2階(10)
突然の地響きに視界がグラグラと揺れる。
思わずよろめきかけたサムの右腕を俺は掴んで、その場で支える。
目の前にあった4つの扉————緑、黄色、紫、青の扉。
緑と黄色の2つの扉は左に、残りの2つの扉は右に。
まるで中央の空間を開けるように、部屋の隅へと地面ごと移動していく。
そして開いた中央の空間に、下から地面が湧き上がってくる。
その空間に現れたもの、それは新しい————真っ赤、な扉だ。
「これは……」
足元の揺れが収まる。
今端へと移動した扉の色の意味する所はおそらく————みんなの石の色だった。
緑、黄色、紫、青。
それは順番にラルフ、ユウリ、ギル、そしてサム。
だとすれば、今現れた赤い扉は———。
呆然と見つめる俺の腕の中でサムは自身の左腕を見る。
その顔には、ある一種の納得のような表情が浮かんでいた。
「エルの……優勝、ってことだね」
サムはそういうと、左腕にはめた腕輪を触る。
カラン、カラン、と音がして、その腕輪から石が外れる。
サムはその石を右手に握りしめる。
「サム……?」
サムは抱きかかえた俺の腕をゆるりと解くと、赤い扉の前にたった。
そして、その大きな扉を上からゆっくりと下へ眺めた。
「……やっぱり、エルには適わないな」
サムは扉の前で振り向いて、俺の顔を見てニコリと笑った。
そして、俺の眼前へと右手を向けたかと思うとその手を開いた。
————その右手には、綺麗な3色の石が並んでいた。
青いサムの石、紫のギルの石。
それから————ギルに一度奪われた、俺の赤い石だ。
俺の左手に揃う石は、黄色いユウリの石と、ユウリに一度奪われた緑のラルフの石だ。
躊躇う俺の右腕をサムがそっと持ち上げる。
そしてゆっくりと俺の右手を広げると、サムはそこに自身が持っていた3つを置き、俺の手を閉じる。
俺は————確かに、拳の中に3つの石が握らされたことを感じていた。
「これで5つが、揃うね」
「サム……いいのか?」
サムは静かに頷く。
俺は左腕にはめた2つの石をとる。
そして、赤い扉の前に立った。
ここで、俺が魔女に会う権利を得るのは、きっと————魔女の望む展開ではないだろう。
近くで見るとその扉には、何やら複雑な文様が描かれていて、正直あまり居心地のいいものではない。
しかし、この部屋と扉の仕掛けといい、改めて魔女の力量との差を見せつけられるようだった。
(だけど……この、赤い扉は現れた)
俺は5つの石を扉に一つずつ、はめていく。
緑。
黄色。
紫。
青。
そして————中心に赤い石をはめた。
「!」
その瞬間————扉が、ガタリ、と音を立てて中央から二つに分かれた。
「やっぱり、開く……か」
扉の中は光に包まれていて、その先は見えない。
俺は最後に、サムの方へ振り返った。
「俺は魔女の真意を知るために行くよ。そしてこの馬鹿げた呪いを解く」
その俺の声にサムは真剣な表情で頷いた。
「……うん。きっと、エルならやり遂げて帰ってくると信じてる。そしたら……」
しかし、サムは直ぐに少し不安げな表情を覗かせる。
俺はすぐにそれに気づいて、サムの前に一歩近づいた。
そして、何かを言いたげなサムの口を塞ぐように、その唇に人差し指を一本当てる。
「ちゃんと村に帰れたら、さっきの続き、しような」
「!」
————決まった!
俺は心の中でガッツポーズをする。
だけど、そんな悪ふざけを取る俺の態度にサムはきっと怒りだすはず————。
「あれ……?」
しかし目の前のサムは顔を真っ赤にして、自分の唇を左手の指の背で押さえている。
そして恥ずかしそうに俺をチラリと一瞬盗み見て、直ぐに視線をそらした。
「う、うん……」
————完敗だ。
サムの可愛さに心がこれ以上持たないと判断した俺は、サムの頭をよしよしと撫でると、直ぐに扉の前へと歩みを進めた。
「……いってらっしゃい」
背後でサムの声が聞こえる。
「……ああ、行ってくるよ、サム」
そして、俺は赤い扉の向こうへと一歩、踏み出した。




