第36話:禁忌の共闘、あるいは「検体」の反逆
■ ログ:管理者領域(サーバーの心臓部)
「ターゲット:カイト。覚醒率、82%を突破。……特殊武器『シンギュラリティ・ブレイカー』の完成を確認しました」
「素晴らしい。……彼が作り出す『究極のプログラム』こそ、世界を作り変えるために必要な最後のパーツだ」
「完全に手に入れるまで、黒騎士に監視を続けさせろ。……絶対に、カイトを壊す(ロストさせる)んじゃないぞ」
「了解。……ですが、黒騎士の心に……『殺意』という名の深刻なエラーが出ています」
「……かまわん。それもまた、カイトを成長させるためのいい刺激になるだろう」
■ 施設の最深部:戦場
「……笑わせるな、スカーレット(スミレ)。
そんなボロボロの機体を引きずり出して、何ができるというのだ」
黒騎士の全身を走る「赤い回路」が、ドス黒い色に変わっていく。
それは、上の人間(管理者)から与えられた力じゃない。
「カイトを殺したい」という、黒騎士自身のドロドロした感情が、機体のパワーを限界以上に引き上げていた。
「上の連中は、お前を『最高の実験体』だと言った。
お前が進化するのを待って、そのデータを奪い取れとな。
……だが、私は認めん。
貴様のようなバグ一人のために、私のプライドをこれ以上汚されてたまるか!」
黒騎士が真っ黒な大剣を構える。
そのまわりでは地面が砂のように消え去り、世界のルールが壊れ始めていた。
『——管理者の命令を無視。……目標、完全消去を開始する』
■ 阿吽の呼吸
「……上の犬かと思ったら、ただの嫉妬に狂った欠陥品だったわけね」
スミレが操るブラッディ・ネイルが、アヴァロンの前に飛び出した。
右腕はなく、体中から火花を散らしている。けれどその姿は、誰よりも頼もしかった。
「カイト!
あんたは後ろで武器の『アップデート(更新)』を担当しなさい。
……前で戦うデバッグ作業は、私が引き受けてあげるわ!」
「……了解だ、スミレさん。
アヴァロン、スミレさんの機体と『意識のリンク』を開始!」
[ 二機のシステムを接続……スタート ]
[ ターゲット:ブラッディ・ネイル & アヴァロン ]
カイトが高速でキーボードを叩く。
アヴァロンとブラッディ・ネイル、二機の間に青い光の絆が結ばれた。
黒騎士が、音速を超える一撃を放つ。
本来なら、ボロボロのブラッディ・ネイルなんて一瞬でバラバラにされるはずだった。
だが——。
ガキィィィィィィンッ!!
ブラッディ・ネイルが、最小限の動きで黒騎士の剣を弾き飛ばした。
カイトがリアルタイムで「敵がどこを狙ってくるか」を予測し、そのデータを直接スミレの脳内へ送り込んでいたのだ。
「……はっ、三千円のドローンよりは手応えがあるわね!」
「スミレさん、左だ! 0.2秒後に空間が削れるぞ。
——今だ、カウンターを叩き込め!」
スミレの青い瞳が鋭く光る。
失った右腕の代わりに、機体からあふれ出す青い粒子が「光の刃」を作り出した。
「——消されるのは、あんたの方よ!!」
■ 予想外の進化
ブラッディ・ネイルの蹴りが、黒騎士の胸に突き刺さる。
同時に、カイトの剣『シンギュラリティ・ブレイカー』が、敵からこぼれ落ちた「赤い殺意のデータ」を再びムシャムシャと食べ始めた。
[ 自己進化アップデート:バージョン 4.05 → 5.10 ]
[ 警告:プログラムが『神の領域』に到達しようとしています ]
「……カイト、待って。
この剣が進化するスピード……早すぎるわ!
これじゃ、あんたの心が壊れちゃう——」
スミレの叫びが響く中、カイトの瞳が透き通るような青い光を宿していく。
それは「神(管理者)」が望んだ覚醒だった。
だが、このまま進化し続ければ、カイトという「人間」の心は消えてしまう。
「……スミレさん。……俺の指が動く限り、この運命は……俺が書き換える」
アヴァロンの背中に、青い炎の翼が広がった。
それは、神様さえも予想していなかった、人間による「世界のルール」への大逆転の始まりだった。




