第46話:デスマーチの残影:再臨する断片
【神臨】虹色の光柱……あれが『三体超合体』!? 物理法則が仕事してない件【リナch.】
「……皆さん、見えますか!? 拠点を飲み込もうとしていた虚無が……光に押し返されて……!」
“うおおおおおおおおおおおお!! なんだあの機体!?”
“黒と紅と白が混ざり合って……虹色に輝いてるぞ!”
“ねえ、さっきまで空を消してた『影』が、あのロボットが動くだけでボロボロ崩れてるんだけど!?”
“あれがカイトの言ってた『究極の仕様変更』だ。
神様の消しゴム(デバッガー)を、逆に『バグ』として処理してやがる……”
“カイト……! お前、本当になんなんだよ!!”
***
黄金の渦が収束し、そこには八枚の光の翼を背負った究極の機体──『トリニティ・アヴァロン』が浮遊していた。
アヴァロン、ネイル、ヴィクトリー。三つの設計思想が、俺の打ち込んだ「隠しコード」によって、一つの巨大な演算領域へと統合されている。
「……あ、あつい……。カイト、これ、機体同士が溶け合ってるわ……!」
共有された意識の中で、ナギの悲鳴が響く。
「……怖くないわ。カイトの書いたコードが、私を包んでくれてる。心地いいくらいよ」
スミレの凛とした声。そして、隣にいるセレナの、透き通るような想いが流れ込んでくる。
俺は、熱を持った脳で最後の一行を書き換えた。設計思想の違う三機を強引に統合したことで生じる摩擦熱。それを、俺の「デバッグ魂」がねじ伏せていた。
「——来い。神様のバグ取りなんて、俺たちが逆デバッグしてやる!!」
俺はトリニティ・アヴァロンの右腕を掲げた。
瞬間、機体の周囲に展開されたのは、数千、数万という論理盾。
世界を消し去るはずの『終焉のデバッガー』の拳が激突するが、それは俺の機体に触れる直前、蒼いノイズとなって霧散した。
「——拒絶じゃない。例外処理だよ。お前が『消そう』とするルールそのものを、俺が今、この場で書き換えたんだ」
俺はロゴス・イーターを全開にし、虚無の巨体を真っ向から貫こうとした。
だが、その瞬間。
『——検体:カイト。……論理による対抗が不可能と判断。……精神領域への直接介入を開始します』
脳内を直接爪で引っ掻くような、不快なノイズ。
『終焉のデバッガー』の胸部が割れ、そこから這い出してきた影──『断絶の使徒』が、指をパチンと鳴らした。
視界が、真っ赤に染まる。
完璧だったはずの超合体の意識共有が、どす黒い「過去の記憶」によって汚染されていく。
***
——AM 03:30。
安物の蛍光灯がチカチカと瞬く、深夜のオフィス。
湿った空気。安物のコーヒーの匂い。
目の前には、修正しても修正しても増え続ける、血のように赤いエラーログの山があった。
『——佐藤。お前、またミスしたのか? お前の代わりなんていくらでもいるんだよ。分かってんの?』
上司の、湿り気を帯びた叱責が耳元でリピートされる。
これは、さっき見た「記憶」じゃない。
敵が俺のトラウマを材料に作り出した、精神的ウイルス(メンタル・マルウェア)だ。
(……ああ、そうだ。俺は、ずっと「部品」だったんだ)
自分の人生というコードが、他人の理不尽な仕様書によって一行ずつ汚染されていく。
どんなに頑張っても、納期はやってくる。
どんなに叫んでも、俺は使い捨てられるだけの交換可能なモジュールに過ぎない。
(……無駄だ。俺一人が何をしても、大きなシステム(神様)には勝てない……)
深い、深い絶望の沼に沈んでいく。
アヴァロンの黄金の輝きが、ドス黒い影に飲み込まれていく。
***
「——いつまで寝てるのよ、この社畜エンジニア!!」
激しい衝撃と共に、意識が強制的に覚醒させられた。
見れば、スミレのブラッディ・ネイルが、俺のアヴァロンの胸ぐらを掴んで揺さぶっていた。
「スミレ……? ……ここは……」
「あんたの意識が初期化されかけてるわ! 敵がトラウマを攻めてきてるのよ! 負けんじゃないわよ、カイト!!」
「……カイトさん、信じてください! 私たちの絆は、……プログラムなんかじゃありません!!」
セレナの叫びが、アヴァロンの深層回路に火を灯す。
俺は、血の滲む指で再び仮想キーボードを叩いた。
「……ああ、そうだな。……思い出させてくれたよ。……俺は、部品じゃない。……この機体を、彼女たちを……世界で一番美しく動かすための、最高責任者だ!!」
前世の記憶の中で見つけた隠しコード。
それを逃げるために使うんじゃない。
この理不尽なトラウマを、「無効な命令」としてゴミ箱へ叩き込むために使う。
「ナギ、スミレ、セレナ! ……ウイルス除去開始だ!!」
トリニティ・アヴァロンが、漆黒からまばゆい虹色の輝きへと回帰する。
「……理解不能。……精神汚染を自力で解除するなど……」
驚愕に揺れる『断絶の使徒』を見据え、俺は大剣を構えた。
だがその時。
トリニティ・アヴァロンの右翼を担うセレナのホワイト・ヴィクトリーの出力が、突如としてマイナスへと転じた。
「……あ、カイト……さん……。……何か、……私の中に、……『外』からの権限が……」
「セレナ!? おい、どうした!!」
セレナの瞳が、一瞬でどす黒い黄金色に染まり始める。
『——キーデバイス『セレナ』、管理者モードを承認。……全不純物の排除、および世界の強制終了を開始します』
カイトがトラウマを打ち破った瞬間、管理者が最後の一手としてセレナの「正体」を起動させた。
「……させるかよ。俺のヒロイン(最高傑作)を、ただの『部品』扱いするんじゃねえッ!!」
俺は、焼け焦げた仮想キーボードに指を走らせた。
狙うのは、セレナを縛り付けている「管理者モード」の強制解除。
神様が組み上げた絶対の仕様書に、末端のエンジニアが「特権アクセス」を仕掛ける——!




