!!


 地下の機械室で、俺が魔法回路を直結した「熱交換器」が唸りを上げた。

 魔法機甲がアイドリング状態で排出していた莫大な廃熱が、俺の設計した「高効率バイパス」を通って冷水を一瞬で加熱していく。

 これまではまきと神官の祈祷で数時間かけていた作業が、魔法機甲のスイッチ一つで完了したのだ。


「……お、おぉぉ……! お湯が……蛇口をひねった瞬間に、適温で溢れ出していく……!?」


 浴室を点検していたエルナの歓喜の叫びが響く。

 

 数分後。

 試験入浴を許可された国王ラース三世は、あまりの快適さに玉座に座っている時よりも深い溜息を漏らしていた。


「……なんということだ。あんなにも不快だった魔法機甲の熱が、これほどまでに心地よい癒やしに変わるとは……。

 賢者カイトよ。そなたは、戦いだけでなく『暮らし』までもデバッグしてくれるというのか……」


「……ただの『魔法の最適化』ですよ、陛下。無駄や不具合バグを見過ごせないだけです」


俺はぶっきらぼうに答えながらも、満足げに微笑むリナや、お湯の感触を確かめるスミレたちの姿を見て、少しだけ肩の力を抜いた。


「……さて。風呂に入ってさっぱりしたら、次は本題だ」


俺の視線は、ガレージに置かれたままの「帝国の機体の残骸」へと向けられる。


「日常のバグ(不便)を直すのも仕事だが……そろそろ、あの『四本腕』のコードも本格的に解析しないとな」


魔法の理屈を「魔導」のロジックで解体し、異世界を快適に書き換えていく。

俺の「製作無双」は、戦場を超えて、王国のライフラインにまで浸透し始めていた。

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