1階(2)
(俺が……魔女に言われたことは)
(……ああ)
ギルバートが頭の中で返事をする。
俺の頭の中で伝えようとした言葉が、伝わっていることがわかる。
————これはチャンスだった。
————魔女の思い通りにならない、そしてこのゲームに俺が勝つために。
(……俺の生命を1年残して吸い取ったこと)
(ただそいつは、嘘だった)
(ああ……それから)
俺の呪いを解く方法は『”真実の愛” を手に入れる』こと。
俺の生命が吸い取られていないとすると、その方法も嘘かもしれない、怪しいものだ。
ただ俺が今するべきことは、ありのままのことを伝えること。
いずれ話す時がくるのかもしれない、そう思っていた。
でもそれは————俺の呪いが解けないまま、生命を落とす。そういう時だと思っていた。
まさか、こんなタイミングとは。
————俺は、決意を固める。
(ある……別の呪いをかけた、と)
(!)
ギルバートが息を飲む音が聞こえる。
俺にとってこのゲームの勝利条件は、実は————2つある、そう思っていた。
1つ目は簡単————『誰よりも早く石を5つ集めてゴールすること』。
これなら呪いを解く方法を誰にも知られなくて済む。
もちろん誰かが先にゴールした時点で、言わずもがなゲームオーバーだ。
そして2つ目————『呪いを解く方法を、俺にかけられた呪いを、自ら皆に告白すること』。
これは魔女のゲームを根本的なところから覆す、魔女への裏切りだった。
こうなった以上、もう誰にも後ろめたい隠し事はなく、俺にとっては誰がゴールしようが関係なくなる。
ただ当たり前だが、 ”真実の愛” を手に入れることからは遠ざかる。
————当たり前の話だ。
魔女と以前からやり取りしていたことが、皆にわかってしまう。
ここまでずっと呪いを解くために俺に協力してくれていたのだ。
それを知ったら皆はどう思うだろう?
それに、こんな馬鹿げた呪いを、更に俺が利用したとわかれば、きっと————いや、どう考えても俺のことを軽蔑するだろう。
————それでも、俺の生命が1年でないとするのなら。
————俺は死なない。
もう魔女に従わなくてよくなる————そして、何よりこれ以上は皆を巻き込まなくてすむ。
ただそれは魔女への裏切りであると同時に、慕ってくれた皆への裏切りかもしれない。
————それでも、俺は。
————それでも、俺は。
目を開くと、ギルバートが真剣な表情でこちらを窺っている。
————みんなと真摯に向き合いたい。
それなら。
まずは一番冷静で、かつ魔法に関しても知識の深いギルバートに話すのが、勝利への可能性が高くなる、と判断した。
だから。
————ギルバートに伝える。たとえ、それが間違いだとしても。
(ギルバート。呪いを解く方法は…… ”真実の愛を手に入れること” だ。
……その呪いの効果は、相手に触れている間)
俺は自身の心臓がバク、バク、と音を立てていたのを感じていた。
(自分のことを……『好き』にさせること)
————今まで抱えていた”秘密”をついに明かしてしまった。
この心臓の鼓動が伝わっていないことを願う。
額はくっついたまま。
ギルバートは沈黙していた。
「……なんだそれは?」
その時、呆れ果てたギルバートの声が聞こえた。
この緊張感にそぐわないほどの声音で。
(ギルバート、声に出てるぞ。……本当のことなんだ。魔女に言われた、そのままだ)
(……馬鹿げている。お前の生命は取られてない。その呪いが事実だという証拠はどこにある)
証拠なんてない。
それでもこの呪いは本物だと確信を持って言えた。
————ここまでの事を思い出す。
————俺が皆に触れて、おかしいと思う瞬間がいくつもあったはず。
(……ないよ。ギルバートがそう感じていてくれていないなら)
俺はだらんと垂らしたままだった両手を持ち上げて、そっとギルバートの両の頬に添える。
するとギルバートは「ン……」と声を漏らして、肩を小さく震わせた。
そのまま俺はギルバートの頬に触れ続ける。
少しだけその両手に力を込めて。
ギルバートの頬から伝わる————柔らかな感触と、確かな体温を感じていた。
触れている額が熱を帯びていた。
それが、自分のものなのか————ギルバートなのか————次第にわからなくなる。
(……くそっ)
そう声が聞こえると、俺の頭を抑えつけていた両手が外された。
そして、その両手は俺の手首を掴むと、ゆっくりとギルバートの頬から外された。
(……確かに、お前の異常な魔力の量も……それなら、納得できる)
(じゃあ信じてくれる、ってことでいいんだな)
ギルバートは何も言わなかった。
認める、とも、認めない、とも。
(ごめんな、ギルバートは俺を嫌いだというのに)
(……)
(……俺はこれまでギルバートに意地悪をしてた)
(……ッ)
ギルバートは不服そうに何かを言いかけたが、口を噤んだ。
その言葉を多分、聞くことはできない。
そう直観した俺は、これからのことを話すことにした。




