第41話:リファクタリング・エボリューション:最適化される魂
■ 掲示板:【伝説】勇者警察、マジで合体したあああああ!!【速報】
1: 名無しさん
おい、さっきのリナの配信見たか!?
封印されてたはずのジェイ・ガストが、青い翼と合体して黄金に光り輝いたぞ!!
14: 名無しさん
見た。鳥肌が止まらん。
警察の上層部は「テロリストによるハッキング」って発表してるけど、あの姿はどう見ても『正義の勇者』だろ。
32: 名無しさん
「ジェイ・ガスト・リベレイター」ってカイトが叫んでたな。
現場にいたヤツの話だと、空間を侵食してたバケモノを黄金のビームで一瞬で消し飛ばしたらしい。
55: 名無しさん
動画の再生数が1時間で1000万回を超えてる件。
カイト……あいつ、ただの指名手配犯じゃない。
世界の「ルール(仕様)」を書き換える、本物のエンジニアなんじゃないか?
78: 名無しさん
【悲報】警察庁、必死の動画削除要請。
でも拡散が早すぎて完全に手遅れ。
今、世界中で「勇者合体」がトレンド1位だぞ!
***
秘密基地の薄暗いガレージ。
俺は、サブモニターの隅で流れ続ける、世界中の熱狂を冷めた目で眺めていた。
ジェイ・ガスト・リベレイターの勇姿が、何度もリピート再生されている。警察のシステムをハッキングして完全に書き換えたあの黄金の光は、たしかに人々の心に火をつけたらしい。
だが、その『代償』を支払うのは、今ここでキーボードを叩いている俺たちだ。
「……リナのドローン、いい仕事しすぎだろ。おかげで検索サイトが俺たちの名前でパンクしてるぞ」
ため息をつきながら、俺はメインモニターにアヴァロンの深いシステムを開いた。
手に入れた『ロジック・イーター(論理捕食)』。そして、黒騎士を倒すためにムリヤリ進化させた『シンギュラリティ・ブレイカー』。
これら二つの機能は、今の俺たちの最強の武器だが……。
「……ツギハギだらけのスパゲッティ・コード(欠陥品)の塊だ。よく爆発しなかったな、こいつ」
黒騎士戦でのパワーアップは、いわば「死に物狂いのムリヤリな限界突破」に過ぎなかった。
今の俺がやるべきことは、この荒削りな力を、より洗練された、誰にもジャマされない『バージョン2.0』へと作り直す(リファクタリングする)ことだ。
「カイト、あんた。……自分が有名人になってる自覚、ある?」
背後から、皮肉めいた、けれどどこか楽しそうな声がした。
振り返ると、ブラッディ・ネイルの肩に座ったスミレが、スマホをこちらに見せて笑っていた。
「……そんな自覚、エンジニアにはいらない。……スミレ、それよりネイルのデータを見てくれ」
俺は「スミレさん」という呼び方を捨て、自然に彼女を呼び捨てた。
あの日、俺が「前世でブラック企業の社畜だった38歳」であることを明かして以来、俺たちの間には不思議な絆が生まれている。
今の俺たちに必要なのはカタい敬語ではなく、背中を預け合うための『同調』だ。
「……あら、呼び捨て? ……いいわよ。その代わり、私の機体の修理も、その『勇者様』並みに気合入れなさいよね、カイト」
スミレ(スカーレット)は一瞬だけ驚いたように目を細めたが、すぐにニヤリと笑って隣に座った。
「もちろんだ。
……黒騎士の攻撃をエサにしたせいで、アヴァロンの中に解析できないデータが溜まりすぎてる。
……これを整理して、今のシステムにピタリと合わせる。
そうすれば、『シンギュラリティ・ブレイカー』をもっと安定して、もっとフルパワーで撃てるようになるはずだ」
「……ふふ、やっぱりあんた、性格悪いわね。敵の技を自分のパワーにするなんて」
俺とスミレの視線が交差する。
世界中が「合体」に沸いている中で、俺たちは次の死闘に向け、より深く、より鋭く、ロボットの魂(超AI)を書き換え始めていた。
