ep22 相当フリーダム
収録がはじまり、まずはゲスト紹介の時間となった。
「まずは中道さ~ん、四回目のご出演ということで!」
紹介は左端から行うのが慣例だ。画面には既に一瞬シンマオが映っていて、視聴者は疑問に持つはずだが、急いで触れることはない。こういった部分も、この番組の魅力の一つらしい。
「おぉ~、もうそんな? ヤバいねぇ。俺、そんなこの番組に合ってるぅ?」
玄麻はバラエティタレント、芸人でも俳優でもない謎のポジションの芸能人である。ノリの良さだけで二十年以上生きているのは、ある意味才能と言える。
「そりゃあもうねぇ!」
小楠が玄麻を持ち上げる。その後も上手いこと会話のキャッチボールをし、場の空気はすっかり温まった。
「続いて~! ウォウバさん!」
今度は玄麻の隣の席にいる、ひょろりとした女性の紹介の番である。名前は大場沙耶といい、元アイドルであり、その年齢は還暦を超えているそうだ。
「やだ~! 何その言い方! バカにしてるでしょ~!」
大場にアイドルらしさは全く感じられない。話し方も仕草も、そこらのおばさんと大差がない。
「いえいえ! そんなことはめっそうもございません! 二回目のご出演ですが、最近の調子はどうですか!?」
「調子は絶不調! 全然世の中の進化に付いていけないの! 私のお気に入りのお店があったんだけどさぁ、こないだ行ったらメニューが無くて! んで店員呼んだら! 注文するにはキューアルーコードよんでくださぁ~いって……もう! 画面は小さいわメニューは見づらいわで散々だったの! ほな普通に口で頼ませろって話ですわ! 昔はよかったねぇスマートフォンなんてのも無くて……」
まさにマシンガントーク。他の人に入り込む余地を与えず、ひたすら愚痴を述べまくる。
「ほぉ~、それは大変でしたねぇ! さぁ次行きましょう!」
このまま長話が続くかと思われたところで、小楠が話を強引に終了させ、次のゲスト紹介へ移った。テレビ番組の司会者にはタイムキーパーとしての役割も求められる。
「この方も二回目、葉加瀬さん!」
三人目に紹介されたのは葉加瀬という男性。下の名前は博士と言い、その名の通り機械の分野で活躍している研究者だそうだ。
「はいは~い。葉加瀬です~」
葉加瀬は気さくにテレビに向けて手を振った。
「前回は本業のほうが忙しくなると言っていましたが、半年も満たずにまた来ていただきました」
「あっはっは! 前にそんなこと言ってたんですねぇ、僕。今は本業暇です~」
葉加瀬は、かなりいい加減な性格であった。
「そうそう、こないだ雇っているメイドさんが怪我で休職しちゃいましてね、それから家がどんどん汚くなってるんですよ。僕の家で働きたい人は、ホームページからご応募くださ~い」
両手で下方向を指差す葉加瀬。放送では画面下部に自分のホームページのURLが映されえるつもりである。出演者が自由に宣伝を始めるのも、この番組の魅力の一つである。
「やらしいな! 個人的な宣伝するのやめてもらえます?」
お笑いのノリ、という体裁を保ちつつ突っ込んだ小楠は、葉加瀬とのトークをそれで切り上げ、ついにシンマオの番となった。
「さぁ! いよいよ参りましたね。え~、アンドロイドの、シンマオちゃん!」
「はじめましてアル! ワタシの名前、シンマオというアル!」
シンマオはカメラに向かって、テンション高く自己紹介を行った。両頬に人差し指を添え、愛嬌マシマシの姿は非常に可愛らしい。
自己紹介をさせたのは龍我だ。事前にカメラの先には多くの初対面の人がいるということを伝えたうえで、自己紹介するよう指示していた。
「いやぁ~かわいらしい! シンマオちゃんはどこで作られたのかな?」
接し方が良く分かっていない感じの小楠だが、シンマオから幼さを感じ取り、子供をあやすような口調でアプローチを行った。
「ワタシ、作られた場所分からないアル」
平常運転で淡々と解答。そこには身も蓋もなく、小楠は少し困り顔をした。
そんな様子に呆れ、大場が食ってかかる。
「あらあら、設定が練れてないじゃない」
「それはどういうことカ?」
「あなたねぇ……そんな面白みのない受け答えじゃ芸能界生き残れないわよ!」
大場はシンマオの席の後ろ、カメラに映らない場所を指差した。そこにいるのは龍我、万が一のことがあったらシンマオが頼れるように、わざわざ隠れていたのである。
「いや……! 俺は違うんですよ。シンマオに何かあった時のために……」
龍我は慌てて弁解をしようとした。
一見不自然な光景だが、解答者席にいるのがアンドロイドと言えば話は変わる。大場をはじめとして、ほとんどの人間は龍我が影に潜んでシンマオを操縦していると思い込んでいるのであった。
ピイイイイイ!
その時、小楠が首ぶら下げていたホイッスルを鳴らした。
「コラコラ! そういうのは言わないで上げてくださいよ!」
小楠は龍我のフォローに回った。大場の圧に押されないようという心意気を感じる。
「そうっすよ。この番組優しさで成り立ってるんですし」
玄麻も息子のフォローに回る。本当に自我を持つアンドロイドだということを番組中に触れても、説明が難しく納得してもらえるとは限らない。そのため、細かい事に触れないという手段が最善だという結論を、事前の打ち合わせで出していた。
「優しさで成り立ってるなら、もう隠れなくてもいいんじゃないですか?」
葉加瀬が隅に隠れる龍我に対して提案した。
「そうですね。顔を映したくないからマスクもありますよ」
古加藤も賛成する。
「リューガ、ワタシはなんと言えばいいカ?」
シンマオは早くもこの状況を〈万が一〉だと感じていた。




