2階(8)
真っ暗闇の中で俺は歩みを進める。
自身のカツカツとした足音だけが、反響して耳に響いてくる。
(いよいよ、か……)
————サムは、ギルバートにどこまで話を聞いたのだろうか。
————サムに会って、俺は何て話をしたら良いだろうか。
(帰りたい……サムと暮らしていた俺らの村に。……あの頃に)
きっと、これが————最終決戦になる。
そんな予感がしていた。
緊張で脳みそが沸騰でもしそうだった。
俺は、早くなった心臓の鼓動を落ちつけようと、これまでの冒険の日々を思い出す。
まず初めに浮かんだのは————病院で初めに目覚めた時、俺の顔を覗き込んでいたラルフの驚きの顔。
村の酒場で一緒に酒を飲んだ。
旅に出てからはサムと3人でテントを張って野外を過ごした。楽しかったな。
コルリの街ではドーナツを食べに行ったりもしたな。
俺がピンチな時は助けてくれる、そんな頼りがいのある照れ屋さんだ。
時折見せるその表情が、今でも可愛くて仕方なくて大好きだ。
思えば、こんなことがなければ、ラルフのそんな一面を知ることはきっとなかっただろう。
それからユウリ————大雨の中、ずぶ濡れになって駆けつけてきてくれた姿を今でも思い出す。
ユウリの家を訪ねて、おじいさんに境遇を聞いたあの日。
寂しそうに見せた帰り際のユウリの表情。
嘘を吐いていたことを話してもなお、俺を真っ向から好いてくれる純粋無垢な気持ちが嬉しくて大好きだ。
俺はおじいさんに言われた通り、ちゃんとユウリに外の広い世界を見せてあげられているだろうか。
正直、わからない。
それでも————ユウリが喜んで、楽しんで暮らせる世界だといいな、と今も思う。
ギルバート————いや、ギルは————。
初めて会った時から今までで、一番大きく変わった相手だと思う。
最初は俺のドS心に火をつけた、クールで冷徹なイケメン、正直それだけだった。
鏡の世界で見たギルの笑顔は—————優しかった。
そしてあいつの痛みと苦しみを知った。
俺に向ける目が少しずつ優しくなっていたことには、気づいていた。
それにしてもさっきの、笑顔と発言は驚きだったが。俺の料理はそんなにうまかったのだろうか?
ただ俺が、ギルの長年閉じた心を開けたのなら、それは————純粋に嬉しい。
あいつを苛めたい————、でも、あいつを究極に甘やかしたい————。
この気持ちを今、なんて呼べばいいのだろうか?
そして、————サム。
幼い頃の俺にとって、サムは俺の全てだった。
あの日、初めて公園で言葉を交わした事を今でも鮮明に覚えている。
公園で苛められていた俺を助け起こして、「友達になろう」と、そう言ってくれた。
ちょっと、思い出すと恥ずかしいけどな。
それでも毎日に絶望していた俺にとって、あれは世界が色を取り戻した出来事だった。
真っ暗な闇の中に居た俺に、手を差し伸べてくれた。
そう。サムは俺の————太陽、だった。
たとえ、サムにとって俺は大勢の友達の一人だとしても、俺はそれでも良かった。
余りにも眩しかったサムに、俺は————追い付きたくて————手を伸ばしたくて。
一人で弓の鍛錬をずっと続けたんだ。
それほどに俺は、サムに恋をしていた。
「今、なんでこんなに沢山のことを思い出すんだろう」
ラルフと、ユウリと、ギルと。
俺が嘘をついていた事を知っても、許してくれた。
じゃあ、サムは————?
こんなに懸命に俺を救ってくれようとしているサムは。
————許してくれるのだろうか?
今更になって全てを懺悔する俺を。
————認めてくれるのだろうか?
それでも、俺は全てを明かさなければならない。
気を抜けば、緊張と折れそうになる心に、涙が出そうだった。
「……」
その時、遠くで白い光がチラリと覗く。
「……明かりだ」
カツカツと響いていた足音が少しずつ小さくなる。
小さかった光は、進む度大きくなって、段々と向こうの景色がはっきりしてくる。
そして————光の先へ一歩、踏み出した。
まるでトンネルを抜けたように、周りの光が一気に降り注ぐ。
俺はあまりの眩しさに目を瞑る。
それから、ゆっくりと目を開いていくと、そこは大広間だった。
床には白いタイルが敷き詰められ、壁と天井には金色のいくつもの装飾が施されていた。
これまで見てきた城の内部の中でも、一番豪華な部屋といって過言ではなかった。
「ここは……」
そして、奥の壁には4枚の扉があった。
緑、黄色、紫、そして青。
その色の意味する所はおそらく————みんなの石の色だろう。
順番にラルフ、ユウリ、ギル、そしてサム。
さしずめ————5つの石を集めて、自身の色の扉から先へ進め。そんなことだろうか。
扉を観察してみると、やはり石をはめるための5つの穴があった。
そうして扉を観察していたその時、だった。
「もしかして、最後はエルと戦うことになっちゃうのかな、なんて覚悟してたよ」
「サム……!」
その声の主を確かめるまでもなかった。
俺は声が聞こえた後ろを振り向く。
「なんだか、さっき会ったばかりなのに、久しぶりって不思議な気がするよ。……エル」
そこには穏やかな笑みを浮かべた、サムの姿があった。




