第39話:リビルド・ザ・ワールド:工場の夜明けと新たな仕様書
■ 拠点ガレージ:AM 02:45
静まり返った地下の秘密基地。
そこには、焼け焦げた金属の匂いと、ポタポタと落ちる冷却液の音だけが響いていた。
カイトが持ち帰ったのは、勝利という結果と、それ以上に重い「残骸」だった。
「…………あんたたち。これを、全部『直せ』って言ってるの?」
ナギの震える声が、深夜のガレージに響き渡った。
彼女の目の前には、あまりにもひどい光景が広がっている。
かつて『紅の閃光』と呼ばれたブラッディ・ネイルは、右腕を根元から失い、胸の装甲は紙のように引き裂かれている。
ロボットの神経であるケーブルが血管のようにむき出しになり、弱々しく光っては消えていた。
セレナのホワイト・ヴィクトリーも同じだ。
真っ白だった装甲は熱でドロドロに溶け、中の不気味な銀色の骨組みが丸見えになっている。
そして中央に立つアヴァロン。
自力で帰ってきたとはいえ、その全身には無数のヒビが走り、エンジンが今にも爆発しそうな重低音を鳴らしていた。
「ああ。……ただ直すんじゃない、ナギ。『まったく新しく作り変える(リビルド)』んだ」
カイトは、油と血がこびりついた手でキーボードを叩く。
脂ぎった顔、血走った瞳。その姿は、かつてブラック企業のサーバー室で、エラーだらけのプログラムに一人で立ち向かっていた「前世の彼」そのものだった。
「作り変える……? この状態から?
冗談じゃないわ、今の予備パーツを全部使い切っても、元に戻すのがやっとよ!」
「元に戻すだけじゃ意味がないんだ。
……今の俺たちの『スペック』じゃ、あの神様(上位存在)たちには勝てない。この世界の古いルールをまるごと捨てて、新しいシステムに移行する。
……ナギ、君の協力が必要だ」
カイトの指がキーを叩くたび、画面には三つのまったく違う機体を、一つの「数式」でつなぐ狂気じみた設計図が描かれていく。
「……三機を、一つに……? カイト、あんた。本気で、神様とケンカするつもり?」
「締め切り(納期)は、世界が滅びる前だ。
……さあ、地獄の開発を始めようか」
■ 勇者警察の覚悟
ガレージのシャッターが重い音を立てて開き、一機の巨大な影が運び込まれてきた。
勇者警察のシンボル、ジェイ・ガストだ。
その横には、警察の制服を乱し、苦しそうな表情を浮かべるリュウジが立っていた。
「カイト……。警察の上層部は、ガストに『厳重な封印』をかけた。
……これを勝手に動かすことは、国への完全な裏切りになる」
「わかってます。……でも、ここに連れてきたってことは、そういうことですよね」
リュウジは深くため息をつき、ジェイ・ガストの分厚い装甲をポンと叩いた。
「……俺の正義は、ルール(法)を守ることにある。
だが、そのルールが守るべき『市民』を、あんなバケモノ(神)にオモチャにさせるわけにはいかない。
カイト、ガストを……私の相棒を、君に託す。好きにしろ」
「リュウジさん……。ナギ、準備はいいか?」
ナギがツナギの袖をまくり上げ、工具箱を力強く踏みつけた。
「……フン、言ってくれるじゃない。勇者警察のロボットに、私が作った『支援パーツ』を合体させる……最高にイカれたプロジェクトね。
いいわ、私の最高傑作を、あんたのデタラメな魔法(魔導コード)でムリやり動かしてあげる!」
カイトが書いた魔法のプログラム『魔導機力』。
それは、この世界の物理法則を無視して、機械に「魂の力」を与える禁断のデータだ。
ジェイ・ガストは、ナギが作った飛行用の武装パーツと合体することで、本当の姿――【勇者合体】を果たすことになる。
■ 沈黙する少女たち
ガレージの隅。
応急処置を受け、パイプ椅子に座ったスミレが、まだノイズ混じりのホログラムのような体を揺らしながらカイトの背中を見つめていた。
彼女の隣には、胸元に黄金の紋章を光らせたまま、不安そうに自分の手を見つめるセレナがいる。
「カイトさん……。……怖く、ないんですか?」
セレナの声は、冷たいガレージの中で、今にも消えてしまいそうだった。
彼女は気づいている。自分の胸に宿った光が、自分を「人間ではない何か」へ変えようとしていることに。
カイトはタイピングの手を止めず、背中越しに答えた。
「怖いさ。……マニュアルにないバグを直すのは、いつだって怖い。
前世でもそうだった。一文字間違えれば、システム全体がぶっ壊れる。誰も責任を取ってくれない深夜、たった一人でキーボードを叩くのは、死ぬほど心細いんだ」
「…………」
「でもな、セレナ。エンジニアってのはな……
目の前の大切なユーザーがエラーを吐いてるなら、神様が作ったルール(OS)ごと書き換えるのが仕事なんだよ。
お前が聖女だろうが、エラー(バグ)だろうが関係ない。
俺が『これが正しい』って決めた未来に、お前たちを連れて行く。それだけだ」
カイトの言葉に、スミレが小さく吹き出した。
「……ふっ、相変わらず三千円の仕事にプライド持ちすぎよ、あんた。
……いいわ。そのデタラメな設計図に、最後まで付き合ってあげる。……バイト代、高くつくわよ?」
■ 『零の断片』
モニターに、三機合体の最終シミュレーション結果が表示される。
[ プロジェクト:トリニティ・マージ(三位一体) ]
[ ターゲット:アヴァロン、ホワイト・ヴィクトリー、ブラッディ・ネイル ]
[ 同期率:12.5%……不安定 ]
「……まだ足りない。……計算能力が、根本的に足りていない」
カイトがさらにプログラムを書き込もうとした、その時。
ガレージの監視カメラが、激しいノイズを吹き出した。
秘密基地の入り口。
そこには、重さすら感じさせない「薄いグレー」の影が立っていた。
それはロボットでも、人間でもない。
ただ、そこにある空間だけが「切り取られてなくなっている」ような、気味が悪い存在。
神様(上位存在)たちが送り込んだ、最初の刺客。
個体名――『零の断片』。
そいつが指先を空に向けた瞬間。
基地を守っていた鉄壁のバリア(ファイアウォール)が、まるで紙が燃えるように静かに消滅していった。
『……収穫の時間だ』
感情をまったく持たない機械的な声が、カイトたちの脳内に直接響き渡る。
大改造はまだ始まったばかり。
カイトたちは、かつてない最悪の「死のバグ」との遭遇を余儀なくされた――。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第4章 聖女の覚醒、ついに本格始動です。
ボロボロになった機体を前にしたカイトの決意。
そして、ついにナギと勇者警察がタッグを組み、ジェイ・ガストの真の力が解放されようとしています。
ですが、平和な改修時間は長くは続きませんでした。
上位存在からの刺客『零の断片』。
この絶体絶命の危機を、カイトはどう乗り越えるのか……!?
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