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魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第4章 魔女の館と想いの錯綜
59/75

★1階(3)

俺の生命が取られていないとするならば、魔女が俺に嘘を吐いていたことは明らかだ。


————何が、真実で。

————何が、嘘なのか。


俺は確かめなければならない。


そう考えていた時。

俺はとあることをギルバートに伝え忘れていたことに気が付いた。


(そういえば……この呪いってさ、”男” にしか効かないらしい)


その言葉にギルバートの眉がピクリ、と動くのがわかった。

ほんの少しの間————時が、静かに流れるのを感じる。


(…… ”真実の愛” ってなんなんだろうな)


(……え)


伝わる声音が余りに真面目で、それが一瞬ギルバートのものなのか、わからなかった。


俺は、鏡の中の世界で見たギルバートの過去————を思い出す。

ギルバートと、彼と恋仲だった青年と。


(……俺に聞かないでくれよ。それがわかってたら、もうとっくに呪いは解けてる)

(……全くだな)


(ちなみにこの呪いを受けるのは、本当は……サムの方だった)


そうなのだ。

魔女はサムのイケメンぶりを偉く気に入っていて、呪いをかけようとした。

それを邪魔したのが俺なのだ。


すると、ギルバートは何かを察したのか————ハァ、と小さくため息を吐いた。


(……そうか。……結局、あの魔女様のご趣味ってことか)

(うーん、そう……だな)


俺は魔女に対して疑問を抱いていた点について、ギルバートに尋ねる。


(なぜ魔女は俺の生命を奪った……と嘘を吐いたんだと思う? 今まで魔女は誰かの生命力を吸い取って若さを保っていた。俺にもできないはずは無いと思う)


(……知らん。まぁ……冷静に考えればお前への圧力……急かすためだろう。魔女は単なる娯楽の一環で男を誑かす呪いをかけた。生命を1年にしたと嘘を吐けば、お前はそれを解くために躍起になる)


(……確かに)


(結局、呪いが解けなければ、お前の生命は継続したまま。……1年が過ぎても魔女は翻弄されるお前を見て楽しめる……そんなとこだろう)


俺は、ギルバートの余りの完璧な理論に感嘆としていた。

それなら、わざわざ生命を奪い取ったと嘘を吐いて、呪いは本物であることに筋が通る。


(……さ、流石だな、ギルバート。俺は考えもしなかった)

(全くもって、その感情に理解はできないが、な)


俺は魔女の極悪さ————に、改めて、辟易としていた。


(……それで、お前はこのゲーム、どう動くつもりなんだ)


————そう。

————そのために、ギルバートに相談しなければならない。

————このゲームに、本当の意味で勝つために。


(俺は、このゲームに勝って魔女に直接会う。なぜ嘘を吐いたのか、その真意を知りたい。それに、どのみち……文句を言わないと気が済まない)

(ふん……くだらんな。まぁいいんじゃないか。……それで?)


(……俺は魔女の思い通りになりたくない。だから、そのために今ギルバートに伝えたことを、ラルフ、ユウリ……それから、サム、全員に言おうと思う)

(……その人を誑かす、くだらない能力のことか?)


(あぁ、そうだ。だから石を5つ集める。……俺の呪いを解く方法を知ったなら、皆が石を集める必要はもう無くなる)


(……)


(たとえ、それが魔女の裏切りと同時に……皆への裏切りになったとしても、な)


(……)


俺がせき止めていた気持ちを吐露すると、ギルバートは再び静かになった。

熱くなった顔と裏腹に————触れている額が、心なしか冷たく感じられた。


(なぁ、ギルバート……何か、言ってくれよ)


————しかし、頭に声は響かない。


(皆に、俺は許されると思うか……?)



(……俺のこと軽蔑したか?)





(……ギルバート?)





————頭に声は響かない。





(ギルバートは、俺の事を……許してくれるか?)





その時————ふ、と息を吐く音がした。





(……どうして、お前は……俺に最初に話した。……俺なら、お前にかけられた呪いを聞いて……理解する、と。……そう、思ったのか)





————突然、その声に胸が締め付けられるようだった。


頭の中に響いた声からは、怒りのような、悲しみのような、感情を覚えた。





(一番ギルバートが冷静に聞いてくれる……判断して、アドバイスをくれる……そう思ったんだ)


(……それは俺の性格のことを言っているのか? ……それとも俺が、お前を嫌っているからか?)


————ギルバートのその声音に、俺の思考はぐるぐると回っていく。

————その質問の意図を考える余裕は、なかった。


(……ど、どうしたんだ? ギルバート)


(答えろ)





まるで熱に浮かされるように。

自分の立つ地面がぐにゃり、と歪んだように、足元がふらつく。





(……両方だ)





————やっとの思いで、その言葉を頭に描いた時だった。





「あ」





俺の頭を抑えつけていたギルバートの両手がすっと離れる————。


次の瞬間————。




闇。




視界が真っ黒に閉ざされる。


————目は開いている、のに。





「ギルバート……!? お前がやってるのか!?」



————叫ぶ。



————しかしその声は、どこに反響することもなく宙に消える。



————応答はない。



上も下も————真っ暗な空間の中で、一人ポツンと、立たされている。





















「エル」





そう耳元で、聞こえた瞬間————。



————この声は。



俺が後ろを振り返るが、そこには————誰も、いない。





その時、真っ暗闇の中で————。



俺の両肩にポンと確かな体温と柔らかな重みが乗った。



————これは、手の平————なのか。





「ギルバート?」









————途端、口を塞がれた。





「ンっ……」





感じるその柔らかさと、体温————は、確かに唇だった。


舌の先がユルリ、と口の隙間を縫うように侵入した。


一度許したその空間からは————強引に侵されていく。


お互いの鼻が少しだけ、触れた。


肩に乗せられた両手に力が、次第に込められている。


互いの温かな唾液が口の中でニルリと、絡み合うのが、わかる。





俺は目の前の存在を確かめたくて、手を伸ばした—————。





しかし、その瞬間————。





「あ」





触れていた唇が突然、離れ————伸ばした手は、空を切った。





再び、闇の中に一人、放り出される。





















「……心底、お前の事が嫌いだ」









「ギルバート……?」









「……お前が俺に ”呪い” を、かけたんだ」





「!」





「……少しは俺のことも考えろ」









————突然、ぱっと光に照らされる。


————辺りを覆っていた闇が一瞬にして、晴れる。





「ギルバート!」


俺は再び両の手を伸ばす。


しかし、手は何に触れることもなく。


目の前にいたであろう、ギルバートは————居なくなっていた。


先ほどまで見ていた武器庫の景色だけが残される。





「ギルバート……」





空を切った手を————見つめる。





「あ」





その時、ある、大事なことに気が付いた。


左の腕輪についていた、赤い石が————無くなっていた。



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