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魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第3章 闘技場とハーレム
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トンカチと雑音

翌朝、目を覚ませば、そこにはもう慣れてしまった日常があった。

次第に明瞭になる頭の中、突然、昨日の夜の出来事がフラッシュバックする。


「ああ……」


俺は両の手の平を見つめて、なぜあんなことをしたのか、考えていた。

ため息をついて、重い腰をベッドから上げる。



リビングに入ると、そこには珍しくラルフの姿があった。


「おはよう、ラルフ。久しぶりだな」

「おう、エル、おはよさん」


ラルフは俺に向けて笑顔を浮かべる。

しかし俺の心は晴れない。


「コルリにいたあのチビが来たんだな。あんな子どもで、度胸のあるやつだなァ」

「……そっか、もう会ったんだね。今ここにはいないのか?」


ラルフはきょとんした表情でこちらを見つめる。

どうやらユウリとの昨日の夜の一件までは伝わっていないようだ。


「さぁ……? どこだろうなァ。そういえばさっきトンカチはないのか、って聞かれたぞ」

「と、トンカチ……?」


突然のどことなく物騒なそのワードを聞いた瞬間、自分の心臓がドクドクと脈打つのを感じていた。


「わかった、ありがとう。ラルフ」



「ユウリー!」


俺は昨日ユウリが寝ていた部屋をノックする。

中から応答の声はない。

しかし、そこに誰かがいる気配がするのを確かに感じていた。


「ごめん、開けるよ」


ドアノブをゆっくり回して、おそるおそる扉を開く。

するとそこには、初めて出会った時の真っ白なワンピースを着たユウリがいた。

しかしその姿に全く似合わない、右手に大きなトンカチが握られていた。


「その、ト、トンカチは……?」


声をかけると、ユウリは後ろを振り返り、俺の方向を見てニッコリと笑った。

そのどこか不気味な笑い方に、ぞっと背筋が凍りつくのを感じた。


「……つぶしちゃえ、って思ったんだ」


俺はユウリが言うことが理解できずに、思考が止まりそうになる。


「昨日、おにぃに、その……。わかったんだ。……ボク男だったんだって」


俺は頭をフル回転させて、全神経を集中させていた。

ここで一言も言葉を間違えてはいけない、と頭のどこかで警笛が鳴っていた。


「だから、こんなもの……こんなもの! つぶしちゃえば、女の子になれると思ったんだ。そしたら、おにぃは、ボクのこと……」


ユウリはもう俺の方向を見ていなかった。

その視線の先は自身の下半身に注がれていた。

トンカチを握るその右手には力が込められていて、か細い腕に筋が入る。


「そのままでいいよ」


呟くように絞り出したその声に、ユウリはもう一度俺を見た。

しかし、ユウリは右手のトンカチを離そうとはしない。


もう一度。

もう一度はっきり言わなければいけない。




「そのままがいい、そのままのユウリが好きだよ」




その瞬間、ユウリの右手からトンカチが抜け落ちる。

トンカチはユウリの右足に当たらない寸前の位置に転げ落ち、鈍い音を響かせた。


「ほんとうに……? おにぃは、こんなボクがいいの……?」


俺はゆっくりとユウリに近づくと、震えるその肩を抱きしめた。



ユウリと1階のリビングに降りると、そこにはラルフとギルバートの姿があった。

そこに特に険悪なムードはなく、談笑をしている。

ラルフから聞いたことだが、どうやら俺が修行に行っている間など、情報交換として2人はよく会話しているらしい。



―――どうして、ギルバートは俺とはまともに会話をしてくれないのだろう。



間違いなく、意識的にギルバートは俺を避けている。


ならば、もっと嫌われてしまえばいい。


そう思うはずなのに、目から零れ落ちそうになるものはなんなんだろう―――?

悲しくなんかないんだからね!


「おう、エル! ……と、チビすけ! 2階から凄い音がしたが大丈夫かァ?」

「ユウリです」


ラルフの言葉に、ユウリは一瞬で反論をした。

その有無を言わさないピシャリとした物言いに、流石のラルフのたじろいでいる。


「そうそう、どうやってここまで来てくれたんだ?」


そう言うと、ユウリは俺の腕にしがみついてキラキラと目を輝かせた。


「犯人を捕まえてね、自白剤を使ったんだ。そしたらぜーんぶ! ペラペラしゃべってくれたよ。そこの、虎さんがギルバートさんの家までおにぃを運んでいったってところまで。……ギルバートさんのこの昔のおうちはおじいちゃんが知ってたから」


ユウリはラルフやギルバートを「さん」付けで呼ぶ。

しかし、そこには特別何の感情も感じさせなかった。


「本当にチビすけは薬が作れるんだな、すげェな」


ラルフはユウリに近づくと、やはり癖なのか右手でユウリの頭を撫でようとした。

その瞬間、ユウリはラルフの手を払いのけるでもなく、キッと鋭い目線で睨んだ。


「触らないでください」


その声音には、明確な拒絶があった。

ラルフは宙ぶらりんになってしまった右手で、自身の後頭部を掻いた。


その険悪な雰囲気に俺がおろおろしていると、


「で、お前はどうするんだ」


先程まで腕を組んで黙っていたギルバートが口を開いた。

すると今度はユウリはギルバートの方をきちんと見つめて、深々とお辞儀をした。


「ここに置いてください」


それから顔を上げると、今度はラルフを一瞥して、一瞬不満そうな顔を浮かべた。

そして俺とラルフ相手に再びお辞儀をする。


「どうか、ボクを旅のお供にさせてください」


ユウリのその必死な物言いに、3人で顔を見合わせる。

ギルバートはため息をついて、ラルフは困ったように自身の後頭部を掻いた。


「世話が焼けるな」

「別にいいんじゃねェか、エルがよければ、なァ」


その声にユウリはパッと顔をあげると、キラキラと眩しい笑顔を俺に向けた。


「……ようこそ!」


俺はそう大きな声で言うと、少し屈んでユウリに向けて腕を大きく広げた。

ユウリはしばらくそれを見てボーッとしたが、突然ハッと肩を震わせると、俺の胸に飛び込んでぎゅっと俺の腰に手を回した。


それを見ていたギルバートは盛大なため息をついて、ラルフは左手で自身の頬をポリポリと掻いていた。


俺は、ラルフとギルバートと、腕の中にいるユウリを順に見つめて、

「後はここにサムがいてくれたらな―――」と思いながら、一人天井を見上げていた。


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