第43話:三機連携:ロゴス・イーターと白銀の翼
遺跡拠点の崩落する天井を背に、俺たちは荒野の空へと躍り出た。
視界を埋め尽くすのは、管理者による「世界の塗り替え」を象徴する、どす黒い黄金の雲。そして、その中心に鎮座する『零の断片』。
『──みんな、そのまま行って! 今の出撃シーン、世界中に生配信してるから!』
通信ウィンドウから、リナの興奮しきった声が響く。
“うおおおおおおおおおお!!綺麗すぎるだろ……”
“さっきの黄金の槍、弾き飛ばしたぞ!?”
“おい見ろよ、カイトの黒い機体の周り、空間がバグってね?”
“敵の攻撃が当たる直前に『消えて』る……。何だあれ、無敵か?”
『ものすごい熱狂ぶりだよ! 世界中が、あなたたちを見てる!』
「……上等だ。世界まるごと、俺たちの『デバッグ』の証人にさせてやる」
俺が不敵に笑った瞬間。
「──ターゲットの戦闘能力上昇を確認。……論理エラー。予測値を修正します」
無機質な声と共に、フラグメント・ゼロが指先から数千、数万という「消去コード」の光弾を放つ。
着弾すれば、機体どころかこの空間の存在そのものが消滅する。
「……遅いんだよ、その仕様書は。……既にリファクタリング(再構築)は終わってる」
俺はアヴァロンのコンソールを叩き、新機能をトリガーした。
『世界の理を喰らい、自分の論理で再定義せよ。──ロゴス・イーター、起動!!』
アヴァロンの周囲に、蒼い電子の「顎」が具現化する。
迫りくる黄金の弾丸。それが俺の機体に触れる直前、蒼いノイズがそれを『捕食』し、無機質なバイナリデータへと分解してアヴァロンの動力源へと変換していった。
「カイト! 右からさらに来るわよ!!」
通信ウィンドウで叫ぶのはスミレだ。
彼女のブラッディ・ネイルは、大破した腕を俺のパッチで補強し、紅い残像を引きながらフラグメント・ゼロの懐へと肉薄していく。
「──任せた、スミレ!!」
「……ええ、任せなさい!!」
呼び捨ての距離感が、今は心地いい。
俺が道を切り開き、彼女が叩く。
前世のデスマーチでも、これほど息の合った「ダブルチェック」は経験したことがない。
***
セレナは、白銀の翼を羽ばたかせながら、戦場を俯瞰していた。
ホワイト・ヴィクトリーのコックピットを満たすのは、カイトが書き換えた『魔法駆動』の暖かな律動。
(……思い出せない。……彼と、どこで出会って、どんな風に過ごしてきたのか……)
黒騎士との戦闘失われた、令嬢としての記憶。
カイトとの思い出という名のログ。
彼女の脳内ライブラリには、今も広大な空白が横たわっている。
けれど。
先ほど彼が「スミレ!」と叫んだ声を聞いたとき。
コンソールを通じて彼が送ってくる、泥臭くも精密な「想い」を感じたとき。
彼女の魂が、仕様書には存在しないはずの既視感を告げていた。
(……ああ。私は、この背中を知っている。……この、頼りなくて、けれど最高に誇らしい、エンジニアの背中を……!)
セレナの瞳に、強い意志の光が宿る。
彼女は操縦桿を引き絞り、大気を白銀の粒子で塗り替えた。
「──カイトさん! 私も、……一緒に!!」
***
「──セレナ! 座標固定! 全リソースをそっちの翼に回す!!」
俺はアヴァロンをスミレのブラッディ・ネイルに連結させ、『ロゴス・イーター』で喰らったばかりのエネルギーを、全てセレナのヴィクトリーへと転送した。
「……な、っ!? ……エネルギーのバイパスが、……溢れるくらいに……!」
ホワイト・ヴィクトリーの白銀の翼が、太陽をも凌駕するほどに膨れ上がる。
フラグメント・ゼロの無機質な瞳が、初めて「動揺」に揺れた。
「……理解不能。……下位存在が、世界の管理権限を上書き(オーバーライド)するなど……」
「──理解する必要なんてない。……お前の仕様書は、俺が全部書き換えたんだよ!!」
俺が叫ぶと同時に、セレナがヴィクトリーの主兵装を構えた。
魔法駆動の全出力。
それは、神様が作った「世界の結末」を、物理的にぶち抜くための超弩級デバッグ・プログラム。
「──ルミナス・ストライク!!」
白銀の閃光が、荒野の闇を真昼に変えた。
フラグメント・ゼロが展開した絶対防壁──黄金の理が、紙細工のように容易く引き裂かれ、管理者の影がノイズを吐きながら霧散していく。
「…………観測、終了。……フェーズ、移行……。不純物、排除、……失敗…………」
断末魔のノイズと共に、黄金の槍が消滅し、空には一瞬の静寂が戻った。
「……ハッ、……はは…………。納期、……間に合ったか……」
俺は座席に深く背中を預けた。
指先は熱を持ち、視界は真っ白に霞んでいる。
「カイト! セレナ! 大丈夫!?」
ナギとリナが拠点から駆け寄ってくる。
セレナも機体から降り、ふらつく足取りで俺の方へと歩いてきた。
彼女は俺の顔をじっと見つめると、少しだけ、本当に少しだけ、懐かしそうに微笑んだ。
「カイトさん。……記憶は、まだ戻っていません。……でも、……さっきの戦い、私、……なんだか嬉しかったんです」
「……セレナ」
「……きっと、……昔の私も、こうしてあなたに助けられていたんですね」
彼女の言葉に、胸の奥が熱くなる。
だが、安堵の時間は長くは続かなかった。
ピッ、ピッ、ピッ、と。
俺の脳内端末に、かつてないほど巨大な『システム・アラート』が、血のような赤色で表示された。
『——警告。フラグメント・ゼロの消滅を確認。……上位権限による、サーバーの強制再起動を開始します』
「……な、んだって……?」
見上げれば。
消えたはずの黄金の雲が、今度は「空全体」を覆い尽くそうとしていた。
フラグメント・ゼロは、単なる『前座』に過ぎなかったのだ。
神様は、バグ(俺たち)を見逃す気はさらさらないらしい。
ついに、管理者が本気で「世界そのもの」を消しに来ようとしていた。




