ep24 最後のクイズ
最後の問題は〈大逆転ヒットアンドブロー〉というクイズである。答えが四桁の数字になる問題に答え、桁数が異なるが答えに含まれる数字があれば一つにつき10点、桁数の数字を当てたら一つにつき50点という得点換算になる。
「見事ピタリ当てたら200点! 現在最下位の大場さんシンマオさんにも大逆転のチャンスがありますので最後まで諦めずに頑張ってください!」
古加藤の説明を聞き、カメラの見えない位置でガッツポーズを取る龍我。少し前まで本気でクイズに参加している父親を笑っていた人間とは思えない変わりようである。唯一の大量得点チャンスに思いをはせる。
「今回答えていただく数字はコチラ!」
中央の画面にはU字に別れた金属製の器具が映しされた。
「これは音叉という道具です。ギネス記録に載っている、最も大きい音叉が何メートルか、小数点以下二桁でお答えください」
相変わらずマニアックな分野からの出題。しかし当てずっぽうでも高得点は狙えるがために、諦めることもできなかった。
「何よこれ! 見当も付かないわ! これ十メートル以上は確定?」
後半に入ってから、大場は分からない問題があるとヒントを要求するようになっていた。
「そうとは限りません。その際は十の位を0と回答してください」
最終問題ばかりはアシスタントも厳しい。答えのヒントにはならず、ただ解答方法だけを伝えるだけにとどめた。
他の解答者が答えを捻って書いている中、シンマオだけは全くペンを走らせない。
「シンマオ、分かるか?」
そんな彼女のフォローを試みる。自身も正解のアテはないが、せめて当てずっぽうでも何かしらの解答は書いてほしい。
「分からないアル」
「だよな。俺も分からん。数字を四つ書くのは分かるか?」
「分かるアル」
「なら適当……自分がパっと思い浮かんだ四桁の数字を書いてくれ」
具体的にどの数字を書くかはシンマオに委ねることにした。だが、それでも彼女は手を動かさない。
「ワタシ、数字思い浮かばないアル」
適当な数字――これも感覚的なことなので、シンマオにとっては難題である。
「じゃあ……そうだ、これまでに見たことある四桁の数字の中で、一番記憶に新しい奴を書くんだ」
人間とのズレにもだいぶ慣れた龍我は、特に慌てず具体的な指示を出す。シンマオはそれにより、やっと解答ができた。
根拠のない数字に全てを賭け、最終問題の解答が終わった。
「さぁタイムアップです! えぇ~、誰から見ましょうかね。ん~っと、現在トップの中道さんから!」
司会台にあるモニター画面からは、四人の解答を司会者側だけでこっそりと見ることができる。小楠は四人の解答を見た上で玄麻を指名する。玄麻は、【10・98メートル】と解答していた。
「結構リアリティがある数字に見えますが、この根拠は?」
「まぁ20はないかなーって思って、一桁目は1に。んで後は前後にブレた時のことを加味して0,9、8って感じっす」
四回も出演しているためか、非常にこの問題にこなれていた。ピタリ賞を狙う事より、部分点を少しでも獲得しようとする狙いが見える。特に現在一位であるため、冒険をする必要はないということだろう。
「かなり無難な選び方をしてますねぇ」
「こういうとこ相変わらず真面目やなぁ~」
「ま、本気で優勝狙ってるんで!」
小楠に向けて指を鳴らし、玄麻はニヤりと笑った。
「次は葉加瀬さん!」
テンポ良く次の解答へと移り、表示された解答が玄麻から葉加瀬のものに変わる。解答は【2000】という、キリのいいものであった。
「僕はね~、二十メートルできると思ったんですよね」
葉加瀬は玄麻とは違い、少しでも得点を獲得しようとしていなかった。何も考えず、ただ思いついた数字を書いているようにしか見えない。
「なるほどぉ……。ちなみに古加藤さん、解答に同じ数字が入ってる場合ってどうなるんでしたっけ?」
「その場合でも得点計算は変わりません。桁数が合っていれば50点、そうでなければ10点です」
古加藤が手元の資料を見ながら説明。フリーダムな解答が繰り広げられる場所だからこそ、得点計算が特殊なこのクイズのルールは細かく明文化されているらしい。
「そうなると、正解に二つ以上0が入っていないと厳しい……えー、入っていることありましたっけ?」
「無いですね」
この時点で、最大でも100点しか獲得できないことが明かされてしまった。葉加瀬は自分の解答がダメだと悟り、眉を八の字に落とした。
「その反応、もしかして今回も?」
「まぁ……ねぇ?」
苦笑いをして小楠が答えると、同時に葉加瀬も諦めの笑顔を見せ、スタッフの笑い声が響いた。
小楠は笛を鳴らして仕切り直し、すぐに次の解答の話題に移すことにした。
「えー、それでは最下位のお二人、大場さんのほうから見てみましょう!」
大場の解答は【09・58】であった。
「これは、九・五八メートルってことですかね」
「そうそう。十メートル超えてるとは限らないって言ったからね。これヒントでしょ! それに何か、この数字聞き覚えあるのよ」
「それ、ウサイン・ボルトの記録じゃないですか?」
古加藤が補足を入れた。
「あーー! ハッハッハ! それそれ!」
思い出したように笑う大場。ツボにハマったのか、それからずっと机を叩いて笑い続けていた。
「あの……まぁいいでしょう。えー、では最後にシンマオちゃん!」
これ以上会話のキャッチボールをすることは難しいと捕らえ、最後の解答に移った。
シンマオの解答は【1283】、葉加瀬と同じく数字だけを書いていた。
「……これ、何でこの数字を導いたんでしょう? 根拠ありますか?」
小楠の問いには、妙な間が少しだけ挟まっていた。
「ワタシ、ここに来る時、この番号の車に乗ったアル」
シンマオは、自分が見たものに対してなら、細部までしっかりと覚えられる。記憶というより記録と言うほうが正確であろう。聞いたり話したりしたわけでなく、〈見た〉数字を解答したのも、指示に素直に従う彼女らしい。
「ナンバープレートですか? では当てずっぽうと」
「リューガ、ワタシの答え、アテズッポウなのカ?」
「うん、当てずっぽう」
「ワタシの答え、アテズッポウアル!」
小楠の耳には既に届いていたはずだが、シンマオは改めて言った。
「ということで様々な解答が出ました。果たしてピタリ賞はいるのでしょうか! 正解の発表です! 正解は……」
勝利の明暗を分ける番組最大の盛り上がりどころ、スタジオはドラムロールの音で発表を引っ張る。ここまで来たら最早神頼みしか残されていない状況、龍我は両手を合わせて正解をひたすら祈り続けた。




