★夢と現実の狭間の中で
※一部に性的表現があります。苦手な方はご注意ください。
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ギルバートとの儀式を終え、俺は自室に戻っていた。
ベッドに入ると、今日は修行をしていないはずなのに、いつもよりなんだか身体が怠く重い気がした。
少し、ギルバートへの魔力を供給し過ぎただろうか?
あれほど降っていた土砂降りの大雨も今は止み、部屋の中は静寂に包まれている。
全身に感じる布団の重みと温かさに身を預けながら、俺はユウリの事を考えていた。
―――ユウリは今頃ちゃんと寝られただろうか?
―――部屋まで様子を見に行った方がいいだろうか?
しかし、その度に「今日はそっとしておけ」というギルバートの言葉に思い留まっていた。
そうして思考は何度もぐるぐると渦を巻き、次第に意識が遠のきかけた頃。
コンコン
と、部屋にノックの音が響いた。
「おにぃ……起きてる?」
その瞬間、ずぶ濡れになったあの時のユウリの顔が思い浮かぶ。
俺は手に一瞬で力をこめてベッドから起き上がった。
ドアノブを開けると、枕を抱きしめたままのユウリがそこにいた。
着ているパジャマは明らかにユウリのものではない大きさで、袖はだるんと持て余していて、ズボンの裾は床を引きずっていた。
ユウリはぼんやりとした顔のまま、枕を強く抱きかかえて俺をじっと見つめている。
俺は丁寧にユウリのパジャマの袖をまくってあげた。
「おいで」
そして現れた小さな手のひらを優しく引くと、ユウリは大人しくベッドに一緒に入った。
しかし、そうしてもユウリは笑顔を見せなかった。
ユウリは街にいた時の破天荒な明るさが抜けて、まるで抜け殻のようだった。
ここに来るまでに一体何があったのかわからないが、普通であればコルリからは1ヵ月はかかる道のりだ。
並大抵の苦労でここにたどり着いたのではないのだろう。
俺はベッドの中でユウリを自身の胸に抱きよせると、頭を優しく撫でた。
するとユウリの肩がびくっと震える。
「……ッン……ェグッ……」
押し殺すような泣き声と鼻をすする音が、静かな部屋の中に響いていた。
*
しばらく時が経ち、ユウリは落ち着いたようで、ポツポツと話を始めた。
「おにぃが……どこにも居なくて……ボク、街中たくさん……探したんだ」
俺はできるだけユウリの話を遮らないよう、「うん」と優しく相づちだけを打った。
「もしかして、ボクを置いてもう……旅に出ちゃったんじゃないか、って初めは思ったんだ。でもおにぃが……そんなはずない……って、探したの」
胸の中でユウリがもぞもぞと動きだす。
そしてユウリは顔を上げて、胸の中から俺の顔を上目遣いに見ていた。
「旅人が……誰かにころされかけた……て聞いたの。もしかしたらって思って調べたら、おにぃだってわかった。ギルバートさんの故郷にいることもわかった」
ユウリの瞳がゆらりと、揺れる。
「それからはもう、居ても立ってもいられなくて、ボクも、もうちゃんと覚えてないんだけど……。おっきくしたルイに乗って、ここまで来たよ」
ユウリはまるで俺の存在を確かめるように、自身の体を俺に何度も押し付けてはぎゅっと抱きしめる。
「怖かっ……」
「ありがとう」
俺はユウリの頭を優しく撫でた。
すると、ユウリは「えへへ」とようやく笑顔を見せた。
「ボク一人でこんな遠くまできたことなかったから、大雨の中怖くてたくさん泣いちゃった。でも、おにぃにもう会えないかもしれない。……って思ったら……それが一番怖かったよ」
ユウリのその言葉に、今度は俺が泣きそうになる番だった。
俺の泣きそうな顔の反面、ユウリは不思議そうな顔を向けた。
「おにぃ、なんか当たってるよ……?」
その一言で俺の涙は一瞬で引っ込んでしまった。
当たっているというのは、もしかしなくても―――
「……これは、生理現象ってやつだよ」
「せいりげんしょう……?」
ユウリは興味深いように俺の下半身に目を向ける。
神様、今この瞬間だけでも俺を、誠実な人間にしてください。
「ボクも、おにぃと一緒にいると、なんだかここがムズムズする……どうして?」
「まさか、自分でやったことないのか……?」
「自分でって……?」
「……普通は近所のお兄さんとかが、教えてくれたりするんだけどな」
俺はその発言をしてからハッと、ユウリのあの家を思い出した。
あの巨大なお屋敷におじいさんと2人、友達もおらず、閉じこもり続ける日々。
その環境の中では、どう考えても―――
案の定、ユウリは俺の発言にその顔を曇らせていた。
「ボクは、普通じゃないってこと……? おにぃは……そんな、ことをボクに言うの?」
「わ、わかった……」
ユウリのその発言に観念してそう言うと、今度はパッと笑顔を浮かべ、目を輝かせた。
その大きな瞳が、俺の顔を映し込んでいた。
その瞬間、俺の中の何かが外れて、自身の心臓がドクドクと鼓動を打っていることがわかった。
俺はユウリを抱きかかえながら、一度起き上がりベッドの上に座り込む。
足を延ばして、その間にユウリを座らせる。
ユウリは少し驚いた表情で俺を振り返った。
「怖くないから、な」
鼻先にユウリの髪が触れる。
その髪からはほんのりとギルバートの家のシャンプーの香りがした。
俺はユウリのズボンをゆっくりとずらす。
「右手を貸して」
そしてユウリの右手を優しく包み込むように取り、ユウリのものに当てた。
ユウリは俺の手が触れるとビクッと身体を震わせたが、拒否はしなかった。
―――もう、そこからは止められなかった。
「上下にゆっくり動かして、そうだよ」
俺はユウリの手を一緒に握りながら、少しずつ手を上下に動かしていく。
ユウリの耳の先が真っ赤になっているのがわかった。
ドクドクとした心臓の音がユウリのものなのか、自分のものなのか、次第に分からなくなっていく。
「お、おにぃ……やだ、怖い」
「大丈夫だよ」
ユウリはその手を止めようとする。
そこで俺は、ユウリの固くなった指先を一本ずつ、ほぐしてあげるよう、優しく握り返していく。
その手がまた落ち着くと、そのままもう一度当てて動かしていく。
しばらくそう続けていると、ユウリの口からはか細い息が漏れるようになっていた。
右手の動きはもはや自発的なものではない。
ユウリはもう力が入らないようで、自身の小さな体重を俺に預けていた。
「……おにぃ……なんか出そう」
静かにゆっくりと、その動きは続いていく。
「やだ……ぁ、あ」
その瞬間、ユウリの身体は小さく震える。
次第にもやが晴れていくように、俺の頭は急速に冷静さを取り戻していく。
やってしまった―――
「ほ、ほら、よかった。これが―――」
ユウリはベッドから勢い良く飛び上がり、
そのままバタバタと走り出し、
部屋を立ち去っていった。
扉は開かれたままで、走り去っていった廊下の先は暗闇に包まれている。
わかっていたはずだった―――
触れれば、その心を壊してしまうと。
自分の右手を見つめながら、ああ、夢であればよかったと、後悔をしていた。




