2階(1)
ラルフが落ち着いた頃。
俺は『5つの石を集めて魔女に会う』というこのゲームに臨む意志を告げた。
すると、ラルフは特に否定することもなく「そうか、頑張れよ」と一言だけ、そう言った。
どうやら俺の生命が1年だった、というのが嘘だと知り、安心している様子だった。
ラルフはまだ地下に落ちた衝撃が身体に抜けていないのか、ここで休むと言った。
どうやら薬が必要な程度ではないらしい。
俺がサムに薬をもらうほどの怪我だったことと比べると、流石は頑丈な身体なのだろう。
「この武器庫は、中から鍵をかけられる。……少し休んでてくれ」
そうして俺はもとの大広間に出た。
後ろで武器庫の錠のかかる音がした。
*
「さて、と」
————一刻も早く、ユウリとギルバートを探さなくてはならない。
5人が初めに持っていた石の色は————
サムが青、ラルフは緑、ユウリは黄色、ギルバートは紫。
俺の手元にあったのは赤だ。
ギルバートが持っているのは、俺の『赤』と、自身の『紫』の2つ。
そしてユウリが、サムの『青』、ラルフの『緑』、自身の『黄色』の3つ。
もしも、俺が見つける前にユウリとギルバートが鉢合わせしたら。
どちらかに石が5つ全て集まるかもしれない。
————そうなれば、俺の負けだ。
魔女の真意を問いただす機会が失われてしまう。
————いや、まだギルバートが集めるならば、道はあるかもしれない。
俺の石を奪った真意は理解できていないが、少なくとも————魔女の呪いの全容は知っている。
ギルバートであれば、魔女に対して一歩踏み込んだ行動を起こすかもしれない。
それが俺の本当の呪いを解く道につながる可能性はある。
————だが、ユウリはどうだろうか?
(とにかく……早く2人を)
俺は地下2階から大広間のある1階まで上がってきた、先ほどの廊下へと戻った。
ここから、さらに2階へと昇る階段があったことは、さっき確認していた。
他の皆は、まず魔女のいる最上階を目指すだろう。
それに、まだ探索できていない場所を探すのも早めにしといたほうが良いはずだ。
2階にはまだ一度も上がっていない。
どこで一体何の罠があるかも、わからない。
(……そういえば)
武器庫の中から、手軽に扱えそうな小型ナイフなどの一部の武器が無くなっていたことも気にかかる。
普段武器の扱いをほとんどしていないはずのユウリが、それを隠し持っているのかもしれない。
————ユウリは、早い段階でサムの石を奪った。
————ラルフを襲った犯行は大胆かつ計画的だった。
階段をゆっくりと登っていく。
幅の狭い螺旋階段だった。
俺は踏み外さないよう足元を見つめながら、ゆっくりと登っていく。
(今、もっとも危険な状態といえるのは……)
「ユウリだよな……」
そして、俺は最後の段差を上り終えた。
————その時だった。
「ボクのこと、呼んだ?」
「!」
顔を上げると————すぐ目の前には、紛れもなくユウリの姿があった。
それからユウリは俺の顔を見つめると、にっこりといつものような笑みを浮かべた。
「どうして……ここに」
俺は突然の姿に動揺を隠せず、なんとか絞り出すように声を出した。
するとユウリは俺の発言に、不思議そうに首を傾けた。
「どうして……? 何を言っているの? だって」
ユウリは自身の両手を頬に当てると困ったような表情を見せた。
「おにぃに呼ばれて、ボクが、出てこないわけないでしょ?」
————その瞬間、ユウリの左手の腕輪が目に入った。
そこには————何の石もはまっていない。
「ユウリ……!? 石はどうしたんだ、奪った石は」
するとユウリは思い出したように自身の手のひらを返し、左手を見た。
それから「ああ!」と声を上げて、驚く顔をした。
「……もちろん隠したよ! このお屋敷、隠し場所がたーくさんあっておもしろいね! ……ボクって賢いでしょ? 力ずくで取られたらボクは勝てないもん」
するとユウリは俺から視線を外すと、急に虚空を眺めた。
それから「……おにぃを助けるのはボクなんだ」と、小さく呟いた。
その瞳に————もう俺は映っていないようだった。
「ユウリ……! 頼む、俺を見ろ」
そうして俺は一歩踏み出すと、ユウリの両頬をガッと掴んだ。
ユウリの瞳をまっすぐに見据える。
しかし、ユウリは全く微動だにせず、虚空を見つめる瞳は動かない。
「……おにぃにも、邪魔させないから」
するとユウリは、自身の懐に右手を伸ばした。




