第40話:ブレイブ・マージ! 封印解除の咆哮
■ 警告:拠点外縁セキュリティ・アラート
[ 警告:見えない壁が破壊されました ]
[ 敵を検知:論理ウイルス『フラグメント・ゼロ』 ]
「……嘘でしょ? 私の組んだ多重バリアが、たった数秒で……消された……!?」
モニターを見つめるナギの顔から、スッと血の気が引いた。
拠点の外。荒野の闇の中に立つ不気味な影――『零の断片』。
そいつが指を鳴らすたび、この秘密基地を守っていた「鉄壁のプログラム」が、砂の城のようにボロボロと崩れていく。
「カイト! 奴が来るわ! このままじゃ、整備中の機体ごと全部消される(デリートされる)!!」
■ 決死のデバッグ:AM 03:15
「……分かってる。ナギ、支援パーツの射出準備!
リュウジさん、ガストの操作パネルを全開にして下さい!!」
カイトの指が、残像が見えるほどの猛スピードでキーボードを叩く。
「リュウジさん! 今までガストの動きが鈍かったのは、あんたの腕のせいじゃない。
警察の連中が仕組んだ『リミッター』のせいだ! そいつがガストのパワーを、ずっと60%に抑え込んでいたんだよ!」
「なんだと……!? 俺は、相棒にそんな鎖をつけたまま戦わせていたのか!」
リュウジが悔しさに拳を握りしめる。
カイトの瞳には、ものすごい勢いで流れるデータが反射していた。
「警察が作った『見えない鎖』なんて、俺が全部ぶっ壊してやる。
……いいかガスト! 今からお前の頭脳(超AI)を、俺の魔法のプログラムで完全に書き換えるぞ!!」
[ セキュリティ:99% 突破 ]
[ 管理者権限:カイトが上書きしました ]
カイトが『Enter』キーを力強く叩きつけた瞬間。
ジェイ・ガストの全身から、いつもの青いパトランプとは違う「黄金の光」があふれ出した!
■ ナギの意地と、蒼天の翼
「カイト! システムの入れ替えは終わったわね!?
……さあ、私の最高傑作をお見舞いしてあげるわ!!」
ナギがレバーを引くと、ガレージから一機の、鋭い翼を持った支援機が飛び出した。
ナギが独自に開発し、カイトのプログラムを組み込んだ飛行パーツ。
その名は——『蒼天の翼』。
「ジェイ・ガスト! 警察の看板なんて捨てなさい!
あんたは今日から、私たちの『勇者』よ!!」
『——了解ッ!! 魂の震えを感じるぞ、相棒!!』
ガストの声が、いつもの機械的な音声じゃない、感情のこもった力強いおたけびとなって響く。
■ 勇者合体:ジェイ・ガスト・リベレイター
荒野の空で、巨大な機体と鋭い翼が交差する。
「カイト! 合体プログラム、スタートよ!!」
「ああ! 三つの力を一つにつなぐ……!
ブレイブ・マージ!!」
カイトの叫びと共に、ガストの背中に『アズール・ウィング』がガシャンと合体する。
装甲が展開し、パワーを押さえつけていた部品が弾け飛んだ。
「警察のロボット」という古い殻を脱ぎ捨て、一人の整備士と技術者の意地が、その姿を新しく作り変えていく。
「——ジェイ・ガスト……リベレイター(解放者)!!」
そこには、巨大な青い翼を広げ、全身から黄金の光をまき散らす、まったく新しい「勇者」が立っていた。
「……何だ、その光は。私の計算には、存在しない……」
感情がないはずの『フラグメント・ゼロ』の声が、初めて動揺した。
奴が放つ攻撃――空間そのものを消し去る「黒い霧」が、リベレイターに迫る。
「リュウジさん、いけッ!! 警察のルールじゃ裁けない悪を、俺たちの『正義』でぶち抜くんだ!!」
「——ああ! 行くぞガスト!
『ジャッジメント・バスター』……フル・バースト!!」
リベレイターの両肩の巨大な大砲に、黄金の光が集まる。
それはただのビームじゃない。
カイトが書き換えた、「悪を完全に消し去る」という凶悪なプログラムそのものだ。
ズドォォォォォォォォンッ!!
黄金の極太ビームが荒野を昼間のように照らし出し、迫りくる黒い霧を、文字通り「根元から消去」した。
■ 決戦の余韻、そして……
「……ぐ、ああ……。計算、不能……。
ターゲット:カイト。……お前たちは、システムの『外』へ出たというのか……」
『フラグメント・ゼロ』の影が、ノイズを吹き出しながら霧のように消えていく。
完全な撃破ではない。だが、神様の刺客を追い払ったという事実は、基地の全員に確かな希望を与えた。
「……ははっ、……成功、だな」
カイトはキーボードから手を離し、椅子に深くもたれかかった。
指先は激しいタイピングで熱を持ち、視界は極限の集中力でかすんでいる。
「カイト……。……礼を言う。ガストが、あんなに喜んでいるのを感じたのは初めてだ」
リュウジが、黄金の光の余韻を残すガストを見上げながらつぶやく。
だが、ナギの表情はまだ険しいままだった。
「喜んでるヒマはないわよ。
……カイト、今のエネルギー消費量を見た? ガストを一機『解放』しただけで、この基地の予備電力が底をつきかけてるわ」
「……分かってる。三機を合体させるには、今の技術のままじゃダメだ。
……もっと根本的な、『魂の計算能力』が必要になる」
カイトの視線が、ガレージの隅にいるセレナに向く。
彼女は自分の胸元の紋章を見つめていた。
その紋章は、先ほどのリベレイターの覚醒に反応したように、以前よりも強く黄金色に光っている。
「……セレナ」
「カイトさん……。私の中に、何か……『知らない誰か』の記憶が、流れ込んできて……」
セレナが震える声でそう言った瞬間。
カイトの頭に、前世のブラック企業時代の記憶がフラッシュバックした。
——誰もいない深夜のオフィス。
——終わらないエラーの修正。
——そして、画面に映った「存在しないはずの隠しコード」。
「……あれは、……ただの夢じゃなかったのか……?」
カイトの覚醒が、さらに深い闇の底へと足を踏み入れようとしていた。