***
キーボードを叩くカイトの横顔を盗み見ながら、スミレは密かに胸の鼓動が早まるのを感じていた。
カイト。前世で38歳の社畜だったというその男の指先は、まるで魔法使いの杖のように、基地の冷たい空気を青い光に変えていく。
彼が「スミレ」と自分の名前を呼び捨てにした瞬間、不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ、これまで彼との間にあった見えない壁――「雇う側と雇われる側」という境界線が音を立てて崩れ、本当の意味での『相棒』になれたような気がしたのだ。
(……ほんとに、ムチャクチャな人。でも、この人となら……神様が用意した台本さえ、書き換えられる気がするわ)
スミレは、自分の機体の操作パネルに手を置いた。
カイトが書き換えるプログラムに合わせて、ブラッディ・ネイルの奥底からも、これまでにない温かいパワーが流れ込み始めていた。
***
「よし、アヴァロンのシステム更新(パッチ当て)は完了だ。次は――」
俺が次のパソコンに手を伸ばそうとしたその時、ガレージのシャッターが開き、セレナが顔を出した。
「カイトさん、……あの、……私の機体が……」
彼女が連れてきた『ホワイト・ヴィクトリー』を見て、俺の手が止まった。
純白の装甲。だが、そのスキマから漏れ出しているのは、以前のような青い光ではなく、ドロリと濃い黄金の輝きだった。
「……パワーの出方が、物理法則を無視してる? ……いや、これは……」
俺は端末を向け、ヴィクトリーの波形を読み取る。
表示された文字に、俺の眉がピクリと動いた。
[ 分析結果:魔法駆動を確認 ]
[ ステータス:魔導機への変身が必要 ]
「セレナ。……驚かないで聞いてくれ。あんたのヴィクトリーは、今、ただの機械のロボットから『魔導機(魔法の機体)』へと変わろうとしている」
「魔導機……? 魔法で動く、ということですか?」
「ああ。……神様(上位存在)の力が、セレナ、お前を通して機体に流れ込んでいるんだ。これを放っておけば、ヴィクトリーは内側から魔力で爆発する。……だが、もし俺がこのエネルギーを『プログラム』として定義し直せば……」
俺は、ガレージにある「古代遺跡のパーツ」を手に取った。
遺跡から発掘された、謎のアイテム。
これを使えば、魔力という「暴走しやすいパワー」を、エンジニアがコントロール可能な「ルール」へと変換できる。
「セレナ。お前の機体、俺に預けてくれ。……今の技術の常識をひっくり返す、最強の『魔法プログラム』を書き上げてやる」
「……はい! カイトさんになら、……私の全てを預けますから」
セレナが強く、真っ直ぐに俺を見つめる。
その胸元の黄金の紋章が、俺の言葉に応えるように穏やかに輝いた。
だが、その瞬間。
秘密基地全体が、これまでにない激しい揺れに襲われた。
『――警告。基地の上空に、管理者の「全体スキャン」を確認。……個体名:フラグメント・ゼロ。……再配置が完了しました』
ナギの悲鳴に近い通信が、スピーカーから弾ける。
モニターを切り替えると、荒野の空を埋め尽くしていた黄金の雲が一ヶ所に集まり、巨大な「槍」の形となって基地へと向けられていた。
「……チッ、世界中に配信されたせいで、消去の優先度が上がったか。……納期はいつだって理不尽だな、クソが」
俺は、アップデートしたばかりのアヴァロンのハッチを蹴り開けた。
バージョン2.0へと進化したロジック・イーター、そしてシンギュラリティ・ブレイカー。
元38歳の社畜エンジニアの反撃は、ここからさらに激しさを増していく。
「――スミレ、セレナ! ……出るぞ。神様たちの傲慢なルール(仕様書)を、根こそぎ喰らってやる!!」




