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ep28 シンマオを取り戻せ

 龍我が再び目を覚ました時、辺りは暗くなり始めていた。


 夕日により空は赤く染まり、山の中の視界はかなり悪くなっている。


「うっ、うぅ……あたた……」


 後頭部を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。打撃を受けた箇所はまだ鈍い痛みが残り、ふっくらとたんこぶができていた。


「やっべ、今何時だろ……」


 スマートフォンで時間を確認したところ、通知画面に家族からのメッセージや通話着信が何件も届いていることに気付いた。


 メッセージの中身を見ようとした瞬間、遠方から母の声が聞こえていた。


「い、いた……! いたわー!」


 白加は他の人に呼び掛けるように叫び、龍我の元に駆け寄る。彼女を追うように、雀女や玄麻、そして翔がやってきた。


「母さん! どうしてここに?」

「雀女が行方不明だって言うから……本当に心配したのよ」


 龍我の手を強く握る白加。その顔立ちは険しかったが、どこかほっとしているようにも思える。


「いやいや、まだ夕方だろ?」


 帰りが遅いといってもせいぜい三、四時間、家族総出になって探すまでのことではないだろう。


「だって中々帰ってこなくて、友達と遊んでるのかなぁって思って翔さんに聞いたら……」

「裏山で落下物追ってそれっきり帰ってないって……どう考えても行方不明じゃん? ラインも無反応だったし」


 一見早計に思えた彼らの判断も、翔の理屈を聞くと頷けるものもある。龍我も納得ができた。


「……ま。確かに、来てくれて嬉しかったよ」

「で、何をしていたの?」


 土で汚れている服を見て、雀女が眉間にしわを寄せて見つめる。


「それが俺にもなんだか……アタタ」


 事の経緯を話そうとしたところ、再び後頭部が痛み出した。ズキズキと芯まで響くような痛みにより、立っていることすらままならない。


「……背後から殴られたって感じだな?」


 玄麻が探偵かの如く、ズバリと言い当てた。今回ばかりはふざけた調子は一切見せず、落ち着いた物言いである。


「えぇ!? それなら病院に……」


 逆に、普段冷静な白加のほうがこの状況に焦っていた。




 病院での検査の結果、怪我は軽傷であると分かった。しかし、頭部への打撲ということで、念のため一晩入院することとなった。

 外の暗さと対比するかのような白い病室、その窓際のベッドに横たわり、龍我は家族に裏山での一部始終を話した。


「あらまぁ……すごく嫌な予感がするわ」


 真っ先に不安を口にしたのは雀女であった。口に手を当て、瞳は恐怖で震えている。


「そうなんだよ。シンマオが酷いことされてるんじゃないかと思うと……」


 龍我の頭の中に良くない想像ばかりがうごめく。非人道的扱いを受けているのではないか、そもそも意思や体すら原型を失っているのではないか――考えれば考えるほど、胸が痛み、心苦しくなっていった。


「けど芸能界でも悪い噂全然聞かないんだよなぁ……まさかそんな顔があったなんて……マジショックなんだけど」


 玄麻は後悔の念を強く抱いていた。葉加瀬にシンマオを真っ先に紹介し、人一倍その責任を感じているのか、唇を強くかみしめている。


「……俺は何としてもシンマオを取り返したい。あんな人に任せられないよ」

「でも、相手が武力行使に出たとなると……直談判で解決できるとは思えないわ」


 思いつめた表情で白加が顎に手を当てた。いくらはりきっても取り返す手段が無ければ意味がない。


「だったら、こっちも力ずくでシンマオを連れて行く」

「シンマオちゃん奪還作戦ってわけね! なんかドキドキしてきた」


 力ずくでの奪還となると、危険が伴うものになるのだが、雀女はそこを危惧してはいなかった。むしろかなり乗り気で、楽しそうな雰囲気すら感じさせる。


「その力ずくって言うのもどうする気? 何の情報もないわけでしょ?」


 一方、否定的な立場にいる白加。子供たちのやる気を削ぐように再度水を差す。龍我も雀女も反論できずに黙り込み、顔をうつむかせてしまった。


「……そのことだけど、こないだ葉加瀬がメイド募集してるって言ってたぜ」


 白加の問いかけに答えたのは玄麻であった。その言葉は一度消えたやる気の炎を再び点火させるには十分なパワーがあり、龍我は希望をつかみ取った顔を見せた。


「そっか、家に自然と入ることができれば……! 情報が入ったり、取り返したりできるわけか!」


 龍我は怪我も忘れて上体を起こし、大きくガッツポーズを取る。雀女も嬉しそうな表情でうなずく。


「げっ、玄麻!」

「わりーな、ただ……見てたらさ」


 険しい表情をする白加に対し、ウインクをする玄麻。


「もう……! わかった。ただし雇われ役は私、あなたたちは見守るだけね」


 ほほを膨らませ、少し不満げな様子を見せつつも、白加は納得してくれた。親任せになるのは心苦しいが、それでシンマオの状態が分かるならそれで良い、と龍我は思った。


「え? お母さんは葉加瀬って人と会ってるんじゃないの?」


 しかし雀女は納得していなかった。


「メイドは私がならないとダメだよ」


 葉加瀬と全く面識がないのはこの中で雀女のみ。誤魔化せる可能性もあるが、万が一バレてしまっては振り出しに戻ってしまう。最悪の場合、メイド募集自体が消えてしまい、唯一の手段すら途絶えてしまうかもしれない。


「でも……」


 と何かを言いかけるが、白加はそのまま黙り込んでしまう。


 結局、龍我や雀女も奪還作戦に参加することとなった。

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