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魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第4章 魔女の館と想いの錯綜
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1階(1)

「……どこで魔女が聞いているかわからない、こっちへ来い」


そう告げたギルバートが歩いていくので、俺は黙って後についていく。

案内された扉は重厚な鉄の重々しい形で、扉を引くとギギギと軋んだ音を立てて開いた。

扉の向こうは————いわゆる城の『武器庫』だった。


「……すごい部屋、だな」

「……ここなら内側から鍵もかけられる」


ガチャリ、とギルバートが錠を閉めた音がした。

武器庫の中には、弓矢はもちろん、大型の剣、槍、鉄球のほか、鎧や盾もそろっており、それらが整然ときちんと並べられている。

その中で、小型のナイフや飛び道具の並ぶ棚に誰かが取り出したように、いくつかの空白があることに気づいた。


抜けた武器の棚を見つめていると、ギルバートが口を開いた。


「俺が見つけた時には、既になかった。……俺より先に来て、誰かが持って行ったんだろ」


俺は空白の隣にあった小さな投げナイフを手に取った。

幼いころ、村の訓練で使ったことのあるのと同じような型式だ。

これなら非力な子供でも扱うことができる。


「ここまでの出来事を包み隠さず、全て今ここで声に出して話せ」


ギルバートは腕を組んだ姿勢でこちらを見つめる。

その表情からは、いつも以上の凄みを感じて、俺は一瞬、そのオーラに怯む。


それから、先ほどサムにした話とほとんど同じような話をした。


ラルフと合流し、迫る壁に押しつぶされそうなところを救われたこと。

ルイに突然、ラルフの石を奪われたこと。

それを追ってユウリの罠にかかり、ここにラルフと落ちてきたこと。

それから。怪我をしたサムに薬をもらったこと。

サムもユウリに石を奪われたこと。

魔女に勝つ作戦を練るためにギルバートを探していたこと。





「……俺が魔女の館に入ってからは、これで全部だ」


俺が一通り話し終えるまで、ギルバートは一言も言葉を発さなかった。

それから、こう一言だけ告げた。


「ユウリのじいさんからもらった『生命力を削って治癒力を高める』薬を飲んだ。……間違いないのか」

「……ああ。なんか小瓶に半分くらい。澄んだ綺麗な青い色をしてた」


そういうと、ギルバートの顔が大きくため息をついた。

ギルバートはキッと俺を睨むと、再び怒りのオーラをまとう。


「えっと……それでギルバートの話ってのは……?」

「チッ」


ギルバートは大きく舌打ちをした。

すると、組んでいた腕をほどいて、俺の目の前までガツガツと歩いてくる。


————瞬間、首元に小さな衝撃が走る。


「ウッ……」


ギルバートは俺の首元にあった紫のペンダントを掴んでいた。

その手に、ぐっと力が込められていくのがわかる。


「そ、それは……」


————その瞬間、「ポッ」と音を立てた。


ペンダントをつなぐ紐に小さな炎が宿ったのが見えた。

首に小さく熱が伝わる。





「まって」





“そのペンダントを外せば、エルはたちまち命を落とす”





————あの日。


————魔女の呪いを受けて、目覚めた病室でサムに言われた言葉。





「ま……まって」




しかし、その願いもむなしく。

一瞬で紐は燃え切れて、首にわずかにかかっていた重力が————解き放たれた。












 *


————時が止まっていた。


————息をしている。


突然、自分がまだ息をしていることに気付く。

俺はギルバートから離れるように後ろに両手をついて倒れる。


それから、今までの酸素を全部取り戻すように息をした。


「ハァ……、……ンンッ……! ……? ……生きてる」

「お前は馬鹿だ」


その言葉に一切優しさは感じられない。


「……本当にお前の生命が1年なら、あの薬が効くわけがない」

「……え、どういう」

「喋るな」


ギルバートはギロリと俺を睨む。


その凄みに驚いて、俺は目を伏せる。

目の前には粉々に砕け散った紫の破片が辺りに散らばっていた。

首元についていたペンダントは————もう、ない。


「……こっちへ来い」


俺はまだ整わない呼吸の中で、ゆっくりと立ち上がった。

それからギルバードにおそるおそる近づくと、その顔に内緒話の要領で右耳を寄せた。


————しかし、一向に声は聞こえてこない。


「……違う」


耳元で小さく声が聞こえたかと思ったその瞬間。

突然頭を両脇からガッと押さえつけられた。





「……え?」





途端、俺の首は90度ぐるんとギルバートの顔の方向へ回転させられた。

目の前にギルバートの整った顔がくっつきそうなほど近くにあった。


「え……あ」


瞬間、殴られると思った俺は勢いよく両目を瞑った。

視界が真っ暗になる。





————しかし、衝撃は一向にやってこなかった。


おそるおそる目を開けようとしたその時、額に柔らかな体温が伝わる。

俺は驚いて目を開けると、どうやら俺とギルバートの互いの額がくっつけられていた。

ギルバートは相変わらず俺の頭を抑えつけたまま。


————どういう状況だ?


しかし、ギルバートは何も言ってこない。

この密室で2人、額をくっつけあってどういう状況だ。



(……お前の頭の中に話しかけている。……お前の考えは、これで、わかる)


(!)


————頭の奥深くにギルバートの声が響く。不思議な感覚だった。



(……どこで誰が聞いているかわからないからな)


ギルバートにそんな技があったとは、驚きだった。


それよりも先ほどから驚くことの連続で、頭の中は混乱に陥っていた。

俺の生命の全てといわれていたペンダントは、目の前で粉々に砕け散っている。


『お前の生命が1年なら、あの薬が効くわけがない』、ギルバートは確かにそう言った。





————お前の生命が1年なら。


————俺の生命は魔女に取られていないと、そう言っているのだろうか。





————じゃあ、俺はここまで何のために?





(……お前は、一体あの魔女に何を吹き込まれてる。……話せ。今ここで)


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