第42話:ホワイト・ヴィクトリー新生:魔法駆動(マジック・ドライブ)の力
秘密基地のガレージは、限界を超えた熱気と静けさが混ざり合っていた。
頭上の石壁が黄金の光でビリビリと震え、激しい揺れと共に天井のチリが舞い落ちる。
「……パワーの暴走は無視しろ! 全エネルギーを第3ルートに回せ。セレナ、意識を機体に持っていかれるな。……あんたが機体を『支配』するんだ!」
俺の声は、自分でも驚くほど冷たく響いた。
目の前にある『ホワイト・ヴィクトリー』は、装甲のスキマから黄金の魔法粒子を激しく吹き出している。
神様(管理者)の権限が、セレナという『カギ』を使って、この機体を丸ごと作り変えようとしているのだ。
データを解析すればするほど、俺の胸はギリッと締め付けられた。
セレナのデータの中身は、広大な「空白(空っぽ)」になっていた。
黒騎士との激戦。機体が大破したあの時、彼女のシステムは「令嬢としてのウソの記憶」だけでなく、俺と一緒に過ごした日々の記憶すらも「いらないエラー」として消し去ってしまったのだ。
(……あの日、お前は俺のことを忘れた。
だが、今は違う。お前は今、自分の意思で、俺の隣に立っているんだ)
失われた記憶は戻らないかもしれない。
だが、新しく書き込むプログラムなら、俺がいくらでも用意してやる!
「……っ……カイト、さん……! 頭の中に、……何も無いんです。私、自分が誰だったのかも、……どうしてここにいるのかも……っ!」
コックピットの中で、セレナが震える声で叫んだ。
「――気にするな、セレナ! 過去の記録なんて、俺が全部上書き(オーバーライド)してやる! あんたは今、ここで戦いたいのか!? それとも、神様に消されたいのか!?」
「……私は、……私は……っ!!」
俺はキーボードを叩く指に、前世のデスマーチ(地獄の残業)で鍛え上げた全神経を込めた。
「ナギ! 『魔法のパーツ』のセット、今だ! スミレ、エネルギーの通り道をキープしろ!!」
「分かってるわよ! ……カイト、あんたの言う通り、これ『人間』が作った設計じゃないわよ!!」
ナギが悲鳴を上げ、スミレが自分の機体をつないで俺のサポートに回る。
神様のプログラム。それは、セレナを「一人の人間」から「ただの世界の部品」へと強制的にリセットしようとする命令だ。
「――ふざけるな。そんな理不尽な初期化、俺が許すわけねえだろ!!」
俺の指先が、神様のプログラムを強引に塗りつぶしていく。
***
激しい火花と、黄金の霧の中で。
セレナは、パソコンの前に立ち続ける一人の男の背中を見つめていた。
記憶はない。
かつて彼とどんな言葉を交わし、どんな風に笑い合ったのか、今の彼女にはカケラすら思い出せない。
けれど、目の前で必死にキーを叩く彼の指先が奏でる音だけは、なぜか魂の深い場所で響き合っていた。
たとえ昨日までの思い出が消えても、今この瞬間に感じる「信じたい」という熱さだけは、ホンモノだ。
(……思い出せなくてもいい。……この人の隣が、私の居場所なんだ……!)
セレナの胸元にある黄金の紋章が、不気味な熱を失い、透き通るような白銀の輝きへと変わっていく。
「――システム結合、成功!! 走れ、『魔法駆動』!!」
俺が最後の『Enter』キーを力強く叩きつけた瞬間。
ホワイト・ヴィクトリーが、爆発的な輝きを放った。
機械的なエンジン音が消え、代わりにハープを弾いたような美しい音が基地に響き渡る。
機体の背中から六枚の『白銀の翼』が広がり、装甲には俺が書き込んだ「今の彼女」を証明する魔法の文字が刻まれた。
[ 組み立て成功:ホワイト・ヴィクトリー “ルミナス・フォーム” ]
[ ステータス:魔法駆動プログラム起動 ]
「……っ!? ……体が、……ヴィクトリーと、一つになったみたい……」
セレナの声から、迷いが消えた。
だが、その瞬間。
ドォォォォォォォォンッ!!
巨大な『黄金の槍』が基地の天井をぶち破り、ガレージのど真ん中に突き刺さった。
槍が刺さった床が、一瞬で砂のようなデータに分解され、消え去っていく。
「……チッ、神様みずからのお出ましか。納期はいつだって理不尽だな、クソが」
崩れ落ちる天井。その向こう側から舞い降りてきたのは、
個体名――『零の断片』。
『ターゲット、確認。……不純物の完全消去、および聖女の初期化を開始する』
「――ビビるな、ナギ、スミレ、セレナ!!」
俺はアヴァロンのシートに飛び乗り、世界のルールを喰い破る新機能を起動させた。
「こっちは既に、神様のルールを喰らい尽くす『ロゴス・イーター』を積んでるんだよ!!」
「――出撃!! 神様が用意したバッドエンドを、俺たちの手でぶっ壊してやる!!
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第2章での記憶喪失……。その「穴」を埋めるように、今この瞬間の熱量で立ち上がるセレナと、それを支えるカイト。
ただの強化回ではなく、二人の関係性を再定義する重要な回になりました。
さて、いよいよ『ロゴス・イーター』と新生ヴィクトリーの初陣です。
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