ep25 ちょっと急展開
「正解は……」
ドラムロールの音の音はなかなか鳴りやまない。龍我の額には汗がにじみはじめる。
しばらくして、ついに音が止まった。
「12・83メートルです!!」
発表と同時に、金管楽器による華やかなファンファーレがスタジオに響き渡った。ファンファーレは生演奏で無くとも十分すぎるほどの迫力があった。そしてシンマオにスポットライトが当たる。
「え? 嘘? やった!? ほんと?」
ピタリ賞の豪勢な演出を受けるものの、龍我はその実感が湧かなかった。何度も周りに尋ね、耳にしたものが真実かの確認に注視してしまっていた。
最終結果はシンマオが250点、玄麻が150点、葉加瀬が70点、大場が60点となった。
「なんとまさかのピタリ賞! しかも偶然!! お見事!」
「そして最終結果ですが……見事250点のシンマオさんがトップで、優勝です!」
ピタリ賞への賞賛から、流れるようなテンポの良さで番組はエンディングへと向かい始める。出演者たちの温かい拍手でンマオと龍我は包まれた。
「ワタシ、優勝したアルか! 良かたアルな!」
「いやぁ~すごい偶然もあるもんですねぇ~! さぁシンマオちゃん本日のご感想を一言」
「すごく、いい気持ちアル!」
良し悪しの二択でしか感情がないシンマオは、感想も二つしか言えなかった。
「なるほど、シンプルイズベスト!」
小楠は身も蓋もない感想に適当な反応を見せた。シンマオとマトモな会話はできないと割り切っているのか、それとも収録が押しているからなのか、理由は定かではない。
「優勝したシンマオさんには賞品として……」
古加藤が優勝賞品の話題へと移った。その時、龍我はそれについて全く知らされていないことを思い出した。
「お徳用洗剤セットをお送りいたします!」
中央の画面に映し出されたのは、業務用と思われる大きなサイズの食器用洗剤が六つ。
ショボい、というのが龍我の率直な感想であった。
エンディングも撮り終え、収録は特に事故が起こることなく終了できた。優勝賞品は後日郵送で送られるという。
撮影が終わった瞬間、龍我は緊張の糸が切れて疲れがどっと顔に出た。
「お疲れ様。素人とは思えない大活躍だったわね」
収録一本を乗り切った息子を白加が労う。初めての収録ということもあり、玄麻と比べるとかなり評価基準が緩い。
「シラカ、ワタシはどうだったアルか?」
シンマオは自身の出来高が気になっていた。
「シンマオも良かったわ」
「そうカ! 良かたアル!」
褒められたことがよっぽど嬉しかったのか、両手を上げて喜ぶ。その様子を微笑ましく眺めていると、玄麻がペットポトルの水を飲みながらやってきた。余裕しゃくしゃくな顔は、経験の差を感じさせる。
「まぁ、無事終われただけでも良かったよな。白加のほうはどう? シンマオのほう聞いたんでしょ?」
「ええ。収録中にスタッフさんに聞いたけど……反応はあんまり」
龍我たちの収録の裏で白加は密かに貰い手を探していたが、結果は伴わなかった。手ごたえすら感じなかったのか、重々しいため息をつく。
「そっかぁ……まぁ簡単には見つからないか」
テレビ局でもダメとなると、中道家の行動範囲のおおよそでダメということになってしまう。幸い出禁にはならなかったものの、長い道のりは覚悟しなくてはいけなかった。
そう思っていた矢先、さらに別の人物が来る。
「あのう……そこのアンドロイドについてなんですが」
つい先ほどまで共演していた研究者、葉加瀬である。彼はシンマオのほうに手を向け、遠慮するように声をかける。
「ワタシか?」
アンドロイド、という言葉にシンマオは反応した。
「はい。もしかしてですが……本当に自我を持っているのではないでしょうか?」
葉加瀬が玄麻に向けた視線は真剣そのものであり、先ほどのバラエティでの緩さは全く無かった。
「分からないアル。リューガ、ワタシはジガというのを持っているアルか?」
シンマオは自分への質問だと勘違いした上、自我自体の意味が分かっていなかった。
「うん。まぁ、自我はあると思うよ」
玄麻の言葉を聞くと、葉加瀬はシンマオ以上に反応し、目を大きく見開いた。
「やっぱり……! すごいことですよこれは! 一体どこで彼女と出会ったんです!?」
興奮を抑えられず、両手を震えが止まらない葉加瀬。表情はものすごく輝いていて、それはまるで少年のようであった。前のめりでの質問には、龍我も思わず若干引いてしまう。
「えっと、俺が学校の帰り道に裏山で……」
「むむぅ……非常に興味深い。是非私の所で研究をしてみたい……!」
葉加瀬は鼻息を荒くし、体をそわそわと動かす。彼の中の探求心が掻き立てられていることは容易に想像が付く。
「おぉっ! ちょうどいいっすね。ちょうどこの子の引き取り手探してたんっすよ。色々条件あるんですけど、引き取れますかね?」
訪れた好機を逃さないように玄麻はすぐさまシンマオの引き取りを持ち掛けた。研究者であれば電気代は融通が利くものと考えられる上、機械という視点で興味を持っているのであればコミュニケーション面の対応も期待できる。まさにシンマオを引き取るには持ってこいの人物であった。
「もちろんです! 尽力しますよ!」
葉加瀬は玄麻の手を握り、野太い声で約束をした。
こうして、シンマオの引き取り手はあっさりと決定した。




