第35話:自己進化する論理(チート武器)、あるいは『0.00%』の向こう側
■ 施設の最深部:処刑場
「……ムダだ、バグ(カイト)。
お前が味わった絶望を、もう一度その魂に刻んでやろう」
黒騎士が、かつてスミレを消し去った「真っ黒な光」を手のひらに集める。
それは熱や物理的な破壊ではない。空間そのものがノイズに変換され、世界の仕様から削り取られていく、絶対的な『削除』の力だ。
圧倒的なプレッシャーの前に、アヴァロンの重装甲でさえミシミシと悲鳴を上げ、表面の塗装が電子の塵となって剥がれ落ちていく。
「……絶望?
ああ、たしかにあの日、俺のシステムは『復元の可能性:0.00%』なんてふざけたエラーを出しやがった」
俺はアヴァロンの右腕を前へと突き出した。
そして、作業服のポケットから、厳重にプロテクトをかけた一つのデータメモリを取り出す。
それは、紫の刺客との死闘の果てに、論理捕食で奪い返したスミレさんのデータの欠片——『scarlet_fragment_01』だ。
メモリの奥底で、彼女の微かな鼓動が温かいパルスとなって俺の手のひらに伝わってくる。
「だがな……エンジニアってのは、マニュアル通りに動かない時が一番燃える生き物なんだよ!」
俺はコンソールの最深部スロットに、そのメモリを勢いよく叩き込んだ。
「——アヴァロンのコア(心臓)に眠る『紅いチップ』へ、この欠片をマージ(統合)させる!
管理者権限『特異点統合』、強制上書き(オーバーライド)開始!!」
「——ロジック・イーター、全パワー解放!!」
アヴァロンの腕が、黒騎士から放たれた「消去攻撃」を正面からキャッチした。
防ぐのではない。強引に飲み込んでいく。
バキバキと、世界が作り変えられるような、ガラスを噛み砕くような嫌な音が空間に響き渡った。
『……ありえない。なぜ管理者のコードを「素材」に変えられる……!?』
無機質な黒騎士の声に、初めて「焦り」というノイズが混じる。
「あんたが教えてくれたんだろ、スミレさん。
『整備士が、自分の最高傑作を信じなくてどうするんだ』ってな!」
アヴァロンの腕に、敵から奪い取った真っ赤な光と、欠片からあふれ出す紫の光がギュッと収束していく。
無数の文字列が空中で編み上げられ、ドクドクと拍動する一本の物理的な刃が形成されていく。
【特異点穿孔】
黒騎士が完全にパニックに陥り、次々と「世界のルール」を書き換える理不尽な攻撃を雨あられと降らせてくる。
だが、俺がその真新しい剣で攻撃をガードするたびに、網膜ディスプレイにはものすごいスピードで緑色のログが流れた。
[ 敵の攻撃パターンを学習中……成功 ]
[ 自己進化:バージョン 1.02 → 4.05 → 7.99 ]
[ 敵のシステムを破壊する準備:完了 ]
「ナギ! リナさん! 見てろ。
こいつは戦うたびに相手のやり方を学習して、自動で『一番勝てるデータ』に自分自身を書き換える。
この剣そのものが、無限に進化し続ける自己学習型のソフトウェアなんだよ!」
「なによそれ……。
攻撃を防ぐたびに、武器が勝手にチートになっていくっていうの!?」
通信機越しに、ナギの絶叫が響く。
七色に光り始めた刃が、黒騎士が展開した「絶対に壊れないはずの管理者バリア」を、まるで濡れた紙みたいに容易く切り裂いた。
かつて、俺たちがムリをしてまで守ろうとした、泥臭くて温かい居場所。
それを無慈悲に奪った黒騎士の力を、俺の剣が逆に「エサ」にして世界の理を塗り替えていく。
「……バグ取り(デバッグ)完了だ。
お前の中に眠ってる、俺の『大切な相棒』の本体を返してもらうぞ!」
俺はフルパワーで地面を蹴った。
極限まで進化した剣が、黒騎士のコアを強固に閉じ込めていた「カギ」を一刀両断にする。
ガシャァァァァァァンッ!!
飛び散る赤いノイズ。
真っ二つに裂けた黒騎士の胸の奥から、あの日空に消えたはずの、懐かしい青いデータが滝のようにあふれ出した。
『……バカ。……本当に、バカね、カイト』
メインモニターに表示された、懐かしくて、少しだけ怒ったような文字。
膨大な光がガレージ全体を包み込み、壊れ去ったはずの機体——『ブラッディ・ネイル』が、カイトのタイピングに合わせて、0と1の砂から物理的な実体へと作り直されていく。
でも、再構築されたその姿は、ピカピカの新型機なんかじゃない。
装甲はボロボロで、中の複雑な回路も見えている。
右腕はなく、全身から青い光を血のように流している……あの日カイトを庇って散った、傷だらけの姿のままだった。
「……お待たせしました、スミレさん。
今度は、間に合いましたよ」
火花を散らす壊れたコックピットの中で、スミレはカイトを真っ直ぐに見つめ返した。
もう、変装のための地味なサングラスはしていない。
俺が組み上げたデータとぴったり重なる、彼女の美しく誇り高い素顔。
力強い青い瞳が、カイトへの絶対的な信頼と喜びで輝いていた。
彼女は口角を上げ、ニヤリと不敵に笑ってこう言った。
「……相変わらず、デタラメな修理ね。
機体がボロボロじゃない。……でも、悪くないわ。
さあカイト、あのアホな管理者に。
本当の『エンジニアの底力』ってやつを、二人で教えてあげましょうか!」
漆黒のアヴァロンと、ボロボロのまま地獄から舞い戻った宿敵、ブラッディ・ネイル。
二機のロボットが、今度は世界を救うための「最強の翼」となって、並び立った。
お読みいただきありがとうございます!
ついに、ついにスミレさんが帰ってきました。
第25話の『0.00%』という絶望を、カイトがエンジニアの執念で塗り替える。
あえて「ボロボロの姿」で復活させたのは、二人の絆が一番刻まれている機体だからです。
スミレさんの素顔の碧眼、そして「バカ!」という言葉。
これこそが、カイトの守りたかった日常の始まりです。
次回、ボロボロの二機が、どうやって管理者権限を粉砕するのか? お楽しみに!
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本日、19時10分に最新話を投稿します!




